ゲームのパラダイムシフトや!

 マジでぇぇぇぇ!? 確かに堀井さんは「一番売れてるハードで出す」と前々から言ってたんで、そういう意味ではウソではないんだけど、携帯機にドラクエナンバリングが来るなんて笑い話にしか聞こえなくて未だにちょっと信じられない心境ではあったり。いやー、ビックリした。


 これはとにかく凄いことで、思わず「ゲームのパラダイムシフトや!」と彦麻呂風に叫んでしまいかねないところ。もはや据置機の時代は終わったとか、これはゲーム史上歴史的な宣言だぞとか、DSがまた加速するぞとか、Wiiへの波及効果はどうなるとか、スクエニ遂に任天堂に帰ってきたかとか、DQMJに追い風来たかとか、色々単発の感想はあるんだけど、ちょーっと落ち着いて俯瞰的に眺めてみようと思います。


 まずドラクエ9のゲーム内容はWi-Fiも使えるネットワークアクションRPG。「革新を目指すFFと守旧を貫くDQ」という構図は、ゲームファンならおなじみの構図なワケですが、ファミコンから数えて4世代、どこまでハードの処理能力、表現能力が上がってもその根底にはWizから繋がる古き良きRPGのエッセンスを残し続けてきました。それが今、9作目に至って大きく姿を変えようとしている。これは一体どういうことなんでしょうか。


 従来のドラクエナンバーズとドラクエ9の関係は言ってみればFFと聖剣伝説のようなものです(ハード的な比較としてはFFと初代聖剣、システム的な比較としてはFFと聖剣2が近いか)。この2つを同一のシリーズと見なすのは(初代聖剣伝説がFF外伝というサブタイトルがついてた分を差っ引いても)難しく、無理があるように思えます。更に同じスクエニのFFがMMOをナンバーズ扱いしている事を考えれば、ナンバリングの重みが昔とは異なってきているとも言えるのかもしれません。商業上の必要性からのナンバリング商法というか、要するにブランド商法ですな。
 「DS版は外伝的な存在ではなく、まぎれもなく本シリーズです」と堀井さんは明言しているのですが、同時にドラクエ10については次世代機で発売予定、とも発言しています。この次世代機が何を指しているのかは未だわかりませんが、次回作、次々回作を同時に発表するというこのスタンスはかつてのFF11の時と同じ保険を残すやり方で、「DSに一歩足を踏み入れつつ、マズかったら引き上げる」という用心深さを覗わせてもいます。そういう意味で果たしてDSで発売されるドラクエが、ドラクエの新たな本流となりうるのか、少々疑問の余地を残すところではあります。


 ただ、もしDSのドラクエ9が大ヒットした場合、かつて任天堂が保険に残したGBA2のように旧来の流れは雲散霧消する可能性もあるワケで、旧来のドラクエ、新風のドラクエ、どちらが新たな本流となって続いていくかはユーザに判断を任されるのではないかなと私は思っています。
 まぁ、だからと言って昔ながらのドラクエを全く消してしまうのはそれはそれで無理な部分があります。ユーザからの要望もあるでしょうし、商業的にも眠らせてしまうには勿体無さすぎるでしょうし。システムを大幅に変更したシリーズもののRPGと言えば真っ先にWizが浮かびますが、Wizが6以降にシステムを大きく変化させても旧来のシステムが篤く支持されたように、ユーザのクラシック嗜好は(特に日本においては)根強いものがあります。とは言えシリーズを重ね続けることで従来の路線の継承に限界が見えている箇所は多々あり、新規ユーザ層を開拓するためには新たな路線を模索していく必要性があるのも事実です。
 従ってスクエニの描いているベストな青写真は新風ドラクエと旧来ドラクエの並立であり、そのための観測気球として打ち上げられたのがドラクエ9の存在であると私は思うのです。
 なのでもし、ドラクエ9が新たなドラクエのスタンダートとしてスタイルを確立させた場合、旧来のドラクエスタイルはDQMに代表される傍系作品に受け継がれていくのではないでしょうか。ちょうどWizが日本発外伝シリーズにて旧来のシステムを堅持したように。


 まぁ、これ以上の想像は妄想にしかならないのでこの辺で止めておきますが、一つ確かなことは年末発売のDQMJが今後のドラクエの路線決定に関して大きな意味を持つことになったと言うことです。
 斬新な作風のドラクエ9の評価について、その基準点となるのは他でもない旧来のスタイルを継承しつつ独自の世界を持つDQMJです。もしユーザに受け入れられるのがドラクエ9ではなく、DQMJだったとしたら…… 動き出そうとしている新しいドラクエの芽はここでその命運を絶たれる可能性があるのです。
 旧来か、新風か、どちらのドラクエが開発者とユーザ、双方の求めるものなのか。その答えは続くドラクエ10にて明らかになることでしょう。


 個人的な期待度について述べると、マルチプレイ+ビッグタイトル+他ハードの構図がFFクリスタルクロニクルを思い出させてくれて微妙な気配も少々。FFCCGCで唯一合わなかったゲームでちょーっとトラウマになってるので、そんな記憶を吹き飛ばしてくれる面白いゲームになって欲しいですね。ドラクエなら身近でマルチプレーできる人が何人か浮かびますし。……異動さえなかったらね。ああぁぁぁ……




 にしても、今回はドラクエの影響力、発言力についてまざまざと思い知らされました。FFDQの発売はハードの戦略的勝利とほぼ等価なのはいい加減言うまでもない事柄ですが、そこで従来のパラダイムから逸脱したドラスティックな切り込み方をするところに日本のRPGの王道、誇りと自信が見え隠れして、ドラクエの強さと逞しさを感じた次第です。現在のスクエニの体質から言って方向性を見誤る可能性は低くはない、と危惧していた部分もあったのですが、いやはや、やっぱり一時代を築いた人間の嗅覚は確かだなぁと感服しました。
 で、チャレンジ精神に溢れるドラクエに対してFF関連の方向性については惰性で動いてるような、なんともモヤーンとしたものを感じずにはいられないんですが、こっちはこっちでどうなるんでしょうかねぇ。スクウェアエニックスでまたしても違いが鮮明になった次回作への布石。明暗がハッキリ出そうな気配がします。