ぼくとシムのまち(DS)

 本タイトルのレビューを書かせて頂くに際し、本タイトル製品を「Willvii株式会社」様より無償でお貸し頂いております。

 モノフェローズの趣旨についてはこちらをご参照ください。
 https://www.minpos.com/info/monofellows.html

概要

 ぼくとシムのまちは観光地の住人となって、住人や観光客との生活を楽しむシュミレーションゲーム。ミニゲームを通して寂れた観光地に魅力を取り戻し、かつての活気を取り戻すのが目的。


 類似のゲームとして筆頭に挙げられるのはどうぶつの森になると思うが、住民とのコミュニケーション主体のどうぶつの森に比べて、こちらはよりミニゲームを前面に押し出した、一種のミニゲーム集のようなスタイルを取っている。


 時間制限や外部時間との連動といった要素もなく、ゲームに追い立てられる局面がないので、プレイヤーが好きなペースで目的を進めることができるのはWii版と同様。どうぶつの森やシムズに見られる慌しさや強迫観念は薄く、気軽にプレイすることができる。

進行

 電源を入れるとまず初期化作業が始まる。これが結構長いので、初見だとビックリするかも。フリーズしたワケではないのでじっくりと処理が終わるのを待つべし。
 ゲームを始めてプレイヤーがまず行うのは主人公のデザイン。顔や髪型、肌の色、服装を決定するとゲームスタート。Wii版とは異なり、顔や肌の色は後で変更が効かないので注意したい。
 初期状態では服装のバリエーションは少ないが、ゲーム中に新たに衣服を購入することで、自分好みのファッションを追求することができる。ゲームを進めればデザインも可能。


 ゲームは主人公は船に乗って舞台となる町(名前がプレイヤーが任意に決定する)に向かうところから始まる。途中、船員からは「あんな町に引っ越すなんて!」と言った引き気味の応援(?)が投げかけられ、これからの生活にちょっとした不安を覚えたりも。
 色々あって町役場に辿り着いた主人公は、まず町長から「孫のトムに家に帰ってくるように伝えて欲しい」との依頼を受ける。テニスコートでトムに話し掛けてみるものの、家に帰りたがらないトム。ここで会話風のミニゲームが始まる。
 このミニゲームは「話す」「励ます」「怒る」「なだめる」などのコマンドを用いて、制限時間内に相手の気持ちをハッピーにするというもの。相手が怒っている場合はなだめてみたり、落ち込んでいるときは励ましてみたりと、相手の状況に応じて適切にコマンドを選択する必要がある。
 ゲームを攻略する上では、このミニゲームを通して悩みを持っている人々をハッピーにするのが重要なファクターとなる。ちなみに失敗しても何度でも挑戦できるので、慣れないうちは色々と試して反応を確かめてみるのがいい。


 同様に町の住人に話し掛け、ミニゲームをクリアしていくと、スターポイントゲージが溜まり、これが一杯になるとスターレベルが上昇する。このスターレベルは町の発展度を示していて、全部で5段階に分かれている。町を発展させるためには住人の悩みを解決し、スターレベルの上昇させればいいワケだ。
 スターレベルが上昇すると、新しいエリアに移動できるようになり、付随して町に新しい住人が引っ越してきて、プレイできるミニゲームも増える。観光客も町を訪れるようになり、目に見えて街角が賑わしくなる。
 町に引っ越してきた住人は何事か悩みを抱えているので、それを解決してあげればスターレベルが上昇し、さらに町が大きく発展していく。これがぼくとシムのまちの基本的な流れだ。


 なお、ミニゲームは得点に応じて、ブロンズメダル、シルバーメダル、ゴールドメダルといった3種の表彰を受けられるが、このメダルの取得がゲームの進行に影響することはない。ミニゲームをプレイしなくても住人との会話とイベントをこなすことでスターレベルを上昇させることができる。
 ただ、物語の進行となるイベントは買い物やミニゲームの試行回数が主にトリガーとなっているために、必然的にプレイヤーはお金を稼ぐ必要性があり、お金を獲得する手段としてミニゲームをこなすことになる。
 ゲームの進行に詰まった場合は、初期は町長、中盤以降はケーキ屋からヒントを貰えるので、それを参考に進めるのが定石になる。メニュー画面の人物紹介でメッセージ部が黄色になっているキャラもなんらかのイベント待機状態になっていることが多い。

評価点

◎ ミニゲームはシンプルながら面白い。ハードルが比較的高く、ついつい再挑戦してしまう中毒性がある。ただし、リプレイの操作回りは不親切。
○ タッチペン操作とボタン操作の両用が可能。どうぶつの森ライクな操作体系はわかりやすい。
○ 上画面にマップを表示できるので、初見でも迷いにくい。住人が表示されてるのも親切(観光客が表示されないのは不親切かもしれないが、そもそも観光客の重要性は薄い)。
○ どこでもセーブ可能でプレイしやすい。携帯機ということでロード時間も短い。

欠点

× コンセプトが迷走している。ミニゲーム集を目指しているのか、箱庭ゲームを目指しているのか、どちらにしても雑多な作りで奥行きが浅い。
× テンポが悪い。移動速度、画面切替、キャラのモーション、SE不足etc…… あらゆる場面でレスポンスとインターフェースの悪さが足枷になっている。
× 導入が悪い。最初期ではできることが限られ過ぎていてゲームの魅力が伝わりにくい。
△ 買い物に魅力が薄い。買い物が進行フラグを立てる条件になっているので、買わされている感が強い。
△ 進行が悪い。シナリオを進めるためのフラグを立てる条件が分かりにくい。

総評と要望

 とかくゲーム全体を通して気になったのは、触感の悪さ。
 基本的にキャラクターの動作が重く、アイテムの受け渡しで毎回挿入されるお辞儀のモーションなど、プレイヤーが手持ち無沙汰になるタイミングが頻繁に発生してイライラさせられる。モーションに付随するべきSEが存在しないため、インタラクティブ感が薄く、動作が間延びして感じられるせいもあるだろうか(個人的にはキャラの挙作の表現にはモーションよりもSEが重要だと思う)。
 エリア間の移動手段となるトロリーバスも、バスのモーションや料金の支払がテキパキと進まないいため、隣接エリアへの移動なら徒歩で向かった方が快適にプレイできる。移動に要する時間自体は短縮できるのかもしれないが、触感として軽快さを感じられないのでは片手落ちではないだろうか。

 また画面の切替もモッサリとしていて、メニュー画面を開く際にはそれが特に顕著に現れる。ミニゲームとマップ画面の遷移に一呼吸入るのもプレイングに水を差されるようで好ましくない。
 インターフェースも「はい・いいえ」の選択がデフォルトで「いいえ」が指定されている、タッチペンでのダブルタッチでアイテムを選択できない、ミニゲームの開始時に全所持アイテムから使用する道具を選択しなければならない、など練られていない部分が目立つ。
 とかく全体に溢れる『プレイの重さ』のせいでテンポよくプレイを楽しめなかったのが一番の問題。普段あまりゲームをしないカジュアルなユーザにとってはこのテンポものんびりとした間に感じられるかもしれないが、どうぶつの森などに慣れたユーザは、緩慢な動作に慣れるまで恐らく非常にストレスが溜まる。
 また、動作に慣れたとしても移動速度に比べてマップが広すぎる。広大なマップに相応の施設が存在するならばまだわかるが、施設は各所にポツンと点在するだけで全体的に薄く引き伸ばされていて、どうも行き当たりばったりな構成に感じられる。


 序盤の不親切さも大きな短所で、チュートリアル終了後、スターレベルが1になってから行動範囲がいきなり拡大するので、プレイヤーはどこに行けばいいのか迷うことが多い。エリアを一気に全て開放するのではなく、漸次的に行動半径を広げた方がプレイヤーを効果的に誘導できると共に達成感も与えられたのではないだろうか。
 また、最初にプレイヤーが体験できるミニゲーム『壁打ち』は一回空振りしただけでゲームが終わってしまい、ボールを真正面に打ち返すにはスタンスとタイミングを覚える必要もあって難度が高い。一回のミスでゲームが終了してしまい、煩雑な手続を経ないと再プレイができないこの作りはゲームに慣れていない初期のプレイヤーにとっては非常にストレスが溜まる。
 これが『壁打ち』ではなく、制限時間一杯まで遊べる『的当て』が用意されていたのならば、もっと自然とミニゲームに習熟できたように思うし、達成感も味わえたと思う。特にゲームに慣れないうちは、ミニゲームのクリアがフラグ成立の条件だと錯覚を起こしやすく、プレイヤーを無為に惑わせる仕様はゲーム自体を投げ出されかねない危険な作りのように感じられた。


 さらに問題なのは、そうした目に見える短所を改善し、全体の完成度を高めたとして、果たして本作がオンリーワンとしての魅力を放てるのかと言うと、それも難しいのではないかと思ってしまう点にある。
 このゲームの要素はどうぶつの森的なコレクション&デコレーションと、DS的なミニゲームの並立によって構成されているのだが、そのどちらにしても作りこみが浅い。
 コレクション&デコレーションを望むにしてもそれは本作だけの専売特許ではないし、ミニゲーム集として売り出すならば、そもそもシムズの体を為す必要がない。
 細かい欠点を列挙するより先に、このゲームデザインでしか表現できない独自性が自分には見えてこない。言わばコンセプトの迷走感を酷く覚える。もし、この路線を継続して、双方を並立させようとするのであれば、相当の努力が必要になるだろう。


 とは言え、各ミニゲームはのめり込む要素も強く、トランプの「スピード」を思わせる疾走感が楽しい『花輪作り』や、往年の名作・バルーンファイトを髣髴とさせる『パラグライダー』、動体視力と瞬間記憶が試される『泥棒に気をつけろ』、Wii版とは違う形でタッチペンを上手く活用している『ダウジング』など随所で唸らされる場面も多い。
 ミニゲーム自体の操作感は比較的良好で、かつ目標設定もシビアで熱が入るのは本作の確かな魅力となっている。シナリオを進めるためにミニゲームのクリアが必須でない点も、肩の力を抜いてプレイできる土壌を生み出していて、ミニゲームのスタンスに合致した仕様だと思う。
 それだけにミニゲームを取り巻く環境が今一歩な点がなんとも惜しいと言わざるを得ない。自分はプレイ前にWii版の快適な操作性を体感していて、その流れとして本作にも期待があっただけに、もっと本作は操作性の向上を図れたのではないだろうかと嫌が応にも思ってしまう。

最後に

 自分はゲームの出来不出来の線引きとして「次回作が期待できるかどうか」を毎回考えるが、本作に関しては「次回作に興味を持てない」という結論に落ち着いてしまう。
 その最たる理由は、このゲームの示した方向性に本作ならではの魅力が窺えないことで、ハードへの先入観から始まった安易な発想で纏めあげたゲームという雰囲気が否めないからだ。
 Wii版のぼくとシムのまちは独自性を打ち出しながらもユーザへの配慮が多数見られた完成度の高い作品だっただけに、本作にその志が受け継がれなかったことは個人的には非常に残念な思いがした。
 ミニゲーム自体は小粒ながら楽しめる作りではある。ただ、それだけでフルプライスの価値があるかと言えば難しいところで、根本的なゲームデザインに関してはやはり疑問が残る。