バランスボードってなんか凄くね?

 昼食のグラタンを作りながら、Wii Fitのバランスボードは実は革命的な手軽さを実現したデバイスなんじゃないか、とふと思った。


 体重を記録する、という行為は楽しい。自分も一時期、色々なダイエット法を調べては実践してその効果について一喜一憂したりした。ダイエットってのは自分の中ではゲームの一種で、目的があって、ルールがあって、攻略法があって、結果がある。
 敵は自分自身。それだけにこのゲームは難易度が高く、時間がかかる。だけど、ダイエットは決して理不尽なクソゲーじゃない。そして悪戦苦闘した記録は自分だけの勲章になる。記録を読み返して成果を喜ぶ。或いは失敗に奮起する。そういう楽しみ方ができる。


 だけど記録を続ける、という行為は楽しい一方で面倒なものでもあったりする。記録をつけるためには結果を出さなきゃならないしね。


 例えばWii Sportsで肉体年齢を計る場合、ランダムに選ばれた3種目のトレーニングをプレイして、その結果から肉体年齢を割り出す仕組みになっている。一つのトレーニングは1、2分程度。総計すれば5分程度のインプットでその日の肉体年齢というアウトプットを得ることができる。
 ただ、数字で書いてみると「たった5分」でも、この「たった5分」を毎日続けるのは実は非常に難しい。自分もWii Sportsを買った日から暫くは肉体年齢を測定していたものの、習慣にはならずに3日坊主で終わってしまっている。まぁ、Wii Sportsを立ち上げると5分じゃそこいらじゃ利かないくらい遊んじゃうってのもあるんだけど。


 これに対してWii Fitのインプットは極めてシンプル。バランスボードに乗るだけ。5分どころか5秒もかからない(よね、多分)。
 もちろん、Wii FitにもWii Sportsと同様のバランス年齢を計るためのプログラムが用意されているとは思うけれど、最低限BMIだけを記録するだけならインプットの手間はWii Sportsよりも遥かに小さい。それにも関わらず得られるアウトプットのバリューは生活上極めて大きいのだから、インプットに対するアウトプットのパフォーマンスは極めて大きい。
 そしてそれをサポートする工夫が随所に見られるのも丁寧な心配りではある。ディスクを用いないチャンネル起動や、バランスボード単体での通信を可能にした点などなど。
 かかる手間は少なければ少ないほどいい。なにせバランスボードが相手をしなければならない体重計と言うやつは、テレビもいらなければスイッチもないのだから。このシンプルな装置に勝る手軽さまではさすがにバランスボードも保証できない。
 だからこそ重要なのは体重計になるべく近づくことなんだろうな。アウトプットのバリューで勝負するためには、まずインプットの垣根を低くしなければならない。


 DS以降の任天堂の示すインターフェースの方向性は要するに「ユーザに強いる労力を最小に抑える」ということに尽きる。ボタンの数を極力排し、生活に密着した機能性重視のデバイスは、ユーザをインプットの分岐路で迷わせることなく目的地まで連れて行くことを可能にした。
 また、インプットのバリューは「即時性」「簡潔さ」「扱いやすさ」「出力の多様性」などの項目の積によって算出することができるように思うけれど、数多のインプットデバイスに比べて著しくバランスボードが優れているのは、初期の習熟が不要な点に尽きる。体重計に乗ることは誰にでもできる、ってこと。それこそ犬や猫でもできる。
 これより簡潔なインターフェースを挙げろと言われたら自分はそれこそSFにでも出てくるようなメガネ型コントローラくらいしか思いつかない。


 手先の器用さも力もいらない。ボタン配置を覚える必要もない。重力と言う普遍的に存在する法則に従うだけでいい。Wii Fitは従来のデバイスがどうしても到達できなかったインプットの一つの極地に達した。




 ……って書くとなんだかとても凄いインターフェースのように思えてきませんかね。ただの体重計なんですけどね。
 当然ながらバランスボードに不要なのは初期の習熟であって、そこからプレイヤーがバランスボードの扱い方を覚えてよりよいボディバランスを会得していくには若干の練習が必要ではある。犬や猫は体重計に乗ることはできても、画面に合わせて体重移動することはできないだろうし、操作をマスターするにはやっぱり従来のデバイスと同様の修練が必要だとは思う。
 とは言え、バランスボードの敷居の低さに今まで述べてきた通りだし、触れて貰えればその楽しさがわかる作りになっているんだろうなと思う。まぁ、実際にバランスボードを触ってみたワケじゃないので今は想像でしか語れないんだけど。


 ともあれ、そういう革命的な変化をインパクトとして感じさせずに、スルッとお茶の間に滑り込ませるのが任天堂の得意技なんじゃないかと自分なんかは思う。
 だからこういう風に「バランスボードって凄いんだぜ!」ってしたり顔で語るのはむしろ普及の邪魔をしてるようなものなんだけど、まぁ、そういう思考経路を辿らないと納得できない自分みたいな人間もいるので、敢えて昼時の妄想を書き出してみた。グラ タン おいしか た です。