世界樹の迷宮・その20(B12F)
ダークハンター♂ ジャドの日記
蓄光性のコケやシダの放つ柔らかな光は、壁面はもとより、石造りの床から高く遠い天井まで回廊全てを淡い藍色の光で包んでいる。
オレ達の目前にいるぬめぬめとした粘性の体皮を纏う醜悪な魔物とてそれは例外ではない。
「疑念から出、暗黒から出て行き、日の上るまで〜」
光を照り返して青くくすんだぶよぶよとした肉塊。
ギョロリとした大きな目は一見ユーモラスではあるが、同時に下卑た嫌らしさを感じさせる。
道化師の目に似ているな、とオレは愚にもつかない感想を抱いた。
頭の半分ほどもある大きく裂けた口からは、巨大な軟体動物を思わせる真っ赤な舌が時折顔を覗かせる。
この魔物は巨大な舌をまるで鞭のように操り、獲物を殴打し、束縛し、捕食するのだ。
「ジャドと同じだな」と呟きを漏らした聖騎士の横顔をオレは気づかれないように一睨みした。
「王は日を浴びて歌いながら、剣を抜いて馬を駆った〜」
その魔物はまるで嘲笑うかのように低い喉鳴りでこちらを挑発する。
オレ達は忍耐力を総動員して攻撃衝動を抑えると、不動の姿勢を取り、怒気を篭めた視線をもって魔物を威嚇し、牽制する。
「王は望みの火をふたたび点し、望みを抱きつつ果てた〜」
焦るな、手を出すのはまだ早い。
目と目でオレ達は呼び掛け合い、今にも武器を以って切り伏せようとする自分を御する。
今、ここで動くのは決して賢いやり方じゃない。
攻勢に転じる一瞬の間を捉えるべく、オレ達は神経をすり減らつつその時を待っていた。
「死を越え、恐れを越え、滅びを越えて〜」
それにしても……
「人の世の生死をぬけて、永久の栄えに上っていった〜」
「一体いつまでこの歌を聞いてりゃいいんだよ!?」
「我慢してください! 『呪い』が解けるまでの辛抱です!」
『呪い』はパーティの戦力を削ぐバッドステータスの一つです。『呪い』状態になったキャラクターは敵にダメージを与えるごとにその半分のダメージを自らも受けてしまうため、迂闊な攻撃を仕掛けることが出来なくなります。
幸いにも『呪い』は時間の経過と共に解除されますので、時間をかければ安全に『呪い』から逃れることが出来るのですが、敵の攻撃が極めて熾烈な世界樹の迷宮では一度防戦に回ってしまうとあっという間に被害が拡大するので、できることならば『テリアカβ』やメディックのスキル『リフレッシュ』などで即時に状態を回復したいところではあります。
さて、第3層に生息する『呪いガエル』は、パーティ全体に対して『呪い』をかけてくる極めて厄介な相手です。私が初めてこのモンスターに遭遇したとき、世界樹のマドハンド的存在の『森林ガエル』と見間違えて、普通に攻撃を仕掛けてしまいました。すると先制で『呪いの声』。バシバシと呪いにかかるマイパーティ。そこで満を持して繰り出されるアルケミストの大雷嵐の術式。
当然、アルケミストの装甲は紙ですからバックファイアを食らって即死亡。『呪い』の効果についてよく知らなかったこともあり、一体何が起きたのか、その時はさっぱりわかりませんでした。
それからもこの『呪いガエル』は至るところでパーティを苦しめます。呪われる前に先手必勝と攻撃を仕掛けても、恐ろしいスピードで『呪いの声』を撃ってくるし、そういうときに限ってクリティカルが出たりして。
あんまりに嫌らしい特殊攻撃だったので、B12Fに降りずに延々B11Fで経験値稼ぎをしてたこともありました。なので個人的にはこの『呪いガエル』は世界樹の迷宮で一番記憶に残っているザコ敵かもしれません。攻撃は『危険な花びら』の方が厄介なんですが、時間を無駄に使わされるという点で嫌らしいなと。
呪われていると当然パーティは身動きが出来ませんので、時間つぶしを兼ねてバードの歌謡ショーが始まります。特に毎ターンTPを回復する『安らぎの子守唄』はTP消費の激しいアルケミストと相性がとても良く、『呪い』を受けた際には毎度のように歌ってました。
「戦闘を早く終わらせないといけない!」って考えてると『呪い』って凄いイライラするんですけど、「戦闘が長引いてもいいかー」と考えると精神的には結構ラクになるんですよね。そういう意味ではこの階層から復帰を決めたバードは非常に役に立ってくれましたね。
月日を経て2回目のプレイ。私はまたしてもB12Fに降り立ち、この『呪いガエル』と相対することとなります。以前と違って今回のパーティはブシとカスメの肉弾戦パーティ。
守るという選択肢のないこのパーティ、いかに『呪い』が相手でも殴り勝つしかありません。
開幕『呪いの声』であっさり呪われたブシドー、肉を切らせて骨を断つとばかりに渾身の『踏み袈裟』で『呪いガエル』を攻撃。そして撃破。
しかし来ると思ってたバックファイアがありません。
……どうやら『呪い』がかかっている状態でも一発で敵を倒せばダメージは受けない様子。
あー、つまり1回目のプレイでは腰が引けた状態で戦ってたせいで被害をいたずらに悪化させてたみたいです。それを知ってればもうちょっと何とかなったのになぁ。
いやいや、『呪いガエル』、一筋縄では行かない相手です。
追記するとペイントレードは『呪い』のバックファイアを受けないようです。これを知ってからは『呪い』を使う敵との戦いが随分楽になりました。