▼サクラノート、途中までの感想

 マーベラスから発売されたサクラノートを触っています。現在第3章。初出の情報を見たから雰囲気がいいなーと思っていまして、ファミ通クロスレビューで意外な高得点を取っていたので期待もあったんですよ。
 まぁ、実際に触ってみると、ちょっと「うーん?」と首を捻ってしまう点も多くて、予想していたのとはちょっとズレがあったかな、と思うところもありまして。その辺り感想を書き出してみたいと思います。


 多少のアクション要素はあるものの基本的には純粋なADVですね。システムも公式を見る感じでは色々とあるんですが他に類を見ないような奇抜なシステムはなくて、大筋として主人公視点のシナリオがあって、その補完として犬や猫視点のワンカット集がある、という感じでしょうか。普通の一本道ADVとザッピング式のADVの間の子という感じですかね。
 アクション要素はシンプルに纏まっているものの、古臭さも覚えるデザインですね。なんというか、本当に昔のアクションRPGの初期の戦闘という感じ。アクションRPGは進行と共に行動オプションが増えるので、シンプルなデザインも習熟の過程と捉えられるんですけど、このゲームの場合、ずっとシンプルな作りが続くので、メリハリに乏しいところはありますね。
 攻撃と回避だけでは味気ないんですよね。かと言って要素を付け足すとどうなるんだろうとは思うんですが。
 ギミック不足なのかなー。まぁ、それで休みが生まれてしまうデザインも好きではないんですが。音楽室とか竜とか休みがあるんですよね。
 Aボタンで殴る行為を派生させるとかがあってもよかったのかなと。弾を打ち返してダメージを与えるとか。ゲームの幅が狭いのが窮屈に感じる印象かなー。難易度は意図して抑えたらしいんですが、上手い人は上手い人なりに遊べる振り幅も欲しかったかなぁと。

 システムに関してはADVなのにテキストスキップがないのは痛いですね。テキスト量の多いゲームなだけになおさらで。
 テキストを読んで欲しいゲームなんでしょうけど、ゲームオーバーでボスのセリフを読み返す場面も多いのでやっぱりスキップが欲しかったなぁと。
 犬や猫の視点だと本筋と重複する箇所も多いので、そういう部分もテキストスキップがあったらよかったですね。ただ、この場合は飛ばしすぎる恐れもあるので、同時にメッセージログも欲しくなると思いますけども。

 キャラの動作は軽快ですね。歩行スピードが適度に速くて足音が小気味良く響く、動かして楽しいゲームです。近づくだけで吹き出しが出るのもいいですね。テンポは良好です。


 テキストは読みやすくて簡潔。技巧を凝らした感じではないですけど、丁寧で破綻がないです。ベテランの味ですね。初っ端のノビヨ先生のキャラが濃くて圧倒されるんですが、まぁ、それは最初だけなので。後は肩の力を抜いて読めるテキストだと思います。
 というか、本当の植松さんもこんな感じなんでしょうかね?

 犬猫視点は序盤は主人公に同行しているので独自の視点が少なめ。ただ、章を追うごとに別行動が増えてくるのかな。今後は面白くなりそう。

 シナリオの展開で面白いと思ったのは、主人公が妖怪に立ち向かうことを決意する下りですね。今まで仲の良かった両親の口喧嘩の後、傷心の母親に抱きしめられて、沈鬱な心持でいるところを「ヒーローは君なんだ」と頼られるんです。これはグラっときますよね。
 この頃の子供って両親の万能性を信じている年頃で、両親が不仲ってのはありえない事態なんですよ。未曾有の危機と言えるかもしれない。今まで無償の愛情を注いでくれたまさの慈母のような存在が、突然般若の様相を呈するんですから。動揺しない訳がない。その心の空白を突き刺されたら、「どうにでもなってしまえ!」というような一種の開き直りが生まれるんじゃないかなと思うんです。孤独感の反動で、誰かに愛して欲しいと強く切望するのかもしれない。
 そういう心の揺れはテキストとしては描かれていないんですが、自分はそういう主人公の心の機微を凄く感じたんですね。妖怪なんて非現実的な存在を、この消極的な少年にどうやって絡ませるのかと思ったら、この展開だったので、これは舌を巻きました。こういうやり方があるのかと。
 ただ、全体的に主人公はこう思った、的なモノローグが入ってきて、それが自己投影を妨げるきらいはあるかなぁと感じます。主人公を自分の分身と見ていいのか、物語の狂言回しと見ればいいのか、そこはちょっと判断に迷う感じです。
 こういう形式ならプレイヤーが主人公と同じ心持ちに至るようにテキストで誘導するのがプロの技じゃないかな、と思うんですけどね。犬猫視点はその辺り、完全に第三者の物語を見る形なのでスッキリしてるんですが、本筋はちょっとアヤフヤなところがありますね。

 音楽は植松さんなんですが、まず音質がいいですね。コンフィグがあるんですが、設定できるのは音響環境だけなのが、ちょっと笑ってしまいました。まぁ、裏を返せば音楽に対する拘りが見て取れるんですが。
 DSで音響環境を設定できるソフトと言えば、自分の知る範囲ではソーマブリンガーくらいかな。あれは元スクウェアの光田さんの作曲でしたが、同じスクウェア繋がりと考えると面白いですね。ドライバから触っていた人の感覚なんでしょうかね。
 ただ、好みのメロディは少ないかな。オープニングと日常のテーマは凄く好きなんですが。イベント時の音楽はうまく盛り上がりとリンクしていていい雰囲気を醸してくれますね。

 ちょこちょこと動くドットはドット好き必見ですね。とにかく良く動くのが見てて飽きないです。
 ただ、キャラクターのイメージがドットに落とし込み切れていない印象も。ワンポイントの少ないシンプルなデザインなので難しいところもあるのかも。キイチがとみにそう感じます。
 稲葉さんデザインのモンスターは王様物語にも通じる。愛嬌があって憎めない感じ。もっと邪悪ですよ、というわかりやすいキャラクターだと戦いやすいかな、とも思ったんですけども。
 背景のグラフィックは実写をベースにアニメ塗りに仕上げたような感じ。独特ですね。
 凄くキレイなんですが、それで出入り口が見づらくなるということもなく、ゲーム的な配慮は十分にされていますね。


 そんな感じで、まぁ、一言で言えば雰囲気ゲーですね。わかりやすいゲーム性を期待すると肩透かしを食らうかもしれません。雰囲気が肌に合う人にとってはしみじみと浸れるゲームだとは思うので、寝る前にちょこっと遊ぶような感じだといいのかなと思います。ガッツリと取り組むと多分、すぐ終わってしまうんじゃないかなと。