▼モンハン初心者を見て色々考えた

 弟がモンスターハンター3を始めました。


 なんたら幻獣辞典とかいうタイトルの、一昔前に新紀元社からよく出てたようなファンタジー本にモンハン3のモンスターが掲載されていて(有名ゲームから題材を取ろうなんてやっつけ仕事もいいところだ……)、それで興味が湧いたんだそうです。まぁ、ソフト自体、良くも悪くも価格もお手頃ということもあったみたいで。
 始めたと言っても、実際に触り出したのは半月くらい前からなんですが、弟は一日に1時間ゲームを触ればそれでもうゲップが出るようなカジュアルなユーザーなので、細切れのプレイでは進展にも乏しく、表情もどうも浮かない様子。アクションも得意ではないので「モンスターが見れればそれでよかったのになぁ」なんて零したこともありました。
 あ、弟はマジック:ザ・ギャザリングとかカルドセプトが好きなんですね。モンスターの絵を眺めるのが好きらしいです。


 さて、自分にとってこれは降って沸いた狩り仲間育成の機会なもので、なんとか一人前のハンターに育って貰おうと何かとアドバイスを送って、円滑にプレイが進むように仕向けていました。当人からするとペースを乱す口喧しい観客だったかもわかりませんが。
 「石ころは捨てるな! 取っておけ!」とか「ケルピは斬るな! 殴れ!」とか「レザー装備売った? なんでだよお!」とか前知識のないプレイヤーからすると理不尽とも思える口出しの数々。でも、実際にプレイした人なら分かる通り、モンハンって素材集めが面倒なゲームではあるので、効率的なアイテム収集法を知ることって重要なんですよね。
 にが虫を捨てまくってから使い方を知って後悔するような、そういう習熟の流れもあります。というか、そうやって自分の経験から学習していくのがモンハンらしいと思っているんですが、今回、促成栽培を意図したのは、弟がカジュアルなユーザーであること。つまらないと思ったゲームはあっさり手放せるだけの腰の軽さがいわゆるゲーム好きとは違うと知っていたためです。
 なので、弟がモンハンの楽しさを発見して、自分から進んでモンハンを遊べる、自律的な継続が可能な段階に至るまで、鱧の骨を毛抜きで取り除くように、丁寧に障害を除いてやる必要があると思っていたんです。
 言ってみればこれは自転車の練習みたいなものですね。自転車が遠心力で走るということ、速度を出すほど走行が安定するという理屈を理解するまで、荷台を掴んで支えてやらなければならない。転んで痛い思いをしたら、そこで自転車が嫌いになってしまうかもしれない。そうならないように誘導してやる必要があったんですね。遊び相手を欲している立場としては。
 特に自転車と違ってゲームは覚えなくても生活に支障はないですから、「やーめた」とコントローラーを手放してしまえば、そこで全部終わってしまいます。これは本当に勿体無いことだと、一人のモンハン好きとして思っていたので、口喧しさでそっぽを向かれないように焦る心を抑えつつ、それでも1回のプレイで何かしらの前進が感じられるように、弟の無駄ばかりの稚拙なプレイを「でも、自分も最初はこうだったんだから」と黙って眺めていました。


 さて、自分がモンハンの楽しさを理解できたのは、クルペッコを倒した辺りからでしょうか。元々、漠然とした楽しさらしきものは、ドスジャギィを倒した頃に感じていたんですが、それが明確に形として理解できたのは、クルペッコの討伐を完了させた辺りだったと記憶しています。
 自分は「モンハンは自由度の高いロックマン」と捉えています。ボス一体を倒すまで様々なステージを回って試行錯誤する感じ。なんとか手の合うボスを見つけて倒せると、ボスの武器を利用して次のボスを倒す筋道が見えてきます。これ、ロックマンなんですよね。
 モンハンは、ボス戦に特化したロックマンであり、地道な収集作業でE缶を幾らでもストックできるロックマンでもあります。そこはやっぱりカプコンらしさが通底しているところなんですね。
 なので、ドスジャギィを倒せるようになるまでは弟を補助しようと、そう目標立てていました。そこまで遊んで楽しさがわからなかったら、それは元々手が合わなかったんだな、と諦めがつく段階だと考えたんです。
 ただ、弟のプレイを眺めていて気づいたんですが、モンハンってとにかく序盤が間延びしているんです。ドスジャギィの討伐依頼が貼り出されるまでが凄く長いんです。
 最初の緊急クエストがドスジャギィ討伐だったかなー、となんとなく記憶していたんですが、モガの森をさ迷い歩くこと10時間(細切れなプレイなのでとにかく時間がかかる……)、「緊急クエスト出たよー!」と言われて画面に視線を転じると、そこに映し出されていたのは「ルドロスの討伐依頼」。ドスジャギィどころかただのモブモンスターという始末です。
 今度はドスジャギィが来るはずと期待してルドロス討伐を見守ったものの、次に貼り出されたのは砂原を舞台にしたクエストの数々。「砂原をあらかた歩き回る必要があるのか」と予想外の展開にクラクラしてしまいました。
 「砂原の探索なんて適当でいいよ」とはまさか言えません。自分も新しいステージはワクワクドキドキしながら歩いて回ったんですから。その楽しさを奪う権利は自分にはありません。
 で、結局ドスジャギィの討伐依頼が貼り出されたのはそこから3時間後のこと。つまり3日後です。遅々とした展開に見守る側のこちらが飽き始めてきた頃、ようやく初の大型モンスターの討伐依頼に乗り出す算段がついたわけです。
 とりあえず、ドスジャギィを倒せれば、まぁ、一端のハンターと言えるでしょう。尻に殻は付いてはいますが、自分の嘴で虫を突くくらいの成長はしたワケです。
 まぁ、初回はまず失敗するでしょう。自分も何度死んだかわかりません。ただ、これまで散々「薬草とアオキノコは集めとけ! あとハチミツも!」と口を酸っぱくして言ってきた理由をようやく理解して貰えるかと思うと、ちょっと胸が高鳴ったりもします。
 回復薬を3つばかり持ってるだけで「薬は足りてるからいらないよ」とか言われた時にはコノヤローと思ったものですが。まぁ、存分に死ねばいいと思います。そして農場の便利さと資源ポイントの使い方を知ってくれればなおいいです。
 とにかくまずは死に様を笑ってやろうと、期待しながら見守っていました。


 挿入されるドスジャギィのカットシーンに「デッケー」との呟きが漏れます。「あれ、大型モンスターの中じゃ一番小さいんだけどね」と思いながらニヤニヤ。
 当時はイキイキとして見えたドスジャギィの仕草も今となっては、通常モーションの流用だということが一目でわかってイマイチ興が乗らないですね。それでもモンスターの迫力が伝わる作りでセンスは流石だなぁと改めて思います。
 で、弟とドスジャギィの戦いが始まったワケですが、やっぱりそこは素人らしく、カメラの使い方がてんでこなれていないんですよね。敵をカメラに収めて行動する、という概念が理解できていない様子。
 敵に背中を向けて逃げ出す時も、カメラは敵に向けて不意の襲撃に備えるクセを手馴れたモンハンプレイヤーは身につけていますが、始めたばかりだと逃げるだけで精一杯なんですね。キャラとカメラを同時に操作できない。
 で、振り切ったと思って安心して薬を飲むと、実は真後ろにいるという。相手の攻撃の隙を見て薬を飲めるようになるまでは、結構な慣れが必要なんですね。


 大剣の使い方はみっちり教えたので、抜刀 → 横斬り → 回避 → 納刀 と基本の動作はよどみがないんですが、納刀してから次の攻撃に移るまで、無駄に走り回ったり、正面から突撃しては反撃を受けたり、薬を飲んだ直後に噛み付かれたりと、随所に粗が窺えます。
 その都度こっちは「正面から行くな! 横から攻めろ!」とか「頭狙え頭! そこが弱点だ!」とか「マップ切り替えて薬飲め!」とか「そっちは出口じゃねえええ!」とか、口出しまくり。「コントローラー寄越せ!」と言いたくなるくらい雑ではあるんですが、まぁ、突っ込む分には退屈しませんでした。


さてまぁ、そんなこんなで色々ありまして、弟がついに3度目の死亡を迎えました。初のクエスト失敗……と思いきや、そう言えばこいつ、キノコクエでタイムアップとかやらかしてたなぁ。
 でもまぁ、負けて初めて装備の強化とアイテムを準備する意味がわかるんですよね。小型モンスターを倒すだけならアイアンソード改と回復薬3個でも十分だけど、大型モンスターを倒すためには最良の武器と十分な回復薬、あと必要なら防具も揃えなきゃならない。
 そう言えば、「防具はスキルで選べ!」って言ってるのにハンターとレザーの装備を混ぜて装備してたりするんです。「今買い替え中だから」って、うん、あのね……
 あと、ドスジャギィに負けて心が折れやしないかとちょっと心配もしたんですが、どちらかと言えば当人は「早く再戦したい!」という鼻息の荒さで、この頃ともなるとこちらから促さなくても勝手にモンハンを遊んでいるようになってました。それまではわざとらしく「今日はモンハンやらないの?」とか声をかけてたんですね。無理強いは好ましくないとはわかっていたので、「やらないならじゃあマリオやろうぜー」みたいに繋げて。マリオは楽しいですね。2人でやると始終笑いっぱなしです。
 ともあれ弟を素材集めに再び旅立たせ、一通りの強化を終了させてから、ドスジャギィとの再戦に挑ませました。万全に準備を整えた後だと、勝てるかどうかは単純に習熟によるんですが、今度は一回も死ぬことなく、思ったよりアッサリとドスジャギィの討伐に成功してしまいました。
 これはちょっと意外でした。自分はドスジャギィを倒すために色々武器を変えて試して死んでを繰り返したっていうのに…… 弟が上手いのか? いやいや、大剣が使いやすからだ、きっと。
 まぁ、自分が死にまくったのも基本的な立ち回りがわかっていなかったせいもあるんですよね。自分の場合は教えてくれる人がいなかったのでニコニコ動画で立ち回りを覚えたんですが。モンハンは立ち回りの基本を自分で見出すのが凄く難しいゲームだとは思います。
 ともあれ、ドスジャギィを倒して、当人も「なんとなく楽しくなってきた」と言っていたので、これで補助輪を外すには頃合なんでしょう。……とか思っていたら、今度は捕獲クエで失敗を繰り返していたので、そこもアレコレ指図が必要だったんですが。


 モンハン自体は懐の深いゲームなので、楽しみ方さえわかれば凄く熱中できると思います。でも、そこまで辿り着くまでが長い。他のゲームに比べると非常に敷居が高いのが欠点ではあります。
 前々から何度か口にしていたことではあるんですが、MHPがあれだけウケたのも、初心者が一人前に育つまで友達なりの近縁者がアドバイスできる環境があるからで、外部の情報無しに手探りで遊ぼうとした場合、モンハンは根本から不親切なゲームなんです。
 その不親切な部分、説明書を読むだけじゃわからないし、そもそも説明書自体細かすぎるし厚すぎるところが、逆にコミュニケーションの材料になったのがMHPの成功要因の一つなんでしょうね。
 それは今回凄く実感しました。モンハンって初心者からすると「もう少しやれば面白くなるって!」と力説する熟練者を疑いながら進めるゲームなんですよね。
 ただ、モンハンはカプコンが意図的にそういうコミュニケーション性を盛り込んだというよりは、そう「なってしまった」のが実際のところだと思っていますし、実際カプコンにしてもMHPの出発点はリソースの再利用を意図した部分が大きかったので、カプコンが今後コミュニケーション性に通じた新しいゲームを提案できるかは少々疑問が残ります。
 モンハンの大ヒットはプレイヤー同士の助け合いに寄りかかった稀有な例だと考えているので、同程度のコアなゲームが同じように受け入れられるかと言えば、やっぱりそれは難しいなと。PSPの当時のソフト不足もあって生まれた奇跡的な出来事だったんじゃないかと思います。
 それを考えれば海外でモンハンが受けないのも納得が行くワケです。ヨーロッパなんかは主要都市でも日本の地方都市より人口密度が低いものも多く、ユーザー同士が携帯機を介してローカルでコミュニケーションを結ぶ楽しさが発揮されにくいのではないでしょうか。
 アメリカのパーティー文化、イギリスのパブ文化のように、人が集まる催しが多い印象もありますが、屋内で集まるんならそもそも携帯機なんか持ち寄らなくても据置機でいいですよね。翻ってこれはWiiが受け入れられた理由を示す一つの要因でもあります。
 で、もっと推測を広げていくと、すれ違い通信が受けたドラクエ9も海外では受け入れられにくいだろうなという想像もつきます。MHPが海外で不調なのはPSP市場の問題もありますけど、例外的にドイツでそこそこ売れているところを見るとやはり文化・習慣の違いが大きいのかなと感じます。
 話が随分逸れてしまいましたが、MHPに関して言えば、初心者と熟練者の間にコミュニケーションが成立するのが据置機と比べて革命的な変化だったんじゃないかと思います。ネット越しでの初心者と熟練者の対話って噛み合わないことが凄く多いんですよね。
 ローカルなコミュニケーションの場を想定したのが成功の要因となったニューマリWiiと同様の理由で、MHPもローカルな場が舞台であるからこそ、多少の障害(穏便な表現をすれば)を乗り越えられる余地があるワケです。マルチプレイに関して言えば、極論としては通信を介さないローカルなコミュニティの方が強いです。少なくとも現時点の通信技術では。
 ただ、その恩恵を受けるには、それこそMHP2GDQ9ニューマリWiiのような膨大なユーザ母数と密度が必要で、例えば売上規模が10万本程度と予測される世界樹3のローカルなコミュニケーション要素が100%上手く機能するかと言えばやっぱりそれは難しいだろうなと想像はつきます。ゲームの購買層によって正解が異なるのは当たり前の話ではありますね。
 ただ、ユーザ母数が少なくとも、マルチプレイが成立する可能性が高いコミュニティもあります。それが家族というコミュニティで、だからこそ任天堂は家族で楽しめるゲームを発信し続けているワケですね。


 ……うん、収拾がつかなくなってきたのでこの辺で強引に纏めますけども、そのうちオンラインで一緒に狩りに行けたらいいなぁと思っています。そしたら自分はまたチケット買わないといけないんですけどね。もうちょっとタイミングが早ければなぁ。