▼朧村正は叙情的なゲーム

 自分にとっての朧村正の魅力を一言で言ってしまえば、叙情的なところ、ですかね。アクション部分は物凄く今風な、派手さと爽快感を前面に押し出したゲームではあって、これも凄く楽しい部分ではあるんですが、一方で、非アクション部分とでも言いますか、普通にマップを移動している最中にこそ、このゲームでしか味わえない強い個性を感じます。
 精緻に描き込まれた景色が高速で流れていく様は、どこか車窓から眺める遠景にも似ていて情緒に溢れているんですよね。リアルに描き込まれたFPSとはまた違って、トゥーンならではの暖かみがあって、その上色彩に富んだ各ステージの美しさにはまったく驚嘆するばかりです。普段から自分は、綺麗なグラフィックにはあまり興味がないんですが、朧村正に関しては「これは凄いな!」と息を呑みっぱなしですよ。
 なので、敵がいるワケでもない、アスレチックがあるワケでもない、淡々と続くマップを軽快に走り抜けるだけで、ウキウキするんですね。崎元さんの音楽も相俟って、なんら障害を感じることなしに朧村正の世界に没頭できます。
 こういうゲーム、自分にとってはキャプテンレインボー以来ですね。あのゲームもミミン島を歩き回っているだけで妙な楽しさがあったものですが、朧村正も同様に雰囲気を楽しめる人にとっては凄く中毒性のあるゲームだと思います。一方で、アクションゲームとしての計算し尽くされたレベルデザインを求めようとすると、全体的にマップが広く、やや冗長な感はあるかなとも思います。次への目的地が結構遠かったり、スタート地点から大分離れたところまで進んだところで、シナリオ進行の為にスタート地点傍まで戻るように言われたりもしますんで。
 で、この移動時間を楽しみと見るか、作業と見るかで、このゲームの評価は変わってくるのではないかなと思います。アクション部分はかなり操作の激しいゲームではあるので、激しさだけを求めているとアクションシーンの狭間で肩透かしを食らう部分はあるのかなと。
 個人的には、先を急がずゆっくりと付き合うのが面白いゲームだと思います。なんの意味もなくジャンプを繰り返してみたり、地図を見て寄り道できるところは全部回ってみたり、時には立ち止まって周りを眺めてみたり、とりあえず温泉にダラダラ浸かってみたり、茶屋を見つけたらまずお品書き全部を食べてみたりしてね。
 ただのアクションゲームだったら、このゆったりとした雰囲気は生み出せなかったと思うんですよね。アクションゲームの楽しさって基本的には動的な楽しさですから。このゲームにも勿論、動的な楽しさは備わってはいるんですけども、一方でそれとは全く逆の静的な楽しさ、時間や空間の広がりを贅沢に味わえる感覚は、まさしくRPGのそれなんだと思います。


 あと、このゲームでは食べ物の演出が異常に凝っていて、どれもみんなウマそうなんですよ。ぷるぷるとした触感が凄まじく再現されている水羊羹をここで紹介したかったんですが、動画をGIFに変換するとなぜか再生速度が半分になってしまうので断念。サイズも9MBになったりとちょっと大きすぎますね。
 でも、一段落ついたら食事シーンだけ纏めて動画を作りたくなるほど秀逸です。これはいいなぁ。
 そして茶店通いと料理集買いまくりのおかげで一向にお金が溜まりません。時々襲い掛かってくる刺客を追い払っては落とした小銭を集めて「ちっ、しけてやがんなぁ」とか呟いてみたりして。


 テキストも雰囲気があっていいですね。物凄く惹き込まれるテキストってワケではないんですけども、この手の時代がかったテキストは日頃あまり目にする機会がないので興味深く読んでいます。
 自分は普段ボイスを割と飛ばす方なんですけども、このゲームが読み方がわからない言葉が頻繁に出てくるので結構飛ばせなかったり。で、読み上げられると、ああ、そういう言い回しがあるんだなぁって感心したりして。面白いテキストって要するに発見のあるテキストなんじゃないかなと自分は思います。


 時代設定も面白いんですよね。時は将軍徳川綱吉の治世…… そうそう、生類憐れみの令でお馴染みの徳川綱吉の頃のお話です。
 徳川綱吉の時代と言うと、つまり水戸黄門の時代ですよ。忠臣蔵でもいいですけどね。そう考えるとなかなか馴染み深い時代設定とも言えるんですが、忍者とか妖怪とかがひっきりなしに出てくるのでもっと乱世っぽい雰囲気もあるんですよね。でも、深い林やら険しい山道のすぐ傍に茶屋があったりするのは街道の治安改善に努めた綱吉の時代の現われなのかな、みたいな見方もできますかね。
 まぁ、舞台設定をこの時代にしたのはどうも村正と狐と綱吉とモニャモニャ……みたいな、将軍がモニャモニャを公布したのは実は…… みたいな話なのかな、と見ているんですけども、さてどうなるんでしょうかね。