世界樹の迷宮・その8(B12F)
ダークハンター♂ ジャドの日記
……最近、体の調子が悪い。
それと言うのもあの迷宮に巣穴を拵えていた蟻どもを潰してからのことだ。
あれで虫ってヤツは様々な病原菌を媒介したりする。
ひょっとしたら連中の牙や針からヤバい菌を貰ったのかもしれない。
とは言え、仲間は揃ってピンピンしてやがる。
ひょっとしてオレが人一倍繊細なだけなのか……?
オレは医者が嫌いだ。
苦い薬も、痛い注射も、長い待ち時間もひっくるめて全部が嫌いだ。
薬が軒並み高いのも気に入らないし、冒険で得た金が治療費で消えるのは屈辱的だ。
更に言えば「身の程を弁えぬ無茶はやめたまえ」なんて訳知り顔でほざく奴がいるのも許せない。あのクソジジィめ。
そんなワケで医者に掛かることを決断するまでは随分かかった。
体調に好転の兆しが見えないまま2日経ち、3日経ち、5日目の今日にして危機感が嫌悪感を押しのけた。
ただ、町の病院に行くのは気分的にも金銭的にも抵抗があったので、オレは仲間を頼ることにした。
体を引きずるようにしてルーノの部屋を訪ねると、彼女は快くオレの頼みを引き受けてくれた。
彼女はいそいそと準備を始めると、カルテを携えて問診を始めた。
「熱はありますか?」
「いや、あんまり。」
「咳は出ますか? 鼻水は?」
「全然。」
「体がダルかったりしますか?」
「強いて言えば。」
「うーん、どこか痛む箇所とか。」
「そういうのじゃないんだよな。」
「……じゃあ、症状を説明してください。」
「そうだな……」
オレは思いつくまま自覚症状について並べ立てる。
最近、色の判別が難しくなってきたこと。暗いところや狭いところにいないと落ち着かないこと。妙に夜目が利くようになってきたこと。3件隣の家の夕飯の匂いがわかるくらい嗅覚が鋭敏になってきたこと。突如として甘いものが無性に食べたくなること。etcetc……
始めは思案顔だったルーノだが、やがて何かしら思い当たる症例があったのか、猛烈な勢いでカルテを書き始める。
「該当する症例ナシ」とでも診断されたらどうしようかと始めはヒヤヒヤしていたが、そこはさすが腕っこきの衛生官と言ったところだ。
ルーノは視線をカルテに落としながら矢継ぎ早に質問を繰り返す。ルーノの質問に答えながら、オレは使命感に燃える彼女の横顔をぼんやりと見つめていた。
こんなオレのために彼女は親身を尽くしてくれる。彼女はオレが今まで会った全ての医者と違っていた。不調で心まで弱くなっていたのは否定できない。だが、それでもその時のオレにとって彼女はまさに白衣の天使に見えたんだ……
「まさか、そんな……! でもそれ以外考えられないわ……!」
結論が出たのかルーノの驚愕の篭った声に半ば失っていた意識を取り戻す。
彼女はこちらを見て、慌てて笑みを浮かべ、それから口元を引き締めて切り出した。
「最近のジャドさんの行動、そして自覚症状から一つの結論を得ました。信じられないことと思いますが良く聞いてください。」
「覚悟は出来てる。本当のことを教えてくれ。」
ルーノの口ぶりからしてオレの体を蝕む病原体はかなり悪質なものらしい。
まぁ、いいさ。冒険者になることを決めたときからマトモな死に方はできないと覚悟している。
「原因は……ドレインバイトですね。」
「は?」
ルーノが何を言ったかオレは理解できなかった。
ドレインバイト。新手のウィルスか何かですか?
「ドレインバイトです。あの剣でダーッてやる。」
「いや、それはわかるけどよ。」
オレが聞きたいのはドレインバイトとこの症状がどこでどう繋がるかってことだ。
眉を顰めるオレにルーノは噛んで含めるように語りかける。
「……ジャドさん、よーく思い出してください。最近、ドレインバイトを使ったのはいつですか。」
「それは当然、蟻の巣で…… あ!」
蟻。ドレインバイト。症状。この3つの符号がもたらすものは一つ……!
「そうです、そうなんです! ジャドさんは蟻にドレインバイトをしすぎた結果、その生気を吸い取るのみならず、蟻に近しい体質までも得てしまったのです!」
「な、なんだってー!」
まさかこの身がいつの間にか蟻に変化していたとは!
にわかには信じがたいが、最近どうも女に頭があがらないと思っていたのもそれが原因かと思えば道理も通る。
……いや、それはちょっと違うか?
ともあれ衝撃の発言に朦朧としているオレにルーノは身を乗り出して熱い口調で訴えかける。
「医学の発展のためにも教えてください、ジャドさん! ドレインバイトってどういう仕組みなんですか!?」
「いや、そんなこと聞かれても困るっつーかなんつーか! ほら、アレって理論じゃなくて技術っつーかさ……」
「ならば体に聞きます!」
言うが早いかルーノは突如オレの顔目掛けてメスを投げつける。
空気を裂いて飛来する白刃を寸でのところで避けるとオレはくるりと踵を返して逃げ出した。
「だぁぁぁあっ! 一体何のつもりだぁぁぁっ!」
「ジャドさんを解剖して医学の光を当てるんです! 青い血を! 青い血を見せてくださーいっ!」
「ちょっ! そりゃ危ないって! マジでやめ……っ! ほ、ほぎーっ!」
……まぁ、それからのことはあまり話したくない。
要するに俺が言いたいのはだ。
オレは医者が大っ嫌いだ、ってことだけだ。
私にとって蟻ゲーと言えばロマサガ2ですが、人によっては地球防衛軍を思い出す人もいるようです。この辺で年齢の差が。
最近では風来のシレンでゲイズが脚光を浴びたように、ゲームで印象的だった強敵を象徴化する動きがありますが、そうすると世界樹の迷宮の代表的なモンスターはさしずめカマキリでしょうか。と言うか、モグラでも毒アゲハでも鹿でも牛でも狼でも花でも成り立ってしまう世界樹の場合、一つだけモンスターを挙げるのもなかなか困難と言う気もします。人によってその辺は経験が異なるワケですし。
ともかく、第3階層に出てくる蟻も見事にこれら強敵モンスターの一種なんですが、とにかく制圧までにはかなりの苦労を要しました。巡回している兵隊蟻を追尾してたらいきなり反転→戦闘→増援のコンボを食らったり、ボスの女王蟻を倒す際には5Fのスノードライブとの経験から、「まずは周りのガードアントを確固撃破、しかるのち本丸に乗り込むべし!」と作戦を立てて挑んだらガードアントが次から次へと押し寄せてくるわ、一度倒したはずのガードアントがすぐに生き返ってくるわ、なんとか戦闘を終わらせてもガードアントに逃げ口塞がれてるわで、女王蟻と戦う前から既に敗北を喫した形になっていました。
まぁ、蟻退治はとにかく戦闘を長引かせないだけの突破力が必要になりますね。自分の場合、新人ソードマンがまだ訓練中だったことやアルケミストが氷の錬金術を使えなかったことが結構響いて、とにかく攻め手にかける編成だったので、実際に女王を倒すまでえっらい時間が掛かった覚えがあります。
またそこで変にバードがいたもんだから「TP回復で長期戦上等!」なスタンスで勝負を挑んだのも間違っていたというかなんというか。最後はアルケミストの全体雷で無理矢理下っ端ごと焼き尽くしましたが、どうにもこうにも疲れる一戦となりました。相手に合わせた戦略って大事ですよね。
さて、女王蟻を倒してひとまず落ち着いた我らがティークラブ一行。採掘やらソードマンの育成やらで11階をウロウロし、そろそろ先に進むかと再び12階に降りてみると。
……なんで女王蟻復活してるのん。orz