▼ファンタシースターZERO・その3

 PS0のWi-Fiフリープレイではチャットが定型文に限られているため、チャットツールとしては非常にあっさりしています。オンラインゲームとして様々な会話が楽しめないのは不自由さを覚える面も多々ありますが、この雰囲気だからこそ味わえる楽しさも多かったりします。この制限された中でこそ起こりうる一期一会の出会いと触れ合いは、自分は非常に好みですね。




 Wi-Fiに繋いでいつものようにフリーを選択。適当にマップを選択してマッチングまで放置すると、一人のハニュエールとパーティが組まれました。
 マップはゲーム中盤のアルカプラント。相方のハニュエールはLVが30代で攻略するにはやや力が足りないように思えます。プラントはボスが強く、ちょっとこの構成は厳しいかな、と自分には思えました。
 後半のマップだけに限らないのですが、ペアでのパーティが決まると挨拶もなしに無言でログアウトする人もいます。一言くれてもいいのになぁ、と思いもしますが、まぁ、非効率なプレイが嫌いな人もいるだろうな、ということも理解はしてます。
 自分は楽しくダンジョンを回れればそれでいいかなと思っているので、別に2人でも十分と言うか。むしろペアだと相手の存在感が肌身に感じられるので、印象的なプレイの記憶はペアでの冒険が多いです。


 さて、不安に思っているのは自分だけではなく、相手も同じかもしれません。そこで自分は尋ねてみました。といっても、フリープレイでは定型文しか使用できないので、こちらの意図を十分に伝えるのは困難です。気持ちとしては「2人だとちょっと力不足だから落ちても構わないよ? どうする?」と言いたいのですか、実際には「大丈夫?」の一言しか言えません。
 そこでフリープレイ恒例の「よろしく!」の前に、まず


 「大丈夫?」


 の一言を投げかけてみました。これは捉え方によっては物凄く失礼な問いかけに捉えられるかもしれないなー、なんて思いながら。


 「ガーン!」


 それが彼女の答えでした。ああ、突然こんな不躾な質問をされたら誰だってそう思うよなぁ。不快な思いをさせてしまったかもしれない、と自分は半ば後悔しました。
 ですが、あーあ、これはログアウトコースかなぁ、なんて思っていると、意外にも彼女は言葉を継いできたのです。


 「助けて!」


 突然、助けを求められて、自分は一瞬混乱しました。でも、すぐに彼女の意図を察したのです。力不足は理解しているけれど、協力してボスを倒したい、という強い意思を。そのために力を貸して欲しいと請われているのだと。
 彼女に困難に立ち向かう気持ちがあるならば、自分としてはそれを無碍にする理由はありません。共に全力を尽くして戦うだけです。


 「OK!」


 昇竜拳のモーションを交えて力強く宣言すると、彼女も


 「行こう!」


 と返答し、自分も


 「行こう!」


 の言葉を返して、足取り軽くワープゾーンに飛び込びました。
 無機質で陰気なプラントのマップに画面が切り替わると、自分は思い出したようにチャットウィンドウをスクロールさせて、下画面をタッチしました。


 「よろしく!」
 「よろしく!」




 正直な話、彼女のプレイングはレベル相応な、シナリオをクリアしたばかりのプレイヤーのそれに思えました。武器は見た目がハデなレア武器で、素早く動くプラントの敵をなかなか捕らえることができません。ニューマンの強みである援護のシフタもなく、ほぼソロプレイに近い環境で戦っていたようにも思います。
 でも、少しだけダメージを受けて、まだまだ大丈夫、と思っていると、即座にレスタが飛んできます。こんなの掠り傷だよ、なんて思ってはいても、その気遣いが嬉しくていつも


 「ありがとう!」


 を返していました。


 途中まではそれでひとまずなんとかなりました。まぁ、レイキャストは攻撃にハデさはありませんが、粘り強く戦えばどんな強敵も倒せるのです。
 ですが、途中で一つの関門が立ち塞がりました。戦車ロボ型の強敵、アークザインの出現です。しかも2体。
 おまけにシチュエーションが最悪で、自分が宝箱の置いてある小部屋に飛び込んだところ、後方の電磁柵が起動して彼女と分断されてしまったのです。向こうからしてみれば、してやったりの状況ではありますが、こちらとしては仲間の援護を受けられないまま、狭い空間の中でアークザイン2体を相手取る必要に迫られたのです。


 「スイッチおねがい!」


 と、彼女の声が響きます。そうです、この手の構造のマップには、どこかに電磁柵を切るめのスイッチがあるはずです。
 回避困難な赤ミサイルを潜り抜けながら小部屋を走り回り、必死にスイッチを探します。しかし、どこにもスイッチは見当たりません。


 「ごめんなさい!」


 舌打ちしながら返答します。部屋の外部にも同種のスイッチは見当たらないようで、どうやら電磁柵を解除するにはアークザインを倒す必要があるようです。 とは言え正直、一体でさえ強敵なアークザインを二体纏めて相手取るのは困難を極めます。回避困難な赤ミサイルを連打され、倒れては回復を繰り返し、ついには倒れてしまいました。


 ムーンアトマイザーでの復活も焼け石に水だと判断して、自分は


 「シティに戻ります」


 と発言。シティに戻ると程なくして彼女もロビーに現れました。
 肩を竦めるロビーアクションを交わして「とんでもない相手に出会っちまったもんだ!」とお互いの境遇を慰めあうと、さて、これからどうするかを検討することにします。
 正直な話、アークザイン2体を相手にこの2人で勝てるかと言えば、多分に難しい状況ではあります。何度か対戦と全滅を繰り返してわかったのですが、アークザインは電磁柵で仕切られた部屋の中に篭城しているため、こちらにポジショニングの自由度はほとんどありません。ミサイルを使った同士討ちを狙うのも難しく、死角に潜り込むこともできず、正面から殴りあうしか選択肢がないのです。
 バルカンを掻い潜ってマシンガンの連打を浴びせる。どちらかのアークザインとちょっとでも離れればミサイルが飛んでくる状況で、その行為を延々と続けるのは、まぁ、一種の試練ではあります。壁越しの戦闘が前提なので、ハニュエールの得意な近距離戦も封じられ、ある種詰み手とも言える状況です。
 そこで自分は再びあの質問を投げかけました。あの時と同じ質問を。


 「大丈夫?」


 ここで彼女が挫けたとしても、それを責めることはできないな、と思いました。自分も半ば心が折れかけていたのです。
 なかなか彼女の答えは返ってきませんでした。意図が伝わってないのかもしれませんし、適切な返答が見つからなかったのかもしれません。
 ともあれ、このままウダウダしていてもしょうがない。彼女の意思を確認するつもりで自分は次の言葉を発しました。


 「行こう!」


 すると彼女からは少し遅れて、


 「OK!」


 という明確な返答が寄せられました。それで自分はようやく吹っ切れることができたのです。


 アークザインとの戦闘はやはり困難で、正直な話、もう二度と経験したくない思い出です。アークザイン2体の間に立ってバルカンを緊急回避で避け、一発だけマシンガンを撃ってまた転がる。買い込んだ薬があっという間に消えてゆき、仲間を復活させるためのヒールトラップまで使い込み、長い長い時間をかけて、ようやくアークザインを倒すことに成功したのです。


 「やった!」
 「やった!」


 その分、喜びは大きかったです。一度は無理だとさえ思った障害をなんとか協力して突破することができたのです。薬をほぼ使い果たしてボロボロの状態ではありましたが、この気持ちのままにもっと冒険を続けたい。心からそう思えたのです。
 以降のマップにも何度かアークザインは現れましたが、あの試練を突破した自分達にとって、それは特攻を躊躇する敵ではありませんでした。正面から飛んでくるミサイルを前転で避け、戻ってくるタイミングを予測して再び転がる。素早く側面に回り込んでマシンガンを連射し、砲門を開いたところで死角に潜り込む。そうやって何機ものアークザインを倒して、遂にボスの間に続くワープゾーンまで辿り着いたのです。


 しかし、快進撃はそこまででした。自分たちにとって、アークザイン以上にボスは強敵だったのです。
 多分、彼女はハードのプラントボスの経験が浅かったのでしょう。冷凍ビームからの即死コンボを何度も受け、その度にヒールトラップを使ってなんとか状態を回復させます。
 攻撃はなぜか彼女にばかり向いたので、自分はその隙に何度もマシンガンを叩き込みましたが、異常にタフネスの高いプラントボスは易々とは沈みません。そうこうしているうちに彼女がやられ、回復に向かった自分まで被弾して、遂には全滅を迎えてしまいました。


 「先に行ってて!」


 二人とも同時にシティに戻るとまた1からやり直しになってしまう。そう考えて、自分はこの場に残ることにしました。
 赤い画面を見つめながら自分は救出を待ちました。事前にテレパイプを準備していたので、薬を揃えた彼女が戻ってくるのを今は待ちます。
 ところがいつまで経っても彼女は戻ってきません。何があったんだろうか、と疑問に思うと不意に彼女の発言がありました。


 「ガーン!」


 一体何があったんだろうか。このままこの場に残っていても埒があかないと考えて、仕方なく自分もシティに戻ることにしました。
 シティに戻ってみて事情がようやく掴めました。テレパイプで作っておいたはずのワープゾーンが消えていたのです。あー、そういうシステムなのかー。
 さて、ボスとの再戦に向かうか否か。さすがにボスの攻撃全てを避けてマシンガンを当て続けるのは厳しすぎますし、彼女は彼女で何度も即死コンボを食らって相当に凹んでいたようです。
 そこである意味恒例となった文句、


 「大丈夫?」


 を投げかけると、彼女は少し間を置いてから、


 「ごめんなさい」


 という言葉を初めて返したのです。


 自分達は顔を見合わせて、それから肩を竦めて、仕方ないね、といった表情で頷きあいました。そして自分達は最後の言葉を交わして、ログアウトしたのです。


 「ごめんなさい」
 「ありがとう!」
 「おつかれさま」