▼セブンスドラゴンの広報活動の話

 今回の新納さんのコラムはゲームの宣伝、広報の話。新納さんは開発と広報で分業体制を取る現在のゲーム製作体制の中では例外的に部署の横断を気ままにする開発者の一人なんですが、そんな新納さんが、なぜ本来の職分である開発だけに留まらず、広報活動にも積極的に顔を出していくのか、その理由が明確に語られていて面白い内容です。

単純に言えば、開発者が一番商品に詳しいですし、その開発者が協力的で積極的であるほど、広報、宣伝スタッフさんのお仕事がやりやすくなるからです。

こういった宣伝会議に出席すると、開発者として思うのは「良いものを作るだけでよい」というわけではないということです。

 この辺りが、新納さんが積極的に広報活動に参加する動機に繋がっているのですが、言ってることは至極尤もです。開発者自らが商品の魅力を余さず正確に伝えてくれるのなら、受け手はそれを材料により正確な判断を下すことができますしね。
 これは特にユーザの感覚の特徴でもあるんですが、ゲームに関する情報が開発者の口から語られるのと広報の人の口から語られるのとでは受け止め方が大きく異なります。ほら、新納さんと宇田さんの発言でどっちに説得力があるかを考えれば…… いや、それはもっと他に根本的な原因がありますかね。
 ともあれ、ユーザの抱く広報への信頼感は実のところかなり薄いといわざるを得ない面はあります。もっと言えば、広報とユーザを繋ぐ各種メディアに対するユーザの不信が根強いとも言い換えられるんですが、こればかりは長年に渡って溜まり続けてきた膿があるので、一朝一夕でどうにかなる問題ではないんですよね。
 ゲームをブランド名で買うカジュアルなユーザはさておき、開発者のコラムにまでわざわざ目を通すようなコアなユーザにとっては、開発者の言葉は購入のための大きな検討材料になります。まぁ、そもそも開発者の言動を信頼できるかどうか、という前提条件もありますけど。
 その点、先日発売された「女神異聞録デビルサバイバー」は、開発と広報とが上手く連携したことで好評を得たゲームでした。しかしながら、デビサバもある一点に関して完全な成功例とは言えない部分があります。

また、返品制度もないため、内容を良く知らないまま不適切な宣伝をすると、問屋さんや小売店さんに大きな負担をかけてしまうこともあります。
そのため、できるだけ詳細な情報やコンセプトを、開発者が正確に関係者に伝えていく必要があると考えます。

 デビサバはメーカーの意図がユーザにきちんと伝わったのはよかったのですが、メーカーとユーザとを繋ぐ小売業者までは理解が及ばず、結果として発売後の品切れが長期間に渡って続いています。新納さんの言う「大きな負担」とはそうした需要と供給の齟齬から起きるトラブルの意を多分に含んでいるものと読み取れます。
 新納さんの経験に関連付ければ、世界樹の迷宮もそうした需給の崩れた商品ではありました。世界樹1の発売当時、各地で品切れが相次いで混乱が生じたのも今となっては笑い話ではありますが、ユーザにとってお祭り騒ぎのように思えたあの日々も当の小売業者にとっては頭の痛いできごとだったと思うんですよね。さらに言えば、その反省を踏まえて発注された世界樹2(これは新納さんは関わっていない商品ですけど)が供給過多で値崩れを起こしたこともありました。
 ゲームソフトの利幅って実は恐ろしく小さいです。その欠点を粗利の大きい中古販売で埋めるため、新品ソフトの販売機会は限られていて、機を逸した商品は例えどんな良質なソフトであっても捨て値で投げられる羽目になります。……PSZが2980円とか1980円とかもう聞きたくないですよ。
 ちなみに複合店や電器店でのゲーム販売は主に客寄せが目的で、単体での利益はさほど望めない構造になっています。だからこそ量販店ではあんな極端な値引きができるという事情があるんですが。
 ともあれ、小売業者のゲームソフトの発注には酷く慎重さが求められます。毎週何本と発売される新作ソフトに対し、その都度適切な発注量を読みきるのは非常に難しく、結果として、良質なソフトがユーザの手元まで行き届かなかったり、逆にタイトル先行のソフトがワゴンの隅で埃を被ったりもします。
 こういう暗い結末を僅かなりとも回避するためには、小売業者の抱える労苦を少しでもメーカーとユーザが分け合う必要があるのではないか。それが、広い視点で見た時にゲームに関わる全ての人々の利益に繋がるのではないか、というのは自分も思うところではあります。
 流通のボトルネックをなくす。言い換えれば需要通りに商品を供給する。そのために正確な認識を各方面に涵養する。それが作り手、売り手、遊び手、誰もが幸せになるための第一歩なんだと自分も思います。
 まぁ、ユーザにできる努力はと言えば、できれば予約する、ってことでしょうかね。自分は予約嫌いなのでそれを口にするのは凄く厚かましいなーとは思うんですけど。あ、でも、7竜はAmazonで予約してます。


開発と宣伝がいっしょに仕事をしていると、おもしろいこともできます。
一番わかりやすい例は「ちびキャラトーク」で、今回のゲームの売りのポイントをおさえつつ、本編と同じ空気感を演出するコンテンツを作ることができました。
また、早いうちからその情報を共有できていた結果、ゲームでもちびキャラトークの内容を反映することができました。これは、開発と宣伝が一緒になることで、はじめて作り上げられたプランといえます。なかなか無いコンテンツだと思いますので、楽しんでいただけたら幸いです。

 ちびキャラトークはちびキャラの口を通して語られる世界観のおかげで、ゲーム本編の雰囲気を居ながらにして垣間見ることができるのが面白い仕掛けでした。ゲーム内に持ち込むことのできるパスワードの存在も、ちびキャラトークで商品に興味を持った潜在ユーザの購入動機に繋がるのかなとも思います。
 まぁ、ちびキャラトークの各種仕様、キャラクターの出現率とか、試行回数には首を傾げる点も少なくはないのですが、今回は試験的な意味合いも強かったと思うので、その辺り詰め切れなかった部分は次に繋げていけばいいのかなと思っています。ちびキャラトーク自体の成否も結果が出るまでは論じられない部分がありますしね。

説明できない味わいのゲームや、理解しづらいゲームは、宣伝コストやプランに大きな負担をかけてしまいます。必死にゲームを理解して売ろうと努力する宣伝スタッフ、営業スタッフの方を見ていると、「やれば面白いんだから、売れよ」と投げてしまうのは、正しい大人の仕事ではないように感じてきました。

 しかしながら、一方で広報に掛けられる時間と労力には限度があるワケです。特に7竜のような小規模なプロジェクトは販促にかけられる費用も酷く限られます。
 その制限枠の中でいかに効率的、効果的な販促活動を行うかは非常に重要かつ困難な命題です。特に昨今のDS市場は良質な商品が宣伝不足で消えていくことも少なくなく、大企業の得意とする(セガも大企業と言えばそうなんですが)物量攻勢とは異なるアプローチが要求されます。
 そして、小規模プロジェクトならではの広報活動のモデルケースを7竜は見せてくれるのではないか、という期待を、7竜初報で広報に宇田さんが起用された時点から自分は抱いていました。
 少々事実認識が間違っているかもしれませんが、今では割と当たり前になったブログによる広報活動は世界樹が鋒矢になった記憶があるんですよね。これは潜在ユーザとの距離感を縮める一つの手段で、以後の同規模のプロジェクトの広報活動の一つのパターンになったようにも思います。
 そして今回も、パーティメーカー(ブログパーツは比較的ポピュラーな広報手段ですが)、ちびキャラトークポッドキャスト、ファンサイトキット、PIXIVとの連携と、単純なメディアへの露出とは異なる独自の路線での広報活動を7竜は幾つも展開しています。世界樹では放置期間の長すぎたブログによる発信も、今回は定期的に更新を行うことでユーザの要求に応えているように思います。


 一つ自分が懸念する点は、広報活動のターゲットがコアな方向に向いていて、カジュアルなユーザの手にとって貰う商品のコンセプトとやや食い違いがあるのではないか、と言う点です。目標本数は大きすぎるというほどの数字ではないので、浮動層をしっかりと取り込めれば達成できるとは思うんですが、「コア層ユーザの購買力って実は物凄く限定的なんじゃないか?」という意見が昨今の風潮なので、コア層に特化した広報活動にはやや不安が残ります。
 また、ブログによる情報発信は「デザイン会社を通さなくても更新できる」手軽さと即時性が利点としてはあるのですが、一方でチェックが緩くなるために誤字脱字が頻繁に発生する事態を引き起こしたのは一つの問題とは言えます。おっちょこちょいな31歳広報の過失をどこかでフォローする運用体制を確立させる必要がありますね。


 他のとあるゲームのブログでは、取引会社の商品に対する悪評(意図はどうあれ)を掲載したことで問題になったこともあり、ブログはまだまだ運用面に不安を抱えたメディアであるとは言えます。とは言え、開発費と同等の販促費をかけないと十分にゲームが売れないと言われる昨今、前時代的な広報活動を盲目的に遵守するだけでは時代錯誤との謗りを避けられません。ユーザ層を見極めて訴求に最適な手段を模索していかないといけないのは、開発も広報も同じ命題を課せられているのではないかなと自分は考えます。


 7竜の広報活動が適切だったかどうかはソフトの売上から明らかになることで、現時点では個人の好き嫌いはともかく、客観的な可否の判定は下せません。そして、7竜が成功を果たせば、7竜の広報活動は1つの手法として注目されるでしょうし、失敗すれば、また1から模索を始めなければならなくなるでしょう。
 そういう意味では、7竜の成否は、今後の同規模プロジェクトの広報活動に少なからず影響を及ぼすんじゃないかなと個人的には思っています。新納さんがその辺りを意識しているのかどうか、まぁ、意識しているからこそ、こうしたコラムを書くんだと自分は思いますが、それだけに7竜は成功して欲しいなと自分は思いますね。



 それにしても、最初はCMを打たないつもりだったというのが、ちょっと自分としては意外でした。世界樹2並に広報費はあると思っていたので。
 でもまぁ、年度末のセガの期待作は「龍が如く3」の方なので、CM枠はそっちにつぎ込むのが常識的な選択なんですよね。龍が如くと7竜ではさすがに商品の規模が違いすぎるので、龍が如くのCMを削って7竜に回す、とかの話があったとしたら「いや、それはやめた方が!」とは思います。