▼ラジアントヒストリアのキャラクターについて
前回のレポートではユーザビリティや演出面などゲームの根本となる骨格の部分について触れてみました。手触りは客観的に良否を判別できる部分なのでまずはそちらを優先しましたが、立派な骨組みも全ては肉が伴ってこそです。
なので、今回は「肉」の部分、どちらかと言えば主観的な評価が滲みやすい、テキスト、キャラクターの味について感じたことを述べて行きたいと思います。
ラジアントヒストリアは、開発者の方が何度も言明しているように滅びの世界を舞台に様々な人々が織り成す群像劇を謳っています。ということはシナリオの中心となるのは何よりも「人間」、キャラクターです。キャラクターを語ることがテキストを語るための最短の近道ではないかなと自分は考えます。
キャラクターの評価ってのは何気に難しいものです。体験を通してしか感想を共有できないものなので、自分が「○○○はかっこいいよ! 魅力的だよ!」と言ったところで、「そんなものかね?」とまずは疑問が先立つのではないかと思います。それは自分も同じで、例えば開発者の方がキャラの魅力について熱弁を奮ってもイマイチ実感を覚えられないんですよね。
それはなぜかと言えば、キャラクターの具体的な言動を抜きに語っているからなんですよね。極力ネタバレを避けたい商品の性質上、それは仕方のないことではありますが、一方で多彩なキャラクターの織り成す群像劇が魅力の本作ではキャラクターに触れずして魅力の全てを語ることはできないんじゃないか、と前回のレポートを自分で読み返してみて思いました。自分がワクワクした部分について伝えきれていないように思えたんですね。
まぁ、自分がワクワクした部分はかなり主観的な、個人の趣味の入った部分なので、実際にユーザがソフトに触れた際に同じ感想を共有できるかどうかはわかりませんが、できるだけ具体的な言動を添えて、魅力を伝えられるように努めてみます。
さて、主人公の設定が固定的な、物語を追体験するRPGでまず求められるのは、主人公に「共感」を抱けるかではないかと思います。
それには人物の外面から内面を想像しやすいことが重要なんですが、事前の情報から極力耳を塞いで体験会に臨んだにも関わらず、自分は主人公ストックのパーソナリティをすんなりと掴むことができました。
任務の遂行を第一とする職業人。人との関わりを避けようとする繊細な人柄という感じでしょうかね。こういう内省的なキャラの場合、一歩間違えると自意識過剰だったりナルシストだったりでイタさを覚えるキャラクターにもなりかねないんですが、自分が触れた感じでは、まぁ、立場相応の安定した性格だなと感じました。
ゲーム冒頭で下されるとある任務の遂行のために、ストックは上司であるハイスから2人の部下を与えられます。ちなみにこれが上司のハイスさん。DSだと黒みが強くなるせいか、もうちょっと見た目の悪人度が高くなります。
※公式サイトのTwitter用画像をお借りしました。
しかし、ストックはこれを固辞します。彼は単独行動を好んでいるようですね。裏を返せば自分の腕に対する自信の現れでもあります。
ところがハイスはこう諭すワケです。
「部下だと思わず、自分が生き延びるための道具だと思えばいい」
ひっでぇ。これはひっでぇ。アンタの部下でもあるでしょうに。
そこまで言われては、とストックもハイスの申し出を承諾するワケですが、実はこの台詞が伏線となって、ストックは後に大きな決断を迫られることになるんですね。
その決断でさらに彼の隠れた人間性が浮き彫りになるのですが、序盤の一連のイベントを経て、外面から内面へと段階的に無理なく主人公の性格を開陳する構成は整っていて素性がいいなと感じました。
ちなみに自分の一番好きなキャラは実はハイスなんです。
イラストからして既に悪人の瘴気が漂っていますよね。油断ならなさ加減が半端ないです。
何よりハイスはゲーム冒頭からイメージ通りの胡散臭さを遺憾なく発揮してくれるので堪りません。
先程の話の補足になりますが、最初の任務を与えたストックに対し、ハイスはおもむろに取り出した○○○を持って行くように促し、ストックが「邪魔だからいらね」と断ると、「お守り代わりと思えばいい」と無理やり持たせるわけです。なんですかそれ、怪しすぎる……
ハイスは敵なのか味方なのか? どこで○○○を手に入れたのか? そしてその真意は一体? ……と、プレイヤーに対してシンプルながら大きな謎を提示してくれるのですね。
これはRPGの掴みとしては申し分ないなと思いました。単に自分がハイス好きだけなせいかもしれませんが。
ちなみにストックと同道することになるレイニーとマルコはハイスの部下でもあるワケですが、彼らはハイスのことを「ハイス様」と呼んでいて、有能な上司に対する順当な敬意を抱いているようです。
それだけを見てもハイスが単に腹黒いだけではなく、余人の人望を得るだけの計算高さを備えた人物であることが窺えます。ちょっとしたことではありますが、それだけでもキャラクターの奥行きが広がりますね。
あと、もう一人自分が好きなキャラクターはプロテア女王です。
※公式サイトのTwitter用画像をお借りしました。
初報を見た瞬間に革命の熱に浮かされた民衆の手によって断頭台に掛けられる女王の姿を幻視したんですが、ちょっと触れてみた感じ、なんだかんだで生き残りそうだなーとも感じました。もしくは改心して死ぬか。
「すまぬエルーカ。わらわは愚かな女じゃった。ぐふっ……!」
「お、お母様ーっ!」
「ふふっ、初めて母と呼んでくれたな、エルーカ……」 ガクリ。
「いやあああ、お母様ーっ!」
ベッタベタやぞ! ベッタベタやぞ! ゾックゾクするやろ!(サブングルの筋肉の人のポーズで)
……妄想は置いといて、思えばこのゲーム、王道のRPGという触れ込みでしたが、「王道とは一体何か?」と発表当時より久しく疑問に思っていました。
しかし考えてみるに、王道とはすなわちベタ。今の世の中では思わず赤面してしまうようなベタ中のベタをあるいはこのゲームでは徹底しようとしているのかもしれません。……いや、勝手な想像ですが。
まぁ、少なくともキャラの配置はすさまじくベタです。プロテア女王はヒロインの義理の母親という立ち位置ですが、義理の母親ってことはつまりアレです。継母。古来より連綿と続く悪女のアーキタイプですよ! 娘をイビってイビって、娘のヒロイン度数を上げていく宿命の存在です。
大体にして彼女の最初の台詞からして凄いですよ。圧制に苦しむ国民を他所に遊興に耽る典型的な暗君、女王プロテア。そして彼女に諫言する王女エルーカ。しかし、プロテア様の返答はこうです。
「国民にとって君主は理想の存在でなければならない!」
↓
「そして、君主が贅を尽くすのは国民の求める理想の生活を見せるため!」
↓
「つまり、贅沢は君主の義務なんだよ!」
な、なんだってー!
澱みのなさすぎる三段論法で一瞬納得しかけましたが、いやいや、それはおかしいでしょうよと。なおも食い下がるエルーカに対してプロテア様は、「兄と同じことを言っておる。お前の兄も愚かな男だった……」てなことを言って挑発するワケです。プロテア様はさらに続けて、
「愚かなあの男はたった一つだけ賢明な判断を残してくれたわ。それは……」
「このわらわに玉座を譲り渡したことよ!」
まさに外道。ホント人生満喫してますね、プロテア様。
台詞はぶっちゃけうろ覚えですが、ニュアンスとしてはこんな感じです。インパクト大でしたね。
とまぁ、まるっきり自分の好みで抜粋してみましたが、キャラクターの性格をストレートに伝える印象深い言動が作中には多かったように感じます。
基本的に自分はキャラクターイラストの良し悪しはゲームの良し悪しと直結しないと考えています。当たり前ですけど、優れたイラストは購買意欲を刺激することはあっても、シナリオの出来を保証するものじゃないんですよね。
ただ、このゲームに関しては、原案の高屋敷さんとキャラクターデザインのこにしさんがガッチリスクラムを組んでキャラクターの内面まで掘り下げたおかげか、「外面を見るだけで内面が窺える」、逆に「内面を見るだけでも外面を想像できる」、非常に息の合った二人三脚が実現できているように感じます。
そういう意味では、キャラクターイラストを見て、何かしら魅力を感じる点があるのなら、その魅力はゲームでも味わうことができるんじゃないかな、と自分は思っています。「キャラが気に入ったなら買い!」って表現は、まぁ、なんかキャラゲーの常套文句のようで好みではないんですが、少なくとも見たままのキャラを期待できる、というのは安心できる材料の一つではないかなと。そんなワケで参考にでもなれば幸いです。