▼428の映像表現について思うこと

 ひとまずエンディングまで到達しました。でまぁ、感想も色々とあるんですが、どうもネタバレ含みになってしまうのが痛し痒しなところですね。
 発売後、半年近く経っている現在、ネタバレを云々するのもおかしな話ではあるんですが、ネタバレが自分の耳に届かなかったことが「じゃあ、自分の目で確かめてみよう」という意識に繋がって、結果的に非常に楽しい時間を過ごす幸運を与えてくれたようにも思います。そんな経験を顧みると、やっぱりこれから428に触れるかも知れない人達の楽しみを奪ってはいけないんじゃないかなと思うんですね。
 なので、ここでは「428は面白かったよ!」とそれだけを言うことにします。未プレイの方にはぜひ一度触ってみて欲しいソフトですね。自分なんかは、そろそろ終わりかな、と思ったところがまだまだ中盤で、就寝時間の予定を大幅に狂わされつつも、ついつい先の展開が気になって一気に最後まで読み通してしまいました。サスペンスとしての推理する楽しみ、答え合わせをする楽しみ、予測を裏切られる楽しみをふんだんに備えつつ、根幹には主人公たちの悔悟と信念と希望の篭った熱いドラマが詰まっています。
 それでいて堅苦しいだけではなく、思わず頬が緩んでしまうコメディ要素もふんだんに盛り込まれていて、ただのサスペンスドラマだけに終始しない懐の深さが光ります。10秒前までの緊迫した空気がウソのように掻き消えていたことも往々にしてあって、この硬軟自在な雰囲気の操り方はテキストもさることながら、表情豊かな音楽群の影響が特に顕著ですね。
 さらに言えば、シーンの変転にまるで違和感を抱かせない緩急の作り方が実に見事ではあるんですよね。極端にシリアスからコメディへムードを転じれば、普通はそこで歪みが生じ、統一感を欠いてしまうものですが、一見かなり急激に落差をつけているシーンの変転も、よくよく観察してみると丁寧な演出でプレイヤーに自ら先の展開を予想させる工夫が詰まっています。


 そして、その工夫の肝となるのが428の特徴でもある実写部分、もっと言えば「役者の表情」で、それぞれの抱く微妙で複雑な感情をわかりやすく表現してくれるおかげで、こちらもすんなりと登場人物の情感を想像できるんだと思います。ここはなかなかテキストだけでは表現しにくい曖昧な部分で、なおかつおざなりにしてしまうと物語に厚みがなくなってしまう重要な部分です。
 表情に関して言えば、顔芸とも言えるなすびの表情が凄かったですね。チョイ役で出演するのかなと思ったらさにあらず。盛大に場面を掻き乱して存在感を大いにアピールしてくれました。
 あと、オッサン連中は誰も彼もいい味出してて引き込まれます。というか、作中の登場人物の平均年齢が結構高いですよね。そこが反面、ちょっと地味な印象を与えやすい部分もあるのかなという気もしますが。
 強いて言えば大沢姉妹が力不足な感がありましたかね。口を開けるとなんだかオーラが漏れてしまう感じ。真逆の二役を務めなければならないのもハードルを上げていたような気もします。


 また、止め絵を多用するのも428の特徴の一つですね。動画と違って止め絵ではリアリティを保ちつつもマンガチックな過剰表現が可能なので、ワンシーンの魅力をとかく伝えやすいんですね。止め絵の持つキレの良さと大胆な構図の妙味は、変化の早いダイナミックなストーリー展開と実にマッチしています。
 機能的な話をすれば、動画を使うよりも止め絵で済ませる方がハード的には低負担で、多大なマシン性能を必要としないこの選択は結果的にロードの速さに結びついてユーザビリティの向上に一役買っています。これもまた実写ならではの特性を活かしつつ、贅肉は削ぎ落とす取捨選択に長けた仕様ですね。それでいて重要な場面では動画のリアルタイム性を生かした演出も取り入れていて、全体的には非常に柔軟性の高いメリハリのついた構成になっています。


 とまぁ、考えれば考えるほど、428が合理的なディレクションの元に作られたゲームであることがわかります。元々サウンドノベルは実写から始まったゲームではないので、サウンドノベルの進化にそうした方向性が必ずしも必要ではないとは思うんですが、実写の魅力を最大限に生かしたこのゲームを遊んでみると、確かにこれもひとつの正解なんだなということがわかります。単純なリアル志向の実写ではなく、実写で何ができるかを最大限に考え抜いた工夫の現われが随所に見られ、技術的にも論理的にも感嘆できる作品でしたね。