世界樹の迷宮・その21(B26F)

バード♂ エバンスの日記


 その日、私達はかつて『王』を名乗ったある一人の男の居城に赴いた。
 それと言うのもつまるに私達は迷宮に眠る『お宝』の存在を諦めきれずにいたからだ。
 結局のところ、迷宮を踏破したところで私達が俗な人間であることに変わりはないのである。


 調査は、金銭に対して人並みならぬ執着を見せるウィバが陣頭指揮を執った。
 宝箱を見ると途端に瞳を輝かすジャドがそれに従い、(素性がいいせいか)金銭には頓着のないアリスベルガとルーノが浮かない顔で追随する。
 私はまぁ、言ってみれば保護者のようなものだ。


 ウィバは旧時代の遺物とでも言うべき失われた技術の片鱗が残されていることを期待していたようだが、どうやらそれら品物は長い時を経て紛失してしまったか、消費されてしまったらしい。
 目に付く場所で値打ちのあるような品物は一切見つけることが出来なかった。
 それでもウィバとジャドは変わらぬ情熱を以って『王』の部屋の壁という壁、床という床を丹念に調べて回り続けたのだ。


 「あったぞ、階段だ!」


 2時間を経過した頃だろうか、ウィバとジャドの執念がようやく実を結んだ。
 途中、アリスベルガのリタイヤ宣言を受けてなお彼らは自らの信念を曲げることなく調査に没頭し続けた。
 その甲斐あって彼らは『王』が座していた巨大な玉座の裏に下層へと繋がる階段を発見したのである。


 「玉座の裏の階段か。お約束だな。」


 降りてみるか、という問いかけに私達は頷く。
 調査の終了を何度も提言していたアリスベルガでさえ、今では新たな未踏の地の発見に顔を上気させている。
 階段の奥に待っているのは『王』が現世と隔絶した世界だ。
 『王』が階段を隠した理由は定かではない。しかし、一つだけ確かなのはこの階段の奥には『王』が余人の目から防がねばならなかった大いなる秘密が隠されているということである。
 私達は恐る恐る、しかし、今までにない興奮を胸に新たなる世界への一歩を踏み出した。




 階段の奥に広がっていたのは壁面から床面まで全てが赤く染まった空間だった。それはまるで生物の器官のようにゆるやかに律動し、蠕動している。まるで自分たちが何物か巨大な生き物に飲み込まれてしまったような、そんな錯覚さえ覚える。
 私達は呆けたように周囲を見回し、嘆息する。まさか迷宮がこんな場所に繋がっていたなんて……


 ある種の感銘に包まれていた私達を現実に引き戻したのは腹の底を不愉快にさせるヴヴンという音だった。
 振り返った私達の視線の先にはゆらゆらと宙を泳ぐように浮遊する物体。
 それは自らの意思を持たないようでありながら、ある一つの目的のために私達に接近しつつあった。
 ……すなわち、私達をこの場所から排除しようとしているのだ。
 近づくにつれ、その影を顕にする敵性体。その姿はそう、まるで……



 「「「耳だーっ!」」」



 ……いや、絶対耳じゃないから。





 世界樹の迷宮の最深層である第6層は生物の器官をイメージさせるちとグロい空間です。そこでパーティの迎撃に現れるのが世界樹の抗体の一種であろうと思われるルーカサイトです。
 で、このルーカサイト。初見では一体なんなのかサッパリ分かりませんでした。ルーカサイトでググってみてもヒットするのは世界樹ばっかりだし、一見して「み、耳……!?」と勘違いしたのは私だけではないんじゃないでしょうか。「あ、皿かも!」と思ったけど、やっぱりそれも違うし。
 ともあれ、このルーカサイト、数ある世界樹のモンスターのなかでもダントツのシンプルさ加減です。画像を貼れないんでアレなんですが、まぁ、赤血球とか白血球とかそういう類のモンスターです。サガ2を思い出しますね。
 ただ、あんまりにデザインがシンプルすぎるんで「これはひょっとして発注したんじゃなくて新納さん辺りがチャッチャと描いたものじゃなかろうか」とか勝手に想像したりもして。モンスター一つで内情についてこれだけ妄想を逞しくできるんだから、このゲーム、裏読み好きには持って来いなんじゃないかと最近良く思います。

 ところでこのルーカサイト。敵としてはかなり面倒な部類に入ります。まず弱点がない。これは非常に困る点です。というのも大抵この辺のザコはアルケミストの術式で一掃出来るのですが、弱点を突けないルーカサイトはなかなか一発では倒せないワケです。レベルを上げれば力押しでどうにか押し切ることが出来ますが、このダンジョンに入った頃はかなりタフに感じる相手です。
 更にルーカサイトの厄介なところは石化攻撃を使うところにあります。大抵のRPGの常識どおり、このゲームも石化は厄介なバッドステータスです。ただ、このゲームは石化を直すよりも死んだキャラを復活させるほうがコスト的に安価な為、石化は「死んだほうがまだマシ」と思われるのが全く救いのないところで。施薬院でも何気に石化の方が治療に費用がかかったりで「いっそのこと殺してくれ!」とモンスターに念じたプレイヤーは少なくないのではと思います。

 とまぁ、そんな感じで色々と印象深いルーカサイトですが、彼こそ第6層のテーマを(設定的にもバランス的にも)明確に教えてくれる第6層を象徴するモンスターと言えます。他のモンスターは全部以前の層の色変えモンスターなワケですから、もしルーカサイトがいなかったとしたら、プレイヤーにスルッと第6層の設定を飲み込ませることができなかったんじゃないかなと思います。惜しむらくはやっぱりもうちょっとデザインが凝っていればなぁ、ってことなんですが、あのデザインだったからこそ執政院でモンスター図鑑を見たときの「そうだったのか!」感があったのも否定できず。まぁ、力点の置き方としては正しいのかなという話です。