▼サクラノート、シナリオについての感想

 全体的な雑感は前に挙げたので、今日はもうちょっとシナリオに踏み込んで感想を書いてみたいと思います。結構ネタバレまで入って行きたいかなーと思うんですが、どうなんだろう、いいのかな。
 というのは、このゲームってゲーム的な特徴は物凄くシンプルかつ古典的で、自分の評価軸で評価を下すのが難しいんですよね。一言断言できるのは、「いつものマーベラスのゲーム」とは凄く対極的なゲームです。かつてのスクウェアスタッフの色を求めるゲームとも違います。ベテランならではの技術の裏打ちはそこかしこにあるんですけど、今風のゲームを好んでいる人には不適なゲームだと思います。
 「面白い、面白くない」という軸ではなく「向き不向き」の軸が重要なので、かなり人によって評価の分かれるゲームだと思います。


 感情が動くと書いて感動。どんな形であっても感情を突き動かすのがプロの技で、このゲームはそれに翻弄されるのを心地よいと思える人向きのゲームだと思うんですよね。タカコがナナミを抱きしめて、「二人でやって行こうって約束したでしょ」とか言い聞かせるシーンとか、「うわ、この人ズルいなぁ」と自分は思ったものですが、それ自体にムカムカするよりも、そう感じる自分を面白く捉えられる人向けのゲームと言うか、物語自体に対する慣れが必要なゲームなんじゃないかなと思っています。感情を逐一くすぐってくるのがこのゲームの味なんですけど、それに翻弄されてしまうと結構厳しいと言うか、耐性がないと「なんでこの人たちみんなウダウダやってるの?」という疑問にイライラする羽目になるんじゃないでしょうかね。心得た読み手にとっては、各人の至らなさと言うか、すれ違いや人間臭さにニヤニヤできるんでしょうけども。
 自分はまぁ、悟りきるにはちょっと足りないところもあって。納得半分、モヤモヤ半分で読み進めていました。まぁ、大人向け、というとちょっと違うんですけど、枯れた心に染みる物語ではあるので、潤いのある人にとっては、馴染めないんじゃないかなと。
 でも、クロサワ夫妻のすれ違いとか凄くそれっぽくて、自分は好きなんですよね。夫は妻がわかってくれると思うから口には出さないし、妻は口に出さない夫に不審を抱くっていう。
 ただ、クロサワ夫妻の根底には繋がりがキチンとあるので、険悪な雰囲気でも見ててハラハラしないんですよね。それは猫の視点から見て理解できたことではあるので、主人公だけの視点で見るとまた違ってくるのかもしれないんですが。
 まぁ、主人公だけの視点で見ると両親の関係って結構不安定で、そこは面白いんですけど、猫の視点から見ると「なんだ、それだけことか」と肩の力が抜けてしまうというか。謎の提示から解決までの暖め方が淡白だなという印象はあります。
 このゲームって「悪人」がいないので、物語が予定調和に終わるだろうなという予測は早い段階でついてしまう部分はあるんですよね。妖怪という悪役はいますけど、メガテン風に言えば、あれもスタンスはニュートラルなんですよね。明確な悪意があるワケじゃないんです。
 「悪人」がいない、全ての登場人物が「善人」なのでカタストロフがない。物語のオチをつけるには纏めやすい風呂敷ではあるんですけど、もう少し「引き返せない後ろめたさ」が欲しかったなと思うところはあります。困難を乗り越えてテーマを示してくれるとグッと来たんじゃないかなぁとか。


 あと、子供の事情は大人にはわからないよ、という構造が通底していたのは凄く良かったなと思います。子供には子供なりの社会があって、そこに無遠慮な大人が踏み込むのは子供にとって屈辱的なことなんですよね。
 ただ、現実の多くの問題に関して、大人の判断は大抵が理知的で、子供の判断は大抵が感情的なんですよね。基本的に大人の判断は正しいんです。
 妖怪の存在って要するにそうした普遍的な構造を崩すための設定で、妖怪に関しては例外的に子供の判断が正しいんですね。妖怪は子供の行動に正当性を与えるための仕掛けなんです。「なぜこの物語には妖怪が必要なのか?」という疑問を発表当初から自分は抱いてはいたんですが、その答えは示して貰ったかなと思っています。
 それを凄く端的に示してみせたのは、タカコを振り切って隣町に向かうシーンですかね。力のない子供と力のある大人の対立の構図が凄く鮮明で印象的なシーンです。
 隣町に行くにはお年玉が必要っていう距離感も凄く好きです。お年玉って子供にとっての国家予算じゃないですか。それを使ってでも隣町に行くぞ、っていう決意の表れが自分は凄く好きなんですよね。


 そうした対立を踏まえて、最後の章では大人と子供がそれぞれの理解を摺り合わせるという纏めに入るんですけど、大人側から子供側に踏み込むのは子供っぽさを残す主人公の父親であるカナメで、俯瞰して見ると彼が物語の一番のキーマンなんですよね。
 作中では半ばダメ人間的な扱いされていますけど、カナメはかなりのスーパーマンですよね。そう見えるのは自分が主人公目線から見ているからなのかな。ともかく、ある種の理想的な大人として描かれていて、書き手の入れ込みようを感じました。
 世の中のお父さんはこんなに立派じゃないよ、と思うのは、まぁ、偏見かも知れないんですが、子供の教育を母親に投げている設定の割には付き合いがいいよね、という感じもあって。もっとグータラなほうがリアリティがあるんじゃないかな、という気はしました。それだと物語が回らないんですけどね。


 この物語って離婚しそうな両親を持つヒーローと、離婚した両親を持つヒロインの物語なんですけど、そうした切り口でキャラを描く場面って薄かったように思いますね。ヒロインのナナミはヒーローの両親を見てどう思ったのかな、とか、自分の両親が離婚したことについてどう思っているのかな、とか割とその辺の言及は淡白で「何を考えているのかよくわからない子」という印象は最後までついて回りました。
 まぁ、最終的に元の町で暮らすことを選ぶってことは、両親に元鞘に収まって欲しいという気持ちが強いんでしょうけど。ただ、設定としてはナナミは父親が好きなんですよね。でも、母親と一緒に暮らしているということは、親権を取ったのが母親ってことなのか、まぁ、この辺はジメジメとした成り行きを想像すると楽しいかもわかりません。
 多分、この話はテーマとしては「家族の結びつき」みたいなものなので、ヒロインの胸中は凄く大事な要素だと思うんですけど、その辺は軽く触れられるだけで終わっていて、おまけに一番大きな影響を与えるのも主人公以外の人物なのが、ちょっとカタルシスに欠けるなぁと思ってしまいます。それも込みと言うか、主人公だけがヒーローじゃない、というのがこの話のキモなのかもしれませんが。


 物凄いネタバレなんですが、ラストのあるおまけシナリオはこれまでの展開からするとビックリする代物なんですけど、あれは本筋をそのまま継いだものなんでしょうか。どうも記憶がない辺りを見るとパラレルな未来というか、妖怪が本願を果たした未来のお話のようにも読めるんですよね。
 まぁ、あれが本筋だとするとちょっと意外すぎると言うか、今までの展開はなんだったの? という気持ちにもなって、納得のいく道筋が見たくなるなぁという気持ちに駆られるんですけど。ひょっとしたら真エンディングみたいなものが用意されているんでしょうか?


 手当たり次第に色々と触れてみましたが、ゲーム自体の良し悪しとは別に、色々と考えられる、深読みする余地がある辺り、このシナリオはなかなか噛み応えがあるのかなと思いますね。販売本数が伸び悩んでいることもあって、あまり人の考察が読めないのはちょっと寂しいところもあるんですけど、心にフックする箇所は結構多くて、なぜ自分がそれを疑問に思ったのか、プレイ時間以上に考えられたのは収穫だったなと思います。