▼采配のゆくえ レビュー

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 コーエーから発売されたDSソフト「采配のゆくえ」は、西軍の大将、石田三成となって関ケ原の合戦に臨み、諸大名と協力を果たして西軍を勝利に導くゲームです。とは言っても、本作はコーエーお得意のSLGやACTではなく、一風変わったADV仕立てのゲームとなっています。
 自分はTGSで本作を試遊したのですが、その時の印象は「うわ、まんま逆転裁判だ!」というものでした。ただ、雰囲気と触感がよかったので、ゲームとしては期待を寄せていたんですよね。
 で、実際に製品版をプレイしてみると、確かに取っ掛かりは逆転裁判風味なんですが、ゲームを進めるにつれて本作独自の魅力が溢れ出てきます。脇目も振らずガッツリと取り組んで、呼吸を置かずに一気にクリアまで突っ切った今では、本作は逆転裁判とは全く似て非なるもの、とハッキリ断言できます。熱い男達のドラマがこれでもかとばかりに展開される、大変良質なADVでした。
 魅力的な要素が沢山詰まった作品なので、「ここがいいんだよ!」と力一杯述べたいゲームではありますが、まずは簡潔に長所と短所を纏めてみます。各項目の詳細については以下で述べます。

欠点

× ボリュームが少ない。構成は十分だが、幅広さが欲しい。
△ SEやエフェクトを含めた演出が物足りない。



◎ 読ませるテキストと魅力的なキャラクター。読み物としてのレベルが非常に高い。


 ADVのキモはなんと言ってもテキストです。どれだけ魅力的な素材や設定を用意したとしても、書き手の力量が伴わなければ、空虚なだけの文字の羅列になります。ADVの良し悪しを決める最大のポイントは、まずテキストに魅力があるか、だと自分は思っていますが、本作のテキストは、読んでいてタッチペンを握る手が止まらなくなる秀逸なテキストです。
 軍記物を題材に取っている点から、ともすると重苦しい文面が続くのかな、と思いきや、芯の通った熱い語調と、軽妙なユーモアとが程よくミックスされていて、硬軟自在で振り幅が非常に広いです。構成も巧みで、緊張の連続となる合戦の合間に回想シーンを挟み込むなどして、上手く緩急をつけていますし、人物の生い立ちをサラッと流してクライマックスに繋げる伏線の張り方など、戦国時代への興味のあるなしに関わらず、誰でも楽しめる安定して質の高いテキストが盛り込まれています。
 テキストに関しては、もう「ADV好きを自称するなら、これは一度プレイしなきゃダメだろ!」と言いたくなる出色のデキです。自分もADVは人並みにプレイしているつもりですが、テキストでこれだけ満足感を得られたゲームは久しいですね。


 本作のキャラクターの魅力は、一言で言えば「意外性」です。元々、史実を題材に取ったゲームなので、キャラクターにしても下敷きとなる実在の人物がいるワケですが、そこはコーエーらしいアグレッシブな解釈が入って、見た目のインパクトや個性は実に強烈でユニークです。
 その上で、見掛け倒し、出オチで終わらないのが素晴らしい点で、各エピソードを通じてキャラの本性が明らかになると、初見で受けた印象が180度ガラリと変わってしまい、心地よい驚きと爽快感に浸れます。呆然とした直後に変な笑いが浮んでくることもしばしばで、キャラに振り回される楽しさを存分に味わえるゲームです。
 キャラのアニメーションも凝っていて、マンガチックで軽妙なリアクションが実に楽しいです。戦国時代、という半分ファンタジーな世界だからこそ許される描写というか、このノリはどちらかと言えば、「押忍!闘え!応援団」に近い部分がありますね。
 自分がこのゲームを気に入ったのも、シリアス一辺倒なストーリーではなく、いい意味でのケレン味やバカバカしさを存分にぶち込んだ、真面目にバカをやっている雰囲気が性にあったからだと思います。逆にそういうノリが苦手、という方にはちょっと難しいゲームかもしれませんね。


 あと、キャラは有名武将以外はモブ絵も多いんですが、これだと歴史の知識がなくても重要なキャラとその他のキャラの見分けが容易につくので、これはこれでアリかなと思います。まぁ、FEなんかでも、顔絵のある敵=強敵ってのはわかりやすい区分ですし。
 中にはモブなのに顔アリ武将並の活躍を見せる武将もいて、そういう武将はちょっと可哀想だなとは思いますけども。でも、主役クラスだけが活躍を独り占めするんじゃないのが、妙にリアルで自分は好きです。



◎ 全編に渡って漲るテンション。音楽が素晴らしい。


 このゲームの主人公である石田三成は、ご存知の通り、正史では徳川家康に敗れる立場です。その設定はゲームにも反映され、プレイヤーはとにかく劣勢を強いられ、息衝く暇もなく襲い掛かってくる難敵と対峙することになります。
 同時に石田三成は、敵対する西軍の武将だけではなく、味方であるハズの東軍の武将にも手を焼かされるハメになります。豊臣家の存続を願って集まったはずの東軍も、実は各々の大名が心中に思惑を抱えていて、極めて利己的な理由で勝手に戦端を開いたり、時には逃げ出そうとしたりします。
 そんな崩壊寸前の諸将になんとか協力を取り付けて、一致団結して西軍に立ち向かうのも石田三成の重要な役どころです。我の強い東軍大名の主張に悩まされながらも、論議を深めて友情を通わせ、協力して西軍と相対し、難局を打破していく本作のシチュエーションは、非常に熱い王道的な展開を見せてくれます。


 ゲームを始めてから終わりまで、とにかくテンションが途切れないのがこのゲームの凄いところですね。途中に挟まれる回想シーンは、プレイヤーが一息入れるための休憩所として機能しているのですが、関ケ原を舞台に繰り広げられるたった1日の大合戦は、全編を通して張り詰めるような緊迫感に満ち満ちています。
 その功労者とも言えるのが、各所で気分を盛り上げてくれる数々の勇壮なBGMです。ADVにおける音楽の重要性は改めて言うまでもありませんが、本作のBGMはどれもカッコよくて、ヘッドホンでプレイしたくなること請け合いです。
 曲数自体は控えめではあるのですが、ヒット率が実に高いです。今年プレイしたゲームの中でも5本の指に入る印象的な曲目でしたね。


 また、冗長になりがちな戦略パート(ADVパート)の割合を絞って、プレイヤーが直接操作できる合戦パートの比率を高くしたのも上手い配分だと思います。おかげでプレイヤーは、無為にフラグ立てに奔走する必要なしに、ダレることなく説得や合戦を堪能することができます。



○ 難解になりがちな合戦部分をパズル風味に簡潔に纏めている。


 合戦パートは、見た目は普通のSLG風にも見えますが、極めてシンプルなルールから正解の指し手を求めて熟考するゲームデザインは、どちらかと言えば、詰め将棋に近いものです。
 主人公の石田三成は、本陣で采配を取るだけで、実際に東軍と戦うのは戦地に散らばる各武将の役目となります。三成は武将達から「報告」コマンドで情報を集め、「伝令」コマンドで指示を下して、合戦を勝利に導く役目を受け持ちます。
 各武将には「戦闘」や「統率」や「兵数」といったSLGお馴染みのパラメータの類はなく、基本的にどんな武将でも1対1の対決なら戦力の拮抗した状態になります。将棋で言えば、全ての武将は「歩」です。
 当然ながら全ての駒が歩では、睨み合いが続くだけで勝負が終わりません。そこで拮抗を打破するために、各武将は所持する「作戦」を使って戦闘を有利に進めていきます。
 作戦には、縦列に並んだ敵部隊を一気に攻撃する「騎馬突撃」や、敵部隊を強制的にノックバックさせる「強襲」などがあり、これらの作戦を上手く活用することで数的に不利な状況を打開し、勝利を目指すことになります。


 この手の戦闘システムは、とかくリアリティを求めてパラメータが煩雑になりがちです。本作の合戦モードは、合戦の雰囲気を残しつつ、ルールを極力簡潔に纏め上げた点が白眉ですね。
 それでいながら、采配を駆使して劣勢を逆転するゲーム性は十分に味わえますし、動きが少なく地味になりがちなADVの弱点を上手く補完する役割を果たしています。


 戦略パートに関して難点を挙げるとすると、出てくるヒントが多すぎて、自力で難局を突破した、という爽快感が薄い点でしょうか。いつでもセーブが可能なシステムで再試行は容易いので、一度失敗した時点で初めてヒントを出す程度に留めて置いても良かったのではないかと思います。
 また、後半部分の戦闘は、戦場を跨いで強襲して騎馬突撃or鉄砲射撃の連続で、展開がやや単調です。それまでの進行と異なって合戦が続くので、余計にそう思えるのかもしれませんが、序盤からのルールをそのまま踏襲するのではなく、もう一段階高度な知的ゲームを楽しみたかったです。


× ボリュームが少ない。構成は十分だが、幅広さが欲しい。


 本作の最も残念な点はボリュームの少なさ。これに尽きるでしょうか。
 ハイレベルなテキストと音楽の織り成す歴史絵巻は、プレイヤーを物語に惹き込む確かな魅力があります。冒頭でも述べた通り、自分は一息でクリアまで直走ってしまいました。
 しかし、裏を返せば、本作のボリュームは一息でクリアできてしまう程度、ということでもあります。クリアまでの総計が約8時間で、この長さはADVとしては標準的かな、と思えるのですが、基本的にエンディングは1種類で、再プレイを促すような大きな分岐もなし、となれば、コストパフォーマンス的にはやや疑問を抱かざるを得ない部分があります。なので、ボリューム面に関してはもう少しサービスが欲しかったなと思います。
 まぁ、これは「ゲームは微妙だけど、暇潰しになる程度に元を取りたい」という後ろ向きなボリューム増加の希望ではなく、「面白かった! もっとこの世界を堪能したい!」という飢餓感から来る切望ではあります。多数のエピソードを抱える関ケ原から、「これぞ!」というエピソードだけを集めて枝葉を切り落としたからこそ、本作では凝縮された熱い人間物語を表現できているのですが、もっと欲を言えば、展開の幅広さが欲しかったなと思います。
 全体の長さとしては、短すぎず長すぎずちょうどいい按配なのですが、仮にも歴史を扱うゲームであるならば、史実に沿った展開と、全くのIFの展開と、物語の幅広さがないと、史実を知っている人間からはやや物足りなさが残ります。このゲーム自体は、基本的に史実に沿って見せ場を提供しながらも要所でIFを盛り込んで、全体的には面白いアングルとテーマ性を提示しているのですが、三成が負け続けると史実通りの展開へ、三成が勝ち続ければ歴史とは異なる展開へ、という風に分岐すれば、プレイヤーの采配が直接に物語の行く末に影響するインタラクティブで魅力的な世界を表現できたのではないかなと思います。
 もし、次回作があるとするならば、一番に期待したいのはこの点ですね。全体的にはハイレベルで纏まった非常にいい作品だったと思います。



△ SEやエフェクトを含めた演出が物足りない。


 もう一つ難点というか、課題点を挙げるとすると、SEや画面効果といった、プレイヤーが爽快感を得るための手応えが不足していたという点です。アクションゲームでもなんでもそうですけど、BGMやキャラのモーション以上に、SEや画面効果は重要です。


 例えば、作戦実行時の画面効果。騎馬隊の一斉突撃が決まったシーンでも、敵キャラのバストアップに単純な衝撃のエフェクトとSEが乗っかるだけで、集団戦闘の重量感も緊迫感もなく、実に貧相な仕上がりです。
 例えば、天眼開始の画面効果。大一大万大吉の紋が上画面にポンと出てくるだけで盛り上がりに欠けます。ズームを入れるだけでも随分と絵面がよくなるのになぁ……
 例えば、敵武将が倒れるとき。致命的な攻撃を受けた敵武将が大袈裟なリアクションで倒れるのはいいんですが、その後むっくりと起き上がってきてフワッと消えます。倒れたままで終われば綺麗に纏まるのになぁ……


 まだまだ細かく挙げると色々あるんですが、全編を通して、とにかく演出のセンスに欠けているなという印象を受けました。クライマックスとなる決めの台詞を叩き付けるシーンでは、特別にアニメを挿入したりと力が入っているのですが、一方で空気を暖めるための足固めのシーンは、悪い意味での省力化が図られていると言いましょうか、驚くほど演出が簡素で落差が激しかったです。

 見せ場をドカンと盛り上げる派手な演出は、プレイヤーが十分なカタルシスを得るために必要不可欠ではあるのですが、それも場の雰囲気が盛り上がってなければ意図通りの効果を発揮することはできないんですよね。演出に関しては、一点豪華主義に傾斜しすぎて、力の配分をどこか間違えているなぁという感が強かったです。サッカーに例えると、シュートの強烈なフォワードがいるけど、他の選手のパスワークが下手なので、結局ゴールまで辿り着けない、みたいな感じで。




 とまぁ、そんな感じで、幾らか難点はあるものの、総体としては上質なテキストとサウンドを備えたDS屈指のADVです。オススメのDSのADVを一本を挙げろ、と言われたら、自分はまず本作を挙げたいですね。
 合戦や説得は、どちらかと言えば、ストーリーに花を添える構成なので、本格的なシミュレーションやゲーム性を期待している方からすると肩透かしに思えるかもしれません。ADVの演出の一環として捉えるのが妥当だと思います。


 http://www.saihai.jp/trial/index.htm


 また、公式サイトには、WEB上で操作できる体験版が用意されていますので、興味のある方はぜひ触ってみて欲しいなと思います。体験版では本当に序盤のごく一部しか遊べないのですが、本作の最大の魅力である、秀逸なテキストや重厚なサウンドについては、その触感を味わうことができると思います。


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