ぼくとシムのまち(Wii)

 本タイトルのレビューを書かせて頂くに際し、本タイトル製品を「Willvii株式会社」様より無償でお貸し頂いております。

 モノフェローズの趣旨についてはこちらをご参照ください。
 https://www.minpos.com/info/monofellows.html

概要

 ぼくとシムのまちは、ある寂れた町の住人となって、町を発展に導く箱庭シミュレーションゲーム。家作りや家具作りを通して住民を町に招き寄せ、親交を深めることで町にかつての活気を取り戻すのが目的。
 シムピープルやシムズといった親作品と比較すると、各種パラメータやお金の概念が存在しないため、ライフシミュレータ的な作品というよりは、デザインを考案して家や家具を製作するデザインツール的な楽しさに主眼が置かれている。
 時間制限や外部時間との連動といった要素もなく、ゲームに追い立てられる要素がないので、プレイヤーは好きなペースで目的を進めることができるのも特徴か。

進行

 ゲームを始めると、プレイヤー扮する主人公は、ロザリン市長に町の紹介を受け、町の発展を促すために住人の頼みを叶えて欲しいと頼まれる。初期状態の町は至るところが廃墟だらけで、主人公の家さえも瓦礫の山になってる有様だ。


 というワケで、ゲームはチュートリアルを兼ねての自宅の設計・建築から始まる。
 エディットモードではブロック状のパーツを選んでレゴブロックのような雰囲気で配置していく。家に必要なのは『扉』と各施設固有の『看板』だけで、後は全くのフリーハンドが許されているので、例えば、外壁をポーンと一つ置いて扉と看板をつけて完成なんてのでもいいし、二階建ての超オシャレな邸宅を作りこむことも可能。ただ、外装はどうあれ、内部の間取りは変わらないので注意。
 自分は母屋と離れを作って、二階に渡り廊下を掛けるようなアグレッシブな家を建築してみたものの、中に入ってみればただの平屋建てでちとションボリした。まぁ、裏返してみればいかに前衛的な建物であっても居住空間は確保されるということで、想像力の行使に制限がかからない点はいいのかもしれない。とは言え作った家は外観そのままにマップに表示されるので見た目をよくしようと力が入る。


 さて、自分の家を作り終えたところで町を巡ってみると、町の住人であるシムから家具の作成を依頼される。依頼された家具は鉢植えを並べるフラワースタンド。しかもフラワースタンドにはリンゴのエッセンスを用いて欲しいとのこと。


 『エッセンス』とは町の至るところで手に入るアイテムのようなもの。例えばリンゴのエッセンスだったら、木を揺らして落ちてきたリンゴを拾うことでエッセンスを一つ入手することができる。
 エッセンスの入手はそれぞれがWiiリモコンを使った味付けがされている。リンゴを木から落とすにはリモコンを左右にブンブンと振って木を揺らす。水中のエッセンスを入手するためには水面の泡立っているところをポイントし、リモコンを引き上げて釣り上げる。地面に埋まったエッセンスは探知機を手に傍に近づくとリモコンが激しく振動するので、そこで地面を掘り返すなどなど。
 手に入れたエッセンスは家具作りの際に置物として使えるし、ペンキとしても使える。例えばテーブルを作る場合だったら、テーブルの上にリンゴを置くこともできるし、テーブルをリンゴ柄に染めることもできるといった感じ。
 家具に自分らしいオリジナリティを付け加えることができるエッセンスは、このゲームで一番重要な要素でもある。エッセンスを制する者は家具を制すると言っても過言ではない。


 さて、家具作りは家作りと同様にパーツを組み上げることで作成する。素組みした家具にあとはエッセンスを塗るなり添え置けば完成だ。エッセンスは1つでも4種の柄に塗り分けることが出来るので、使うエッセンスは一つでも配色を考えるのが楽しい。勿論、シムの要求さえ満たせばあとのカスタマイズは自由なので、例えばベッドならサイドテーブルを付け加えて、バラのエッセンスを添えてあげたり、なんてのはちょっと気が効いていて気分がいい。
 また、エッセンスには「楽しさ」「美味しさ」「まじめ」などのパラメータを上昇させる効果があって、シムの好みにマッチする家具をプレゼントすればなお喜ばれるので手を掛ける価値は十分にある。


 さて、そんな創意工夫を凝らした家具をシムの部屋に配置してあげれば依頼はめでたく達成という運びになる。依頼を達成するとシムとの友好度が上がり、同時にスターポイントを得ることができる。場合によっては新たな内装用のパーツや衣装などをプレゼントしてくれることもある。
 スターポイントは町のレベルを上げる経験値のようなもので、依頼の達成によってのみ獲得することができる。つまり、このゲームの目標である町の発展を達成するためには、シムの依頼を達成すればいいワケだ。


 ちなみにシムの家はプレイヤーが勝手に手を加える事が可能で、欲しい家具を引っぺがして町から追い出してしまうような『黒い』プレイも何気に許されている。シムの家具の中にはパーツやエッセンスを上手く使った物も多いので、家具作りの参考にもなるし、実際自分の家に置きたくなるような力作も揃っている。


 スターポイントが溜まって町のレベルが上がると、プレイヤーが行ける範囲が広がり、手に入るエッセンスもさらに増える。家具作りに使えるパーツも増え、さらに高度で自由な家具作りを楽しめるようになる。
 そうして新しく呼び込んだ住人の依頼を元に家具を作り、シムの依頼を達成し、町を発展させる。『ぼくとシムのまち』の大まかな流れはこんなところだ。

評価点

◎ 明快なコンセプト。依頼を受け、素材となるエッセンスを集め、家具を作り、町を発展させる。全ての要素が家具作りに集約され、シンプルでわかりやすいゲームデザイン
◎ Wiiリモコンを用いた快適なマップ移動インターフェース。ヌンチャクでキャラを操作し、「話す」「家に入る」などの適宜ポップアップしたコマンドをリモコンでポイントして選択する。
◎ マップは俯瞰視点ながら360度視点切替可能でかなり自由。得てしてこのタイプのマップは方向感覚を失いがちになるものだが、スムーズなマップ表示やガイドの充実など、随所に配慮が見られる。
◎ 非常にデコレート性の高い箱庭感。家の外観から内装、果ては家具まで、全てをプレイヤーが好きなようにデザインできるので、自由度は非常に高い。
○ Wiiならではの各種インターフェース。エッセンス集めやエディットモードに無理なくリモコンの操作体系を組み入れている。
○ アバターのパーツが豊富。初期状態で選べるパーツが多い上、追加のパーツも多数。名前以外の全ての要素がゲーム中でもエディット可能な点は嬉しい。体型や髪型の詳細なエディットも欲しいか。

欠点

× ロード時間。画面の切替回数が多く、待ち時間もWiiのゲームにしては長い。
× エディットモードの機能不足。特にアンドゥ。手間の多さを軽減する工夫も欲しい。
× エッセンス集め。数が膨大で集めるのに時間がかかるので作業感を覚える。
△ 住人との単調な会話。台詞の幅が狭く、コミュニケーションの楽しみが薄い。
△ チュートリアルの不足。基本的に操作は簡易で覚えやすいが、突然投げ出される印象を受ける。
△ スタンドアローンで完結してしまうこと。通信機能・画像出力の充実が欲しい。

総評と要望

 『ぼくとシムのまち』の最も優れた点は極めて一貫したコンセプトにあると思う。『いかにナイスな家具を作るか』。この一点にゲームの全ての要素が集約されていて、非常にシンプルでわかりやすいし、可愛らしいキャラクターと明るい街並みも万人向けのデザインを備えている。一方で獲得できる図面や服装などの要素は豊富でボリュームがあり、ゲームを普段触らないカジュアル層にも、深くやり込むコアゲーマーにも楽しめる魅力を内包している。
 また操作性も総じて軽快でわかりやすく、自分の造った家が立ち並ぶ町中を歩いているだけでも楽しさがある。カジュアル向けのゲームは概して外面だけがよく、ユーザビリティを蔑ろにする落とし穴に嵌る場合がままあるが、今作の丁寧な作り込み、基本的な操作体系が練られている点は非常に好感が持てた。


 一方で、画面切替時に発生する長時間のロードや、町中を歩いている最中に発生する処理落ちなど、ユーザビリティを損ねる箇所が随所に見られたのは非常に残念な点。
 基本的にロード時間は内部にキャッシュが溜まれば減少していくので、ゲーム開始時が最も読み込みが長く、プレイを続けていくに従って短くなる。しかしながら、この特性のおかげで、例えば「家具を一つだけ作って終了」といった軽いプレイを楽しみづらいのは、ターゲット層のプレイスタイルにそぐわないように思える。


 基本的なコンセプトの優れているこのゲームは、その長所をより明確に押し出すべきだと思う。
 このゲームの最大の楽しみは『想像力の発露』にあると思うので、ユーザの想像力を極力邪魔しない方向で作りこんでいけば、ますますゲームとしての面白さを鮮明にするのではないだろうか。
 具体的にはエッセンス集めやロード時間を切り詰め、ユーザが家具に触れる時間そのものの割合を増やす。PCゲームのように大容量のデータを時間をかけて処理するのではなく、ハードパワーに適したリソースを適宜投入してユーザに待ち時間を与えない。プラットフォームに適した要素の取捨選択が今後は必要なのではないかと思う。
 また、エディット画面でも操作の失敗を取り戻すアンドゥ機能や、ワンタッチで家具を素組みする機能を搭載し(ユーザの想像力は主に追加部分で発揮される)、よりスムーズにデコレートを楽しめる工夫があればなおいい。
 また、作り上げた家具を評価する仕組みも欲しい。現状はシムの好みが唯一の評価基準であるが、ゲーム内の反応は画一的でユーザが感じる喜びも少ない。労苦に見合わない報酬は家具の作成に作業感を覚えさせ、ゲームの魅力を著しく減衰させることにも繋がる。
 画面写真や家具データをWi-Fi機能を通じて出力と交換をユーザ間で行えれば、一種のコミュニティが生まれ、長く深く愛されるゲームになると思う。

最後に

 Wiiのオリジナル作品としては極めて意欲的な作品であり、独自の魅力を発揮しているこの路線を自分は強く支持したい。このゲームはユーザの持つ想像力を余すところなく具現化してくれるだけに、想像力の豊かなユーザにとっては末永く楽しめるゲームになるだろう。
 それだけに散見される欠点は惜しさを禁じえないので、コンセプトの見直しを徹底を図って、なお完成度を高めた次回作もぜひ期待したい。