世界樹の迷宮・その9(羽ばたきカブトについて)
バード♂ エバンスの日記
私達は今日の探索に一区切りをつけ、キャンプを張って夜を明かすことに決めた。
皆の強烈な推薦(「リーダーステキ!」「リーダーって頼れる!」「リーダー働け!」)で夜番を任された私は、皆が寝静まった後も火種を絶やさぬよう定期的に小枝を火にくべながら、ぼんやりと今回の冒険について思いを巡らしていた。
不意に低い衣擦れの音がしたのでそちらを見やると、寝床代わりの毛布がもぞもぞと蠢いている。アリスベルガだ。彼女は毛布から這い出すと一度大きく息を吐き出してから、こちらへ向かってきた。
「眠れないのですか?」
「ああ、なかなか……な。」
私は携帯用のポットから紅茶を注いで手渡す。彼女は小さく礼を言ってそれを受け取ると、焚き火を挟んで向かいの岩に腰を下ろした。
「何か悩み事でもあるのですか? 私でよければお聞きしましょうか。」
「……」
焚き火から立ち上る熱気にゆらゆらと空気が揺れる中、彼女の顔は深い陰影に彩られている。
彼女は何かを逡巡しているように見えたが、それ以上に顔色を悟られまいとしているようにも思えた。
「……詮無きことを聞いて、幼稚な奴と軽蔑されるかもしれないが……」
二杯目の紅茶を飲み終えた頃、固い口調で彼女はそう言った。
「一度そう認識してしまっては、こればかりはどうにもならぬ…… 記憶を改竄でもしない限りは、だ。」
彼女の口調の端々から苦痛の吐息が漏れていたのを私は見て取った。
元々こんな冒険稼業とはかけ離れた生活を送っていた彼女のことだ。
迷宮という非日常の空間で多大な違和感とストレスを感じていたとしても不思議ではない。
熟練の冒険者ほど自然とそれを受け入れるのだが、冒険者と迷宮は共生体なのだ。
端的に言えば、私達は迷宮の吐き出した空気を吸い、迷宮は私達の吐き出した空気を吸う。
冒険者と迷宮は互いに命をサイクルして生きている。
その感覚を生理的に受け入れることが出来ず、自ら廃業を選択していった冒険者たちを今まで私は多く見てきている。
彼らは迷宮に拒まれた存在ではあるが、ある意味では幸せだ。彼らはもう迷宮で息絶えることはない。
「お聞きしましょう。私にあなたの悩みを解決できる知恵があればよいのですが。」
「……感謝する。」
軽く頭を伏せて彼女はボソボソと語り出した。
「……その、見えてしまうのだ。」
「は?」
「……一度そう見えてしまうと、もうダメだ。それとしか見えない。」
「ええと、何が?」
「だから……」
「ええ。」
「羽ばたきカブトの甲羅にスマイリーフェイスが浮かんで見えてしまうのだ……っ!」
「……」
「……」
「疲れてるんですよ、きっと。」
「……そ、そうだな。」
彼女は改めて就寝の挨拶を告げると寝床へ戻っていった。
毛布に包まって睡眠をとる彼女の顔に先ほどの陰鬱さは見受けられない。
きっと、重要なのは悩みを一人で抱えることではなく、誰かに打ち明けることなのだろう。
私は彼女に何もしてやれなかったが、多分、それでもいいのだ。
私の役回りとはいつもそういうものなのだから。
羽ばたきカブトの画像を撮ろうと思ったんですが、どうしても画面がボヤけて失敗……! DSの画面を上手く撮るコツとかあるんですかねぇ。
というかニッコリマークとかスマイルマークとかで検索かけてもなかなか当たらない不遇。今日、正式名称を初めて知りました。
このネタをどうやって世界樹のシステム紹介に結び付けようかと考えましたが、色々あって諦めました。
あんまり特徴的なキャラじゃないしなぁ、カブト。浅い階だとちと困るんだけど、錬金術で一発。TP節約するつもりで進軍してるときに出くわすと嫌な奴です。攻撃が通りません。
羽ばたきカブトにスマイリーフェイスなんて見えねぇよ! とお怒りの方々へ。深層に行くと分かります。多分。