世界樹の迷宮・その7(パーティ編成について)

アルケミスト♂ ウィバの日記

 朝食を摂りに食堂へやってきた俺とジャド。
 立て付けの悪い樫の扉を力を込めて押し開けると、リーダーとアリスベルガとルーノの3人がテーブルを囲んでいるのが目に入った。

 「なんだか珍しい取り合わせだな。」
 「その割にゃ随分盛り上がっているみたいだが。」


 「迷宮で女性が危険に身を晒すのは私としては本意ではありません。女性は子を産み、育てるものです。あなた達の使命は承知していますが、どうか私達を信頼して任せてはくれませんか。」

 ティーカップを両手でいじりながら、諭すようにして2人に訴えかけるリーダー。

 「武門の家に生まれた時点で、私は女性として庇護を受ける立場にないと思っている。その心配は無用だ。……むしろ私としてはルーノが怪我をしないか心配だ。あなたは戦いに向いた性格じゃない。」

 テーブルをこつこつと指先で叩きながら、柔らかな視線をルーノに向けるアリスベルガ。

 「いえ、自分の身を守る術は私も身につけています。……それよりリーダーにもしもの事があってはギルドの運営にも差し支えます。どうか御身を大事になさってくださいませんか。」

 にこやかに笑みを返しつつ、リーダーに幾ばくかの自重を促すルーノ。


 「みんな仲間思いなんだな。」
 「……いや、よく見てみろ。」


 「深層の魔物と対抗するためには私の「序曲」が不可欠です。幾ら鉄壁の守りを築いたとしても、攻撃が通じなければお話になりませんよ。」

 ティーカップを握るリーダーの手の甲にはいつしか血管が浮いて見える。

 「強力な「吐息」を武器にする魔物に抗しえるのは私の聖別された盾だけだ。どれだけ優れた癒し手も消炭になっては何もできん。」

 静かに、しかしまるでキツツキのような執拗さでテーブルを叩き続けるアリスベルガ。

 「私の施療術なくして深層での探索は続けられませんわ。「舞曲」? 「子守唄」? あれはただの気休めでしょう?」

 相変わらず穏やかな口調のルーノ。しかし目は笑っていない。


 「……アレか。リストラ候補の炙り出し。」
 「……そう言えばブシドー入れられるようになったんだっけ。」

 テーブル周辺に極低温の冷気を放出しながら、3人は見た目にはなごやかな歓談を続けている。

 「……オレもいつ肩叩かれるかわかんねぇなぁ。」
 「ははは……」

 背中に薄ら寒いものを感じつつ、オレは笑う事しか出来なかった。



 パーティの構築はおそらく世界樹の迷宮で最も頭を悩ませる問題です。RPGの中では珍しい5人編成という制限のおかげで、どんなにパーティ編成に工夫を凝らしても「あと一人入れたい!」と言わずにはいられない絶妙な不足感を味あわせてくれます。
 世界樹の迷宮では、多彩な攻撃手段を誇るソードマン、状態異常+攻撃で戦闘を有利に進めるダークハンター、補助も戦闘もこなせるレンジャー、パーティの壁となるパラディン、後方から攻撃魔法で支援するアルケミスト、敵から受けたダメージを回復するメディック、仲間を呪歌で強化するバード、防御を捨てて一撃にかけるブシドー、状態異常の専門家カースメーカーの全9つの職業があります。
 この中からプレイヤーが選べるのはたったの5人。そしてそれぞれが代替の利かないユニークなスキルや能力を持っているおかげで、どんなにパーティをうまく組み上げても、満足感の中に髪の毛一本分の不足感が残ることになります。なので思わず「パーティ編成のアルデンテやー!」と彦麻呂風に叫んでみたくなるのも仕方のないこととご理解ください。

 自分の場合、最初のパーティ構成は、パラディン、ダークハンター、アルケミスト、バード、メディックでした。それが以下のような変遷を辿ることになります。

パラディン、ダークハンター、アルケミスト、バード、メディック
  ↓
パラディン、ダークハンター、アルケミスト、バード、レンジャー
  ↓
パラディンパラディンアルケミストアルケミスト、メディック
  ↓
パラディン、ソードマン、アルケミスト、バード、メディック
  ↓
パラディン、ソードマン、アルケミスト、レンジャー、メディック
  ↓
パラディン、メディック、アルケミスト、レンジャー、バード
  ↓
パラディン、メディック、ダークハンター、アルケミスト、バード

 なんだかんだで一番最初と同じ構成に戻ってるのが迷走加減を物語っています。
 ただ最初期パーティとはメディックの立ち位置が違ってて、当初は傷ついた仲間を癒すパーティのナイチンゲール的存在だった彼女も、最終的には杖で魔物を撲殺する一級ファイターに成長を遂げています。防御面での不安は多少ありますが、それでも回復、防御、攻撃とあらゆる場面において活躍を見せるメディックの際立ち方は異常です。
 そんなメディックを除けば各職業の重要度は似たり寄ったりと言う感じで、個別で見れば使える職業、使えない職業と言う差異は余りありません。
 どちらかと言うと重要なのは組み合わせで、例えば遅いけど強力な錬金術を持つアルケミストと仲間の行動速度を上げるレンジャーの組み合わせはザコ敵退治には滅法役立つ組み合わせです。タクティクスオウガで言うところのパラダイム+アニヒレーションのようなもので、あっという間に敵を一掃することができます。
 他にも全体の防御力を上げるパラディンの陣形防御と、同じく全体の属性防御を上げるメディックの医術防御の組み合わせは、初代スト2でのソニックブームとサマーソルトという二つの迎撃ミサイルを併せ持つ米国軍人のような堅牢振りを見せつけ、全くもって敵の攻撃を寄せ付けません。
 このように世界樹のパーティ編成ではどの職業を選ぶか、と言うことではなく、どんな組み合わせを目指すか、と言うことが重要になります。そのせいもあって単純に職業を並べただけでは納得できない奥深さがあるワケですが、そこをあーでもないこーでもないと頭を捻っている間が面白いんですね。
 まぁ、実際にはどんな組み合わせでもそれなりに冒険はできるので、結局は自分が好きなパーティで進めるのが一番ですよね。私も色々入れ替えてみたりはしたんですが、最初のメンバー以外の構成がどこか腑に落ちなかったので、結局は最初の構成に落ち着きました。

 世界樹の面白いところは、これだけ色々パーティの組み換えを行ってもまだまだ試行の余地が残されているということで、ブシドーやカースメーカーといった職業については私はまだ登録すらしていない状況ですし、各職業にしても成長の方向性が幾つもあるので、未だに(便宜的な意味での)最良のパーティ編成が見えてこないことにあります。
 こうなるとやっぱりキャラクター登録数は20枠欲しかったなぁ、とか、シナリオ楽しむ為にもう一本ソフト欲しいなぁとか思ったりしちゃうんですが、まぁ、そこはなんとか工夫して、これからも色々試行錯誤しつつゆっくり楽しんでいこうと思いますよ。