フロム・ジ・アビス

 本タイトルのレビューを書かせて頂くに際し、本タイトル製品を「Willvii株式会社」様より無償でお貸し頂いております。

 モノフェローズの趣旨についてはこちらをご参照ください。
 https://www.minpos.com/info/monofellows.html

概要

 フロム・ジ・アビスは『次元の迷宮』と呼ばれる不定形のダンジョンに潜り、災厄の根源である『大いなる魔』の打倒を目的とするARPG
 辺境の小国ルーベンハウトを舞台に繰り広げられるハック&スラッシュタイプのARPGで、タイプとしては2DのPSO(或いはシャイニングソウル)と言った感じ。各種スキルを活用した爽快な戦闘が本作の醍醐味。
 また、ワイヤレスプレイで2人でのマルチプレイも可能。Wi-Fiは未対応。

進行

 ゲームを始めると、まずは、プレイヤーの分身となるキャラクターの作成に入る。プレイヤーに決められるのは名前と性別と外見。性別によって進行や装備品などに差異はないが、これらのパーソナルデータは後から変更が効かないので、よく吟味して決定したい。
 その後、主人公に対して性格判断的な質問が行われる。ここでの回答は初期能力に多少の影響を及ぼすが、例えば能力の上限などには影響しないため、気軽に進めればいいだろう。
 キャラの能力はATK、DEF、INT、MEN、AGI、LUKの6種類。各能力については。


 ATK 打撃の攻撃力に影響
 DEF 打撃の防御力に影響
 INT 魔法の攻撃力に影響
 MEN 魔法の防御力に影響
 AGI 攻撃・魔法のモーション速度に影響
 LUK アイテム出現率やクリティカルに影響


 となっていて、この手のRPGに触れていれば、概要はすぐに理解できるはず。各能力値は、レベルアップ時のボーナスポイントを使って任意に伸ばす事が可能で、従って同種のARPGによくある職業の概念は最初から存在しない。
 後述するスキルも、使用を制限する前提条件が存在しないので、プレイヤーが好きなように選択して使用することができる。


 さて、キャラクター作成が終了すると、女王との謁見を経て迷宮の探索が始まる。迷宮は1つの階層が4つのステージで構成されている。実際には4ステージ目はボス戦だけなので、3ステージ+ボスステージという構成。


 初期状態の主人公は一振りの剣と『スキルキャプチャー』というスキルを持っているだけで、戦力的には甚だ乏しい状態にある。なのでまずは『スキルキャプチャー』を使って、モンスターからスキルを修得するのが手っ取り早いキャラの強化になるだろうか。
 『スキルキャプチャー』の基本は連打。モンスターのHPが低ければ低いほど、スキルを修得しやすくなるので、ギリギリまでモンスターのHPを削ってから『スキルキャプチャー』を浴びせてボタンを連打、が基本の流れとなる。
 モンスターはそれぞれ固有のスキルを有しているので、新しいモンスターを見かけたら積極的にスキルを修得していきたい。


 『スキルキャプチャー』によって得られたスキルは、通常攻撃のAボタンを除いたB,Y,X各ボタンにセットすることで使用可能になる。スキルはMPを消費して使用するアクティブスキルと装着しているだけで効果を発揮するパッシブスキルとがあり、どのスキルを装備するか、組み合わせを考えるのも重要なポイント。
 ちなみに、スキルはモンスターから入手するだけではなく、店でも買い求める事が可能。ただし、基本的に値が張るので『スキルキャプチャー』を極力活用してスキルを集めるのがポイントか。このゲームは収入が限られているので、できれば出費は抑えたいところ。


 戦闘の雰囲気について少し触れておくと、モンスターの多くは攻撃前のモーションが大きく、攻撃力もかなり高い。なので、基本的にはモンスターの攻撃を誘って回避し、技後硬直を狙ってこちらの攻撃を叩き込むと言ったPSO的な立ち回りが有効となる。
 或いは射程の長い槍や弓を活用して、モンスターの手の届かない場所から攻撃を仕掛ける手もある。このゲームでは大別して、バランスのいい剣、攻撃力に優れた斧、間合いの広い槍、長距離に特化した弓、そして魔法を強化する杖の5種類の武器があり、プレイヤーは自分の好みで武器を選択することができる。
 基本的には、パラメータの伸ばし方に応じて武器か魔法かどちらかを選択することになるのだが、武器は全編に渡って有効、魔法は序盤こそ苦しいものの、後半はバラエティ豊かなスキルで色々な戦術が楽しめる。


 モンスターとの戦闘では経験値を得ると共に、時々アイテムが手に入る。特に序盤はモンスターの落とすアイテムが主な収入源となるので、キッチリと確保していきたい。
 経験値を規定値まで得られれば、レベルが上昇し、ボーナスポイントが得られる。武器で戦うならATKをメインに上昇させ、魔法で戦うならINT及びAGIを上げるのが基本か。防御に必要なDEFやMENは敵の攻撃が厳しいと思ったときに強化すればいい。
 LUKは極端に上昇させるとモンスターがアイテムをポロポロ落としたり、ガンガングリティカルが飛び出たりとプレイが派手になるのでこれを伸ばすのも面白い。基本的に金欠状態が続くゲームなので、装備をキチンと整えられるLUK特化は意外と攻略向きの成長法の一つではある。


 とまぁ、キャラを成長させつつ迷宮を潜っていくと、深層ではボスが待っている。ボスはそこらのモンスターとは比べ物にならないほどの強烈な攻撃を繰り出す反面、モーションは非常に大きく、癖は読みやすい。なので基本的には、ヒットアンドアウェイで隙を見ながらチクチクとダメージを与えていくのが基本の戦法となるだろう。
 ちなみにこのゲーム、ダメージを受けた際に無敵時間が存在しないので、連続ヒットする魔法をまともに食らったりすると、HP全快の状態からでもラクに死にかける。防具を揃えてなかったり、DEFやMENを伸ばしてなかったりすると、本当にあっけなく死んでしまったりするので気が抜けない。
 しかも、死んだ場合にはセーブデータからやり直しなので、ボス戦直前でのセーブは必須。幸い、ボスステージの前には帰還用のアイテムが準備されている。


 こうしてボスを撃破して階層を突破すると、次の階層に挑戦することができる。この流れを繰り返して最終目標である『大いなる魔』を撃破するのがこの本作の基本的な流れとなる。

評価点

◎ 軽快な操作性・爽快感。キャラの成長の実感を味わえる。
◎ やるかやられるかの緊張感。一瞬の油断がゲームオーバーに繋がることも。
○ 音楽は重厚でいい。序盤は重過ぎるが、終盤は相応で雰囲気がある。

欠点

× 冗長で淡白なダンジョン。全体的に変化が乏しく、目的設定が薄弱。
× ボリューム不足。1週辺り10時間程度でクリア可能な上、キャラ育成の幅も狭い。
△ スキル間バランスが甘い。強力すぎるスキルが幾つか散見される。
△ インターフェースの練り込み不足。タッチパネルの使い方など。

総評と要望

 全体的な雰囲気は「丁寧だけど淡白なARPG」。操作性は軽快で爽快感があり、レスポンスもよく、非常に丁寧に作られた感がアリアリと窺えるのだが、ダンジョンが冗長で、モンスター数も限られ、階層間、ステージ間で雰囲気の変化が乏しいのが大きな欠点。
 ダンジョンの自動作成という機能も、実際に出来上がるのはマップチップをコピペしただけの単純なもので、プレイヤーにはさして恩恵がなく、開発側の事情が透けて見えてしまうのがいささか歯がゆい。人間の意図の介在した、考えられたダンジョンではないため、無機的な印象が拭えない部分はある。
 また、ダンジョンが冗長な理由としては、これ以上ダンジョンを切り詰めてしまうとゲームとしてのボリュームが維持できないという側面も見え隠れする。自分はこのゲームをプレイするに際し、(特別に早解きをしたワケでもなく)7時間程度のプレイ時間でクリアを果たしたのだが、コストパフォーマンスの観点からゲームの良し悪しを判断するユーザにとっては、概して内容が薄く感じられる内容ではある。


 また、最近のARPGでは大抵実装されている、ランダムな装備品や、スキルの成長といった要素がなく、モンスターと戦闘して得られるリソースが経験値とアイテム(≒お金)だけしかないというのが、プレイヤーの目的意識を励起せず、間延びした雰囲気をより助長しているように思える。
 敢えて言えば、ソウルキャプチャーが経験値とアイテムに続く第3のリソース獲得手段として位置付けられているのかもしれないが、基本的にソウルキャプチャーは1体の敵に対して1度しか使用せず、またモンスターの総数が乏しいために、使用される機会が甚だ限られているのが残念な点。


 とは言え、コンセプト的に初代聖剣伝説のような簡潔なARPGを目指したのならば、やり込み的な枝葉の要素は不要と言う考え方も理解できる。ただし、その場合にはダンジョンをもっと切り詰めることで、ワンプレイを手軽にして、もっと濃密なプレイをユーザに味あわせなければならない。プレイヤーが何度もダンジョンに挑戦したくなるような仕掛けも必要だろう。
 現時点のこのソフトは、簡潔と呼ぶには冗長すぎるし、コア向けと呼ぶには奥が浅すぎる。どちらかの方向へ舵を取る、コンセプトを徹底する必要があるのではないかと思う。


 バランスに関しては、基本的に平易。特別アクション性が強すぎることもなく、きちんとパラメータを伸ばしていけば詰まる部分はない。やや対処が難しいボスもいることにはいるが、相手のパターンをよく観察すれば打開策は見つかる。
 ザコを一撃で敵を倒せる半面、一撃で受ける損害も多大、という「やるかやられるか」的なバランスは非常に自分は好み。敵が固くて何度も攻撃しないとザコを倒せないバランスは、ARPGの爽快感を損ねると思うので、防御用のパラメータの重要度を担保する意味でもこのバランスは適切だと思う。
 そういう意味では、ザコが固いだけのハードモードの調整はやや疑問が残る。


 ただし、その反面、回復スキルのコストパフォーマンスが良すぎて、バランスブレイカー気味に作用している部分がやや見受けられた。回復スキルはソウルキャプチャーに一本化するなりして、被ダメージを極力避ける方向にプレイヤーを促せば、緊張感が更に増したと思う。
 また、ある特定のスキルの使い勝手が異常すぎて、スキル間のバランスについては詰める余地が多々あるように感じられた。


 各種インターフェースについては、特に街画面でのタッチパネルの使い方などが特にこなれていないように感じられる。会話ウインドウを上画面に表示して、選択ボタンを下画面に表示する、というのはその最たる例で、視線を頻繁に上下に移動させなければならず、目が疲れる。
 無理にタッチパネルを使用せずに、街画面を上画面に纏めて、下画面は常にステータスを表示するような作りにした方が、アクション部分との一貫性を保ててよかったのではないだろうか。
 アクション面でも、例えば薬を使いたい場合、目的となる薬をすぐに選択できずにまごつく場合が多々ある。消費アイテムに関してはスタック可能にして、ワンタッチで使用できるようにすると、なお使いやすくなったのではないだろうかと思う。

最後に

 本作の基本的な部分、ボタンを押してキャラが反応する、と言った触感の部分に関しては、この作品は非常に丁寧に作られている。触って楽しいゲームという点は、本作品で大きく評価できる点だと思う。
 しかし、素材は確かなのだが、そこで留まってしまった感がどうも拭えない。言ってみれば、この作品は上質のスポンジケーキではあるけれど、クリームが塗られてなければ、イチゴも乗ってないし、飾りつけもまるでない。スポンジケーキだけを食べて、「これはスポンジケーキとしてはウマい」と言える人にだけオススメできるソフトで、非常にユーザの度量に依存する作品だと思う。


 個人的には、最初に触れた瞬間の手触りから、大手のARPGに引けを取らない期待感を味あわせてくれただけに、不足部分がなおさら残念に思えてしまうソフトだった。
 一方で、この作品はどうすればより面白くなるのか、今後の発展性の展望が非常に立てやすい極めてプレーンなソフトなだけに、コンセプトを見直してキチンと手をかけた次回作を個人的には是非とも見てみたい。