▼真・女神転生ストレンジ・ジャーニー レビュー

 セクターEのボス戦で詰まってます。ってことで今日は、40時間ほどプレイしてみての感想を未購入者の方向けに書いてみたいと思います。


 今作の総評を真っ先に述べると、コンセプト、テキスト、音楽、戦闘バランス、テンポ、インターフェース、どれもハイレベルに纏まっていて、気軽に遊べるDSのハード特性とも相俟って、長年RPGのノウハウを蓄積してきたアトラスRPGの集大成とも言える高い完成度を感じます。
 悪魔との交渉、合体を軸にしたパーティ編成システムは、今作でも引き継がれているシリーズ最大の特徴ですが、悪魔を仲魔にして合体して強化し、敵を倒してLVを上げ、さらに高位の悪魔を従える、と言った一連の要素が淀みなくサイクルしていて、プレイヤーに常に新たな目標を提示し続けて目的意識を絶え間なく刺激する魅力に満ちています。
 同シリーズでは仲魔にできる悪魔は主人公のLV以下という制約があるため、強い仲魔を加えようとする場合、まずは主人公に相応のLVが必要になります。今作では総計300体に上る悪魔がゲーム内に収録されているとのことですが、これを単純に100で割ると、LV1辺り3体の悪魔が振り分けられている計算になります。LVが1つ上がるだけでパーティの編成が全く様変わりしてしまう可能性さえあるワケですね。多数の悪魔の存在するおかげで1LVの重みが非常に高いゲームになっています。
 パーティ編成の自由度はシリーズを通しての大きな醍醐味ではありますが、今作では編成のダイナミズムが特に際立っていて、LVが上がる喜びと期待感をこれだけ強く実感できるRPGは極めて稀です。RPGのキモの一つである育成の楽しさを十二分に味わえるゲームに仕上がっていますね。
 一つ難を言えば、パーティの変化が余りに急激なため、頭で予定していた合体計画がポロッと抜け落ちてしまうというのはあるかな、と思います。「LVが上がったらこの悪魔とこの悪魔を合体させよう」と計画していても、実際にLVが上がった際には素材にするつもりだった悪魔は既に他の悪魔と合体済みだったりして、当初の予定通りに進まず、モヤモヤっとした気分になる場面が少なくないんですよね。
 まぁ、これは自分の資質の問題もあるんですが、今回はスキルの継承条件がかなり厳格なことから悪魔合体を試行錯誤する時間が非常に長いです。これはゲームテンポを阻害する側面があるように感じられるので、先発の「女神異聞録 デビルサバイバー」に実装されていた合体逆引き検索が欲しかったなというのが一つ、実感としてはありますね。
 ただ、開発側の意図としては、そうした試行錯誤に手間を裂くよりは、簡単にスキルを継承できるデビルソースを使って、手早く悪魔合体を行って欲しい、というのがあると思います。ここはデビルソースを極力使わない自分のスタイルに根差した問題でもあるので、多くのユーザにとっては気にならない部分かもしれません。
 細かい不満点を挙げるとすれば、攻撃選択時のターゲットカーソルが見づらい点、カーソル記憶時の挙動に疑問符がつく点(敵ABCといる場合、Bを選択して倒すと、次のターンでカーソルの初期位置がCに来る)、リザルト画面の経験値表示、ダークゾーン用メインアプリのくどい演出などがありますが、これらは慣れで解決する些細なものではあります。
 不満点と言えば正直それぐらいのもので、冒頭で述べたとおり、今作は各要素が非常にハイレベルに纏まった秀作に仕上がっています。本作独自の要素、デビルCO-OPやデビルソースなど、聞き慣れないシステムも仕組みは簡潔に纏められてマニュアルも充実しており、ゲームを進める中で自然と理解できるように調整の手が行き届いています。


 シナリオはかなりハードで自分は好みです。導入から未曾有の危機に瀕した人類の姿をこれでもかとばかりに描き出し、グッと物語にユーザーを引き込む力強さに満ちています。
 人類最後の希望として送り出された特殊上陸艦4隻は、その任務に手を掛けた瞬間に撃墜の憂き目に遭います。ブラックホールのような亜空間、シュバルツバース内部に不時着したレッドスプライト号は、正体不明の見えない敵に襲われ、世界各国から集められた精鋭達は抵抗する間もなく殺されていく…… というのが大まかな導入の流れです。同シリーズでは最初は平和な日常風景を見せておいて、その後の大事件との落差でインパクトを演出する手法が主流でしたが、今作は最初からピンチピンチの連続で緊張感が凄まじいですね。
 ただ、一方で難解な単語や理論も多く、斜め読みをするとあっさり理解が追いつかなくなる部分もあります。恥ずかしながら初回のプレイでは「あれ、そう言えばなんでダンジョンに潜るんだろう?」と思ってしまったことが…… まぁ、キチンとドキュメントを見直せば行動する理由と目的がわかるんですけどね。
 全体的にテキスト量の多いゲームではありますが、Xボタンでメッセージスキップが可能、挿入されるムービーもスタートボタンでスキップ可能と、痒いところまで手が届いています。ストーリー性を特徴に挙げながらプレイアビリティまでは留意が足りないRPGが多い中、隅々にまで手が行き届いている細やかさはさすが老舗の貫禄ですね。


 とは言え、誰にでもオススメできるゲームかと言えばちょっと口を噤んでしまうことは否めなく、ゲーム性からシナリオまで性向としては非常にコア指向のゲームなので、世界観にノレるか否かで評価が分かれる側面はあるかなと思います。また、難易度も結構シビアなので、コツを掴むまでは息苦しさを先に覚えることもあるかもしれません。
 ゲーム自体の難易度について言えば、それほど厳しくはないと個人的には思っています。ゲームの難易度を表す言い回しには大きく分けて「難しい」と「厳しい」とがあって、この二つはややニュアンスが異なるのですが、本作は「難しい」けれど「厳しい」ゲームではないと考えています。
 瞬間的にヤバい、と思う箇所はあっても、そこで引っかかって延々進めないということはないというか。ジワジワと後を引く唐辛子の辛さというよりは、一瞬だけツンと鼻に抜けるワサビの辛さのようなものだと思っています。
 本作は初見殺し、事故死の確率が高いゲームではありますが、同時に対応策がゲーム内に用意されているので、準備さえ整えればキチンと突破できるように作られています。他のゲームでは初見殺し、事故死の確率が10%くらいだとすると、こちらは30%くらいある、という意味では難易度の高いゲームではあるんですが、初見殺しや事故死はその名の通り何度も続くものではないので、準備を整えて再トライすれば必ずクリアできるようには作られていますね。
 初心者にとっては敷居の高く感じられる3Dダンジョンもオートマッピングが常に下画面に表示されているため、感覚としては俯瞰型の2DRPGとさして変わりなく、アイテムの素材となるフォルマを道標に使うなど、3DダンジョンRPGの欠点である「安心感」をフォローするための工夫が随所に見て取れます。3Dダンジョンにつきものの様々なダンジョンギミックも、ゲームの序盤は極力存在を抑え、進行と共に歯応えのあるものが登場する形で、プレイヤーの習熟にあわせたレベルデザインが凝らされていますね。


 総括として最後に一言付け加えると、本作はRPGの醍醐味が一杯に詰め込まれた、非常に完成度の高いソフトだということです。作品に通底する重いテーマは人を選ぶ向きがありますが、世界観が肌に合うようであればこの上なく素晴らしい時間を楽しめるゲームであることは間違いありません。
 元々コアゲーマー向けに企画された本作は、一般性をある程度斬り捨てて、その分尖った調整を施されていて、今の時代には珍しい異質で挑戦的なゲームではあります。携帯機では、ドラクエポケモンと言った国民的RPGが発売されて間もない時期ではありますが、それらの作品に触れてRPGの楽しさを実感した方で、さらにディープにRPGを楽しみたいという意欲的なユーザにとって、この真・女神転生 ストレンジ・ジャーニーはまさに打ってつけのソフトと言えるでしょう。