高速カードバトル カードヒーロー

 あらゆる場所から品薄警報が相次いでいたカードヒーロー。普通に考えればこれは明らかなカメクラフラグ。

 とは言え初週2000本程度のゲームと比べると発売元が任天堂だという安心感がある。任天堂の名前がついているだけで取り扱う店の幅はグッと広がる。シータやマグキッドの例を見よ。
 まぁ、売れるか売れないかは別として、店側としては取り合えず入荷しなければならないのが任天堂商品。そのせいなのかマグキッドの値下がりが凄まじいけど。


 任天堂発売。そして品薄。この二つのキーワードが示す類型のパターンはフォーエバーブルー! あれは確かヨーカドーで買ったんだったよな…… さらに潜在ユーザーがFEBと比較して多目なことと、悪夢のクリスマス商戦という時期を鑑みると、安心感よりは不安感が先立つ。やはりカメクラフラグの匂いが拭えない。
 さすがに年内のカメクラ遠征リターンズは回避したかったので、今日は安全策を打って昼休みにツタヤに遠征することにする。ここで確保に失敗しても、ヨーカドー、GEO、そしてカメクラと、販路は二重三重に確保されている。これぞゲームゲット車懸の陣よ!


 てなワケで勇んでツタヤに行ってみたら、パッケどこにも置いてねぇぇぇぇ! というか他の新作まで並んでないってどういうことだ、とウロウロしてたら店員さんがパッケ戻しにやってきた。FF4が3本とカードヒーロー1本が売れてることが判明。みんな動きが早いなー。
 こちらも昼休みの時間が限られているので、すぐさまレジへ。


 「こちらお包み致しましょうか?」


 あー、ホントにクリスマスなんだなぁ。断るのに妙な侘しさを感じたよ。




 ついでに会社からの帰りがけにGEOに寄ってみたら普通にカードヒーロー置いてあった。なんのためにツタヤまで行ったんだろ…… ちなみに労力順としてはカメクラ>ツタヤ>>>ヨーカドー>GEOくらい。
 売り切れはお茶犬とドラベースドラベースは各所で殲滅戦が繰り広げられているという話を聞いてるので意外ではないんだけど、お茶犬か…… 何気にGBA〜DSのお茶犬は本数出てるんだよなぁ。



 さて、そんなワケでカードヒーロー。バトル自体のテンポのよさは体験版でのプレイである程度判明しているので、それ以外の点を特に注目していきたいなぁ。


 まずはコアゲーマー向きのTCGという題材に対して、カジュアルなユーザをどう引き込もうとしているのか、カードヒーローの導入部分について触れてみたい。
 カードヒーローは初心者から上級者まで幅広く遊べるように、幾つかのルールというかレギュレーションがある。カードゲームの醍醐味はたくさんのカードの中からベストと思う組み合わせをデッキに纏めてプレイすることなんだけど、そうなるとカードゲームは「カードが集まらないと楽しめない」「カード一つ一つのデータを覚えなければならない」という欠点を同時に抱え込むことになる。
 これを解決するために、カードヒーローでは少ないカードで遊べる初心者用のルールと、その発展形となる上級者用のルールと、両方を構築して、次第次第にプレイヤーを初心者から上級者に誘導する形でゲームを展開させる作りになっている。


 なにせ最初にプレイヤーが手にするカードは3枚。しかも全部同じと来たからには迷う暇もない。
 その上でプレイヤーに不要な選択肢を与えずに一本道だけを提示して、「さぁ、前に進んでごらん」と示唆してみせる。カードヒーロー導入の白眉な点は、徹底的な枝葉の切り落としにある。


 この感覚は例えて言えば自転車に乗る練習に近いように思う。自転車に乗れるようになるまでは、誰だって「なんで2輪しかないのに転ばないんだろう」と不思議に思う。「漕げば走る」というそれだけのことなんだけど、それが感覚として理解できるようになるまでは心身共に慣れがいる。
 そしてカードヒーローは懇切丁寧に自転車の乗り方を教えてくれるトレーナーなんだよね。補助輪をつけたり、緩い坂を下らせたり、前を見るようにアドバイスをくれたり、張り合う友達になってくれたり、何もわからないプレイヤーに手取り足取り教えてくれる。
 その結果、一旦走り出してしまえば、その状態が一番安定しているってことに気づくし、そうなれば後は幾らでも好きなようにスピードが出せる。自転車の楽しさが分かる。
 そしてもっと遠くの景色を見てみたいと思ったとき、カードヒーローはすぐさまその要望に応えてくれる。いつもよりちょっと高い目線で見る新鮮な風景をこれでもかというほど味あわせてくれる。このゲームはそういうゲームだ。


 とにかくこのゲームの導入は本当に丁寧だ。前作もTCGとしては極めて丁寧な作りではあったけど、それに満足することなく、よりシンプルで、よりスムーズな導入を目指した姿勢は本当に素晴らしいと思う。



 今回新たに用意されたスピードバトルも、シンプルな割にTCGとして優れた面が多々見えるのが面白い。前作のルールとはまったくと言っていいほど違うんだけど、感触としてはやはりこれは「手軽で奥深い」カードヒーローなんだなと思わされるのが、なんというか不思議な気分だ。
 TCGとしてのスピードバトルの利点を纏めると以下のような感じになるかな。


 1・ピンチになるほど強力なカードが使える逆転性の強いバトルを実現
 2・デッキ事故を防ぐ半固定デッキ
 3・常にエンドカードをハンドしている興奮
 4・常にエンドカードをハンドされてる恐怖
 5・煩雑なコスト計算は皆無
 6・展開は高速。短時間で密度の濃いバトル


 今は物凄く面白いんだけど、もっと多くのカードが手に入ったら、色々とカードを使いたくなるだろうから、その時はこのルールも窮屈に覚えてくるんじゃないかなとは思う。敢えて欠点を言えば弾力性の低さがこのルールの欠点ではあるんだろうけど、今のところは全然気にならない。
 徐々にルールを拡張していくチュートリアル風のストーリーモードを持つゲームは、中途のルールが最終的なルールを目指すための繋ぎとしてしか機能してないものが多いような気がする。だから先を急ごうとする余り落ち着いてプレイできないことが多々ある(それは自分の性格にもよるだろうけど)。
 でも、このスピードバトルは一つのルールとして完成度が高くて、それだけで満足感がある。カードが少ない時期なのに、手持ちのカードだけで十分な戦略とプレイングを楽しめるこのルールは本当に秀逸なデザインだと思うし、この先に上級ルールがあることも忘れて延々とフリーバトルを繰り返している自分を顧みると、本当にこの先どうなってしまうのか予想もつかない。


 カードヒーローは確かに高い完成度を誇るゲームではあるけど、一方で不満に感じる点もある。一番はストーリーモードのテンポに関して。
 自分は体験版でのプレイではストーリーモードの会話の野暮ったさが気になったんだけど、製品版ではメッセージの速度変更があるからまぁ大丈夫だろう、と思ってた。実際、メッセージ速度を変更することはできたんだけど、根本のテンポが、やや、気に入らない。
 この、やや、というのが将来的に慣れるレベルなのか、それとも最後まで気になるレベルなのか、ってのはちょっと判断しにくい。個人的にはもっとテンポ良く会話が流れる方が好みではあるんだけど、ユーザの年齢層を考えるとこの速度も納得できるんだよなぁ。




 そう言えば前作ではストーリーモードはRPG風のマップ移動だったんだけど、今回はADV風にテキストを読み進める形になっているのがなかなか興味深い。
 ポケモンカードGBカスタムロボにしてもそうだけど、当時はストーリーモードと言えばRPG風のモードだったんだよね。戦闘だけを固有のシステムに置き換えたRPGと言うか。アメリカ横断ウルトラクイズだってそうだ。
 それが今になってADV風に纏められたのは、大きな時代の変化だと思うんだよね。スタンダートなRPGの形が昔ほど求められなくなったのと同時に、タッチペンを有効的に使うためにマップを一画面で収める必要性ができたってのが大きな理由なんじゃないかと思う。
 今年買ったゲームでは、くりきんにしても、エレモンにしても、株瞬にしても、形式としては同じ「バトル+ADV」で、この手のジャンルとADVはやはり親和性があるんだろうなぁと思う。




 話を戻して、テンポと言えば、セーブの長さもかなり気になる。これはハード的な特性もあるので仕方がないと言えばそうなんだけど、カードを買うときにセーブ、バトルが終わってセーブ、メールを読んでセーブ、みたいに、セーブが頻発してなおかつ書き込み時間が長いとさすがに鼻白んでしまう。
 GB版カードヒーローでは行動を逐一セーブしまくっていたので、それをDS用に落とし込もうとするとこういう形になってしまうのはわかるんだけど、んー、やっぱり気になることは気になる。



 テキストは味があって面白い。普通にADVとしてもレベルが高いというか、クドさを感じさせることなく、適度に笑いを織り交ぜて、なおかつ熱血で進むのが実にイイ。
 自分は女の子の台詞「超近未来的!」というセンスに痺れた。この女の子、カードショップの店長を篭絡するわ、上級生に部長を押し付けるわ、チャンピオンにレアカードを要求するわ、前作のキャラにも負けず劣らずいい性格をしている。
 主人公も基本は熱血なんだけど、乾いた笑いと聞き流しを駆使する辺り、年の割には世間ズレしている印象が強い。世渡りに長けていると言うか、年上に可愛がられるタイプだなぁ。
 惜しむらくはテキストを楽しむよりも今はとにかくバトルを堪能したいと思ってしまうところがあって、ついついテキストを飛ばしがちになってしまう。とは言え、ストーリーモードは章ごとの再プレイが可能で、単純な2週目プレイよりもフレキシブルにストーリーを楽しめるのはいい点ではある。




 さてまぁ、そんな感じで、まだまだ序盤の序盤しか触ってない状況なんだけど、手触りのよさは今年のゲームの中でも屈指の出来栄えだし、まだまだ全然システムの全容が見えない奥の深さも凄く魅力的だ。
 CPUのルーチンも良好で、一手の重みが大きな緊張感のあるバトルは健在だし、かと言って初心者を置き去りにしない懐の広さも併せ持っている。任天堂らしいコアなユーザもカジュアルなユーザも楽しめる作りに仕上がっていると思う。
 このゲームは「TCGって面白そうだけど難しそう」って人にこそプレイしてみて欲しいゲーム。TCGの持つ数学的な面白さをダイレクトに伝えてくれるゲームだと思うし、一度プレイすればその面白さに病みつきになると思う。
 相変わらず体験版の配布は続いてるので、ちょっとでも興味の沸いた方はぜひとも触ってみて欲しい。ゲームの素性のよさはそれだけでも窺えると思う。