▼カードゲーム、ドミニオンを触って思ったこと

 明日はポケモン発売日ですね。メタマ3以来の久々の新作ソフトで気が騒いでいます。やっぱり自分は新しいゲームに触ってないとダメな人間だよ……!
 そんなワケで、というワケでもないんですが、新作に触れる機会が途絶えていたので普段は触らないものを最近は触っています。今一番遊んでいるのが「ドミニオン」というカードゲーム。世界樹の迷宮真・女神転生SJを開発したランカースさんの社内で流行っているとの呟きからググッてみたら、「あ、面白そうだな」と思った次第で。自分でアンテナを高くして発見したというよりは、完全に偶然の出会いだったんですね。
 で、このゲーム、どんなゲームかと言えば、TCGで言うところのドラフト戦をゲーム化したカードゲームって感じでしょうかね。既に構築したデッキ同士でデュエルするのではなく、デッキを構築するバランス感覚と戦術を競うゲームって感じです。


 公式サイトはこちら。
 http://www.hobbyjapan.co.jp/dominion/
 ソース元がガジェットニュースなのがアレですが、簡潔で概要が分かりやすい記事です。
 http://getnews.jp/archives/55871


 自分は昔マジック:ザ・ギャザリングを遊んでいたんですが、何年か遊んでから離れてしまったんですよね。まぁ、一番の理由は、ありふれた話ですが、お金、ですよね。今でもマジックのゲーム性は綺麗で大好きなんですが、中毒性が高すぎて距離を取らないと危険なゲームだよなぁという認識は今でも強くて、TCGでは余計な出費のないコンシューマ系のものしか遊ばないんです。カードヒーローとかカルドセプトとかね。
 で、同様にTCGの軽度のトラウマを抱えてしまった人は少なくないと思うんですが、そういう観点ではこのドミニオン、極めてコストパフォーマンスに優れたゲームではあります。ドミニオンTCGのようなランダム封入のカードゲームではなく、UNOやトランプのように一品でセット一式が揃ったゲームなんですよね。感じとしてはボードゲームが近いのかも。自分、ボードゲームは買ったことがないのでわかりませんが。
 なので一度買ってしまえば後は飽きるまで遊べると。色々なカードの組み合わせで何百種類もの戦い方があるという売り文句も魅力的でした。まぁ、遊んでみてそれはちょっと言い過ぎかな、とも感じましたが。
 ルールは簡潔。それでいて奥深い。カードの種類は少なくとも様々な組み合わせでコンボを吟味できます。運の要素が大きすぎず小さすぎず絶妙の塩梅で、計算が生きる余地が十分にありながら、ここぞのドローで勝敗が左右されるドキドキ感を抱えてもいます。この辺のバランスはお見事。
 カードゲームとしての難点を挙げるとすれば逆転の要素が薄いことでしょうか。基本的に先行逃げきり型が強い印象を受けますし、劇的に強いカードが存在しないので淡々と進みがちではあります。シャッフルの多さ、面倒くささも遊び始めは気になりますかね。慣れると相手の手番にスムーズにシャッフルできるようになるんですが。
 ちなみにこのドミニオン、ソロで遊べるゲームではありません。いくら面白いゲームでも対戦相手はセットに入っていないので、十分に楽しめるかは環境次第なところはありますね。


 で、ドミニオンの概要については軽く触れつつ、今日の本題としてはですね、ドミニオンの商業的な難点について触れようと思ったんです。自分はまぁ、生粋のカードゲーマーではないので、コンシューマ方面にも繋がる点をちょっと挙げてみようかなと。
 ドミニオンの商業的な難点、それはズバリ「コピーが容易なこと」です。ドミニオンのカードの種類は、(マジックなら種類に数えるのも憚るような土地カード的なカードまで含めて)たったの32種類です。これは少しでもTCGに触れたことのある人なら絶対にひっかかる点なんですよ。「たったそれだけなの?」と。
 勿論、カード種類がコンパクトに纏められているのはゲーム的には大きな利点です。カードそれぞれの効果を覚えやすいですし、取り回しも簡単になります。無駄に死にカードを増やすよりも必要最小限の構成で済ませる方が美しいし親切です。
 コンポーネント的にはドミニオンは500枚のカードセットで構築されています。カード500枚と言えばトランプ10セット分。結構な分量です。ただ、カードゲーマーにとってはカード500枚は決して大きな数字ではなく…… 自分で手間暇かける余力があれば、ドミニオンのカードを「自作して」遊ぶことは現実的な範囲なんですね。
 TCGドミニオンで決定的に異なるのは、カードにコレクション性がないことです。ダミーカードを自作して遊ぶ行為はTCGにもありましたけど、仲間内で遊ぶならともかく、外に持ち出すにはちょっと恥ずかしいですよね。そういうカードが持つ希少性にTCGは価値を守られていたのですが、ドミニオンはそうではないと。姿形はどうあれ、遊べてしまえば偽物も本物も楽しさは同じなんですね。
 更に言えば、ドミニオンにもカードゲームの例に漏れず、新しいカードを追加するエキスパンションセットというものがあります。ただ、ドミニオンのエキスパンションセットって追加カードが5種類くらいしかないんですよ。たったの5種類。ビックリするくらいの少なさです。
 この新録カードにしても、ダミーカードを自作してそっくりそのまま遊ぶことができますし、極論すれば発売前に情報がネットに出回った時点で既にコピーが始まってしまう危うささえあります。


 更に言えば、ドミニオンはルールが極めて簡潔で、カードそれぞれの機能も整理されています。これは言い換えると凄くプログラムに落とし込みやすい。エミュレーションしやすいってことでもあります。
 素人の自分でもドミニオンシミュレーターを自作してしまおうかと考えてしまうくらい(ネットに高性能なシミュレーターが転がっているのを見てやめましたが)、ドミニオンのシステムは簡潔で上品なんですが、却ってそれがエミュレーションしやすい環境を産み出してしまっているという…… とても皮肉な結果になっています。
 しかもシミュレーターの方がシャッフル等の手間なしに快適に短時間で遊べるという側面もあったりして、こうなると本物を遊ぶよりシミュレーターのほうが楽しいという逆転現象が起きてしまったり。
 エミュレーションを阻むもう一つの安全弁として、ドミニオンは対戦ゲーム、相手がいない限り成立しないシステムになっています。が、これもネット対戦ツールが作られたりと、ローカルで対戦相手を探すよりも便利なシステムがネット上に構築されていたりします。


 とまぁ、こんな感じでリアル/ネットに関わらずコピーが容易すぎるドミニオンの商品価値はめちゃくちゃ危ういんじゃないかと変な危惧を抱いてしまうんですよね。ドミニオンの根本のシステムは非常に秀逸なコロンブスの卵でありながら、その商品価値には防御力がまったく備わっていないというアンバランスさ。
 ニッチな市場ということもあってか、実際にはそこまでモラルが崩壊していないようなのが幸いではあるんですが、薄ら寒さにゾッとします。
 優れたゲームを生み出したデザイナーや開発チームがきちんと金銭的に報われるようでないと発展が途絶えてしまいますからね。


 安易なコピーを防ぐためにはシステムを複雑化したり、コンポーネント(カードやコマなど)を増やしたりする方向が単純ではあるんですけど、単純な増改築はゲームとしての美しさが損なわれて敷居が高くなってしまうのが難点ではあります。
 ソーシャルゲームの界隈で有名ゲームのコピーが相次ぐのも、あれはゲーム自体の構造が極めてシンプルなのが理由の一つとしてはありますよね。コンシューマほど複雑なゲームは簡単にコピーできるものではありませんし、姿形を真似たとしてもキモの部分を見極めて再現するのは容易なことではありません。これまでマリオカート似のゲームがいくつ消えていったことか……
 カードゲームやボードゲームは人間が処理できる範囲でしか複雑化できないので、言ってみれば骨組みが剥き出しになっているんですよね。完全なオープンソースなワケです。
 そこが「ゲームの楽しさとはなんぞや?」を考える人間にとっては興味深い考察の対象にもなりうる点なんですが、楽しいゲームはコピーしやすい、が結論では余りにも悲しすぎるなぁと。元々ゲームは商業的な制約の上で構築されるものではあるんですが(アーケードゲームなら回転率の確保が必要とか)、ゲームがなぜ過剰な増改築を続けてきたのか、その理由の一端が肌身に感じられてちょっとショッキングでした、という話です。まぁ、この分野では全くの門外漢なので全く明後日の方向を向いた危惧なのかもしれませんが。