世界樹の迷宮・その26(呪歌について)
バード♂ エバンスの日記
吟遊詩人としての私の役割とは、すなわち『呪歌』を用いて仲間の能力を最大限に引き出すことにあります。
『猛き戦いの舞曲』の調べで古の英雄の如き勇猛性を呼び覚まし、『聖なる守護の舞曲』の旋律で苦痛に物怖じせぬ抵抗力を与え、『韋駄天の舞曲』の演唱で獲物を狩る肉食獣の躍動感を身につける。
派手さにこそ欠けるものの、『呪歌』とは確実にパーティの戦力を底上げする『縁の下の力持ち』的な存在なのです。
しかし、現状に満足するのではなく、更に『呪歌』の有用性を高める方法はないものでしょうか? ヒントを得るために私は仲間に尋ねてみました。
「『陣形防御』と『医術防御』があれば『聖なる守護の舞曲』は不要なのではないか?」
うっ、痛い指摘です。確かに二人の特技と比べて『呪歌』の効果が薄いのは否めませんね……
「オレは縛りがメインだから『序曲』ってマジ意味ないよな。」
ああ、特技には属性が乗らないので使いづらいんですよね。『序曲』は専ら自分専用な気が……
「『幻想曲』を全部マスターしてくれないか。」
いや、確かに錬金術師は『呪歌』の恩恵を受けづらいんですけどね。さすがにそれは……
……なんだか気が滅入ってきました。
激励の言葉と、ついでにアドバイスの一つも貰えればと思っていたのに、自分の存在を全否定されているような気さえします。
私は悲傷に満ちた心をなんとか鼓舞しつつ、半死半生の体で最後の仲間の元へ辿り着きました。
「今のままで十分ですわ。」
ありがたいです。ありがたいんですけど、もっと心に響くフォローが欲しかった……っ!
力なく薄笑いを浮かべる私を見て、慌ててルーノが言を継ぎます。
「いえいえ、そういう意味ではありませんわ。エバンスさんの『呪歌』にはみんな本当に助けられています。いつも感謝していますよ。」
……え、それは本当ですか?
「ええ、『安らぎの子守唄』があるからこそ私達は力を余さず特技を使えるのですし、『敵対者』との戦闘では『猛き戦いの舞曲』のサポートはかかせませんわ。」
ああ、初めて私の存在を肯定してくれたあなたに感謝します。
私はいらない子なんかじゃないですよね?
「そうですね、その上で『呪歌』をさらに役立てるのでしたら……」
おお、その上アドバイスまで頂けるのですか。
全くあなたは女神のような方です。お礼に一曲、あなたを称える歌を作って差し上げましょう。
「いえ、結構です。」
……そうですか。
「そうですね、戦闘の開始と共に『呪歌』を演奏できればより高い効果を見込めるのではないでしょうか。今のエバンスさんに必要なのはズバリ行動の早さ、スピードだと思います。」
ふむ、なるほど。戦闘の開始と共に私が仲間の力を引き出す。そしてパワーアップした仲間が万全の体勢で敵に立ち向かうという筋書きですか。
技術に更に磨きをかけ、複雑な演奏を弾き熟すテクニックが今の私には必要だということですね。
「お役に立てたのならよかったのですけれども。」
あなたの言葉こそ私の求めていたアドバイスです。ありがとうございました。
「と、いうワケで素早さを重視した装備を整えてみましたよ。」
迷宮の妖鳥の羽根を矢羽に誂えたザミエルボウ。
世界樹の大葉を輪環状の金糸に通した世界樹の首飾り。
そして甲虫の甲殻を魔物の血液で染め上げ、深紅の毛皮で飾り付けたクリムゾンレギンス。
全てが素早さを高める魔力を秘めた装備品です。
「……いや、それはわかるんだけどさぁ。」
ジャドが私の下半身にちらちらと目をやって口をモゴモゴと動します。
「スパッツはないだろ、スパッツは……」
……クリムゾンレギンス。すなわち深紅のスパッツ。なかなか動きやすくていい塩梅です。
某所でレギンス=スパッツという話を聞いたのでこんな話。
最近、装備がタイガーキャップのままだったバードの装備をクリムゾンレギンスに変えたばっかりだったので、この話を聞いたときスネ毛を露出させてるバードを想像して噴出しそうになりました。
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/beauty/fashion/20060914ok01.htm
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%83%E3%83%84
調べてみたらこんな感じ。長いスパッツとでも言おうか。タイツか。
まぁ、世界樹の迷宮ではカスメが履いてるような(履いてなどいない!?)短い丈のスパッツとイコールではなく、脚絆のような足防具を指しているのだと思われます。でないと素材が変だし。
世界樹は割と聞いたことのないような名前の武器防具が多くて想像がつきにくいことが多いですよね。多くのプレイヤーの煩悩を刺激したと思われるロリカハマタとか(トラバキャンペーンで見たどこかのサイトではチェインメイルのことらしいとの説明があったような。あとロリカセグメンタータは聖闘士星矢の聖衣っぽかった)。
この手の音韻や響きを重視したアイテムを普及させたのは、ゲーム史的にはタクティクスオウガ(或いは伝説のオウガバトル)に遡ることができます。昔のRPGはセルフトーキングというか見た目が自らを語るアイテムが多く(はがねのつるぎとかひのきのぼうとか)、当然ながら世界樹の親元であるWizもその例に漏れません。エクスカリバーだとファンタジーを知らない人にはなんのこっちゃですが、ロングソード+5だと、ああ、ちょっと強い長い剣ね、で通じると。
元来、RPG未経験のユーザーにはいわゆる剣と魔法の世界さえも馴染みの薄い世界なワケですから、出てきたアイテムが武器か鎧か盾か兜かそれとも回復アイテムか、一目でわかるネーミングになっていないと非常に困るワケです。
最近のRPGではアイテム情報をプレイヤーに伝えるテキストが併記されていることが多いので、昔のように8文字でアイテムの形から性能から材質から用法まで詰め込まなくても済むようになったのですが、制限が凄まじく多い昔の時代は本当に大変だったと思います。
話が逸れますが、ドラクエの堀井さんが凄いのは誰でも理解できる簡潔な単語の組み合わせと用途の区別でそれを実現してみせたところです。『どうのつるぎ』とか『こんぼう』とか『ひのきのつえ』とか。イメージがとても浮かびやすいんですよね。
あ、でも当時(小学校低学年の頃)は『ひのき』がなんなのかわからなかったような気もするなぁ。
さておき、DQの素材と外見の組み合わせからアイテムの名前が成り立っていた時代は、やがてFFに代表される伝説や神話から固有名詞を被せたアイテムが主流となる時代に移り変わり、最終的にはゲーム内単語を織り交ぜたオウガ的なオリジナルアイテムの時代が到来します。名前の機能性よりも芸術性を重視した時代に推移したということですね。
そういう視点から見ると世界樹のアイテムはかなり熟した、芸術性の高い単語群で構成されています。武器なんかは割とTRPGをやってる人間からすればお馴染みの名前が並ぶんですが、防具なんかはどこから取ってきたのか良く分からないものも多いです(それともメガテンでは一般的なのかしら)。
つまりアイテム名だけ見ても世界樹はいわゆる古典的なRPGとは一線を画した、現代的でスタイリッシュなRPGだということが理解できます。昔ながらの土臭さ、泥臭さから抜け出した洒脱な今風のRPGです。
これが程度を越してしまうと今度はユーザが疎外感を感じてしまうこともあるのですが*1、世界樹は序盤は割と普通の単語で構成されたアイテムばかりなので*2分かりやすい作りになっているように思います。
ただ、製作者の認めるところのアムリタとかネクタルとかテリアカとかの混同しやすい名称もありますので、諸手を上げて100点満点とはちょっと言い難いです。それでも言語感覚のバランス、機能性から芸術性へのゆるやかな移行がゲーム内でなされている点が昔ながらのゲーマーだけでなく、最近のユーザーでも違和感なく入り込める世界樹の世界を作り出しているのではないでしょうか。
結論としてカスメはスパッツ装備できないからやっぱり履いてないんだよってオチを持って来ようとした割にはなかなか学術的な内容になりました。品性を疑われずに済んでよかったです。