任天堂の株主総会に行ってきました

 京都到着からやったら時間が余ってたので、歩いて任天堂まで行こうとしたら迷いました。いや、道順自体は、特筆するほど複雑でもなく、今回は道案内の社員の方もいらしたんで、普通に駅から向かえば迷うことはありえないんですが。まぁ、色々思い違いが先んじてしまったということで。
 それでも一応、勧進橋に差し掛かったところで「ん、ヤバイ、行き過ぎた!」とわかったのは、予習の甲斐があったとも言えるのかなー。この先に進むとスターフォックスのフォックスの元ネタとなった伏見稲荷神社があります。そっちも時間があれば行きたかったんだけど。


 さておいて9時過ぎに任天堂本店に到着。お出迎えの社員の方の対応にビビりつつ、綺麗なロビーでダラダラ。
 「おお、ここが有野課長と坂本さんがバッタリ出会った場所か!」と感動。実際には物凄く見通しが効くので、「ああ、今気づいた!」ってシチュエーションはなさそうです(笑)


 会場には9時20分ごろ入場。早めの到着だったのでかなり前の席に着席することができました。てか目が悪いので、前目に着席しないと全然わからんのですよ。
 岩田社長及び取締役、監査役の方々の入場。岩田社長は思ってたよりもスマートに見えました。Wiiの展開が一段落ついたのかしらん?
 宮本さんは、紺のスーツに黄色のシャツで、他の取締役の方とはセンスが違う感じ。今回、質疑応答では宮本さんの出番は特になかったので、腕組みしたり、頬を触ってたり、割と暇そうにしてました。


 で、まずは事業報告。これは事前の配布資料をそのままなぞるだけなので可もなく不可もなく。


 http://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2008/convocation_notice0806.pdf


 第68期の報告書なんかもありますけど、損益の推移に関しては、説明よりこっちのがわかりやすいかなという感じ。


 http://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2008/breport_0803.pdf


 で、30分くらいで質疑応答に移ります。質問事項は幾つかありましたが、重複もあるので、自分の気になった部分だけ抜き出してみます。質疑中、頑張って書き留めてたんだけど、ICレコーダーとか用意すればよかったんだなぁと反省。
 質問と回答は要点は抑えているつもりですが、個人の限界で間違い等多々あると思います。ご了承くださいませ。



Q.アメリカの景気減速に対する備えはどうなっているか? 個人消費の落ち込みによる影響は?
A.歴史的にみてもゲーム業界は不況に強い。ヒット商品があるかどうかが重要。現状は、ゲーム市場は拡大を続けているが、景況の推移には注意する。


 娯楽に関しては、旅行やらに行く代わりにゲームで済ませちゃおう的なアレがあるので、ゲーム自体は耐性はあるのではないかという感じ。
 「原油高で車でゲーセンに行くより家でWiiを遊ぶ家庭が増えた」とか言ってたのはスクエニの和田社長だったかな。娯楽として手頃で品質がいいというのはWiiの強みなのかなと。
 「娯楽は生活の必需品ではない」とはよく言われるところですが、古代ローマの「パンとサーカス」の例もあるように、娯楽は先進国における普遍的な要求ではあるのかなと。食料に困るほどに事態が悪化すると、そりゃゲームどころじゃないって話にはなりますが。



Q.任天堂の社名の由来について。「人事を尽くして天命を待つ」の意か?
A.人の力では及ばないところがあるという意味。最善を尽くしても運がなければどうしようもない。


 社名の由来については、まぁ、自分には既知の話ではあるんですが、改めて岩田社長の口から聞かされると、ああ、なるほどなぁ、と思いますね。実際に人事を尽くすなんて言っても、山内会長曰く「人事なんて尽くせへんのや!」ということだそうで。「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」ってなことを言いたかったのかなぁと。
 人事を尽くした、と思った時点では人事は尽くされていないとも。うーん、物凄い冷徹な現実主義です。
 デヴィット・シェフ著書の「ゲーム・オーバー」によれば、「"一生懸命働くが、結局最後にはその成否を天の御手にゆだねなければならない"と読むのが普通だろう。」とあって、まぁ、確かにそういうニュアンスで説明されてましたね。



Q.G8外相会議で、各国大臣にDSを渡したそうだが、反応はどうか?
A.渡したばかりで反応は聞いていない。商工会議所から話があった。


 京都新聞だかに掲載されてたらしいですが、当日入りした自分は、うわ、そんな話があったのか、とビックリ。岩田社長は「いい宣伝になると思います」とコメントして笑いを誘ってました。
 ちなみにこの日、ちょうど外相会議開催中でテロ特別警戒態勢実施中。警察官がえらいゾロゾロしてましたし、コインロッカーとか全部使えなくなってました。道も混んでたんですが、これは日頃からそうなのかも。



Q.内在するリスクのヘッジについて。ソフトの不備、コントローラの特許訴訟、ヨーロッパでのWii Fitの事故など。
A.任天堂に内在する最大のリスクは社内に慢心と油断が広がること。


 ……と前置きしてから、それぞれの回答。この辺は現状報告だけなんですが、ソフトの不備、スマブラの件に絡めてWiiのクリーニング手段を販売したい、と社長が明言したのは新出の話かな。自分のところはちゃんとスマブラ動いたもんで、あんまり公式アナウンスとか目を通してないんですが。
 慢心と油断に気をつける、と言うのは、勝って兜の緒を締める、ということの強調ですね。この辺は凄く「らしいな」と自分は思いました。



Q.海賊版著作権侵害の状況、及び対策はどうなっているか?
A.DSの被害が大きい。侵害と対処は、いたちごっこだが今後も続けていかなければならない。


 まぁ、この辺はゲームを知ってる人なら聞き飽きた話題ではあります。でも、個人的にはバンブラDXのスピーカーチャンネルの対応は結構いいと思いましたよ。物理的なロックを一枚噛ませるという。
 ただまぁ、この辺プレイまでの敷居を高くすると、カジュアルな層にそっぽを向かれるとも思うので難しい部分ではあるんですけどね。DSはカードを本体に差し込んでスイッチを入れればゲームができるという、その簡便さが利点だってのはありますんでね。



Q.ダウンロードによる売り上げはどうなっているか?
A.一年前は24億、前期はWiiWareも含めて78億。今後も伸びていくと思う。


 まぁ、数字は既出の情報をなぞっただけなんですが。現状あんまりパッとしないWiiWareですが、やる気はあるっぽい様子です。



Q.Wii本体のメモリ不足について。メモリを増強したハードの販売予定はあるか?
A.先に買ったお客様の問題を解決する方法を探る。


 メモリを増強した新型を売り出せば、そりゃ売り上げが伸びて株主的には嬉しいでしょうけど、そういう商売はいかがなものか、という話。まぁ、具体的にネット上にストレージを作るとか、USBで接続してどうとか、みたいな具体的な話は全然なかったんですが、考えてはいる、という無難な回答。
 VCでメモリを消費しているユーザが全体の割合のどれくらいかは、みんなのニンテンドーチャンネルを通じて調べてる的な話も。なのでメモリ不足な方は、みんなのニンテンドーチャンネルでプレイ報告を上げまくるとメモリ増強の後押しになるかもしれないです。



Q.新作体験会がないのが残念。
A.色々な事情で開催を取りやめた。


 自分も残念。体験会があれば、もうちょっと面白いことが書けたのかなーとか思ったりもして。
 今回、体験会を開催しなかった理由としては、「株主が増えて安全に開催できるかどうか」「タイミング的に特別な理解を求める商品がなかった」みたいな話。個人的な意見としては、その特別な意見を求めざるを得ない商品(DS〜WiiWii Fit)が途切れてしまうところにちょびっとだけ不安の種があります。任天堂は守勢に入ってたのではないか、みたいな。
 ただ、岩田社長は「事故を防止するため」みたいなことを言っていたんですが、それは何も物理的な安全面だけの話じゃなくて、開発中のゲームの情報が漏洩してしまうとか、その手の情報管理に関するリスクも含まれているように思うんですよね。体験会に参加する人数が膨れ上がれば、監視の目が届きにくくなりますし、付随して趣旨にそぐわない事故が発生する可能性もあると。
 なので自分のような「面白いことを書こう!」と思っている人間は、自分で自分の首を絞めているようなものなのかもなぁと思ったりもして。この辺、ゲーム好きとしては非常に悩ましいところではあるんですが、任天堂好きとしては、長期的にはそれがプラスになると信じて自分を納得させています。



Q.マリオの手応えや反応。今後のゲームの開発について。
A.国によって異なる。マリオは少数厳選で売り出していく。


 3Dマリオは欧米、2Dマリオは日本で人気、みたいな数字の話。この辺は数字を追ってる人なら常識的なアレなので割愛。
 マリオが少数厳選ってのは、ちょっと「んー?」と思いました。ベースボールも厳選なんですかね。
 チャートとか見るとマリオばっかり売れてる、みたいな国が多くて、個人的にはマリオ乱発の気も窺えるんですが。ただまぁ、ここを突っ込むと「マリオばっかり出してるんじゃなくて、出したマリオが売れてるだけ」みたいな回答が来るんだろうなと予想できるのがアレですが。



Q.取締役に50〜60代の方が多い。若い人や女性が経営陣に加わるべきではないか?
A.年齢は個人差が大きいと思う。50代、60代でも頭が若く柔らかい人が揃っている。


 これは脳トレを出している任天堂ならではの回答だなぁ、なんて笑ったりして。
 若い人材の台頭に関しては、開発の部分では、かなり宮本さんの責務は分散化されているような気はしますが、経営面ではどうなんでしょうかね。まぁ、岩田社長のような、開発も経営もピカイチなんて人材は稀有だとは思うんですが、何かあった場合に岩田社長の穴をすぐ埋められるのか、と言えば、それはちょっと難しいのでは、とは思います。岩田社長曰く将来有望な人材は育っているそうですが。



Q.DSの弊害について。子供がゲームばかりで勉強をしない、DSを持っていない子供への配慮は?
A.ゲームを生活の中にどのように取り込むか話し合って欲しい。それを我々もサポートしたい。


 この質問はなんというか、「うちの子供はゲームばっかり遊んで勉強しないので困ります」みたいな、ものっそい個人的な話でもあったので、正直なところ、「それは躾の問題では?」と思ったりもして。でも同時に、「さて、この質問に対して岩田社長はどう答えるんだろうか?」という期待が膨らんで、結果的には任天堂のゲームの本質を抉るいい質問だったのではと思います。個人的過ぎるとは思うけど、この手の非難めいた問いかけってのは、ファミコンの時代から歴々と続く問題だしね。
 でまぁ、岩田社長の返答も物凄く丁寧で好感が持てましたし、納得もできました。川島教授の言葉も引用して「DSには世代間のコミュニケーションを持つ能力がある」と言ってましたが、結局のところ、ゲームを巡って親子が喧々諤々と議論を交わすのは、ある意味では任天堂の狙い通りなんですね。
 ただ、それは親子で喧嘩しろと言ってるんじゃなくて、ゲームが生活の中でどのように扱われるべきものなのかを話し合うことで、より相互の立場の理解を深め、家庭の関係を緊密にして欲しいと、そういう意味なんだと思います。そのために任天堂は例えばWiiにペアレンタルコントロールを用意したり、プレイ時間を表示するなりして、とかく親子の感情論に発展しがちなこの手の論争に対して、議論を終結に導くための客観的な材料と物理的な手段を用意してみせたんです。なので、それ以上の踏み込みは、逆に家族の尊厳を奪ってしまうのではないかなと。このバランス感覚は、自分は肯定したいと思っています。
 ただ、DSに関しては、Wiiの先発ハードということもあり、プレイ時間の記録がない、と岩田社長は言ってました。これは、その点は片手落ちだった、とか、そこまでは言及してないんですが。
 まぁ、企業の態度としてはDS→Wiiへの発展の途上において、よりゲームが正しく理解されるように努力している、という姿勢は存分に窺えましたし、「ゲームがお茶の間から嫌われるようではいけない」との理想が、ここでも通底している点が非常に力強く思えました。岩田社長の掲げたWiiの目標は、「取り巻く人々を笑顔にするマシン」ですが、それは何も面白いゲームを提供することとイコールではなく、もっと安全で安心なものを提供しようという意気込みなんですね。
 中国産の鰻でも美味しければそれでいい、ってんじゃなくて、消費者が望むから国産の鰻を提供する、みたいな話というか。そりゃ味はさほど変わらないんだろうけど安心感は段違いで、家庭に笑顔を与えたいならそうしたものを提供しなければならない、ってことですかね。なんか上手く言えないですが。



Q.PSPの売り上げがDSを越えたと聞いたが?
A.国内ではPSPは好調。世界ではDSの方が好調。


 最初、質問した人の声がキチンと聞き取れなくて「え、この人何言ってんだ!?」とビックリしました。08年に限れば、PSPのが好調ですよ、ってのは確かなんですが、なんか累計とごっちゃになってるような雰囲気で。
 国内と世界に関して、DSとPSPWiiPS3の売り上げの比較なんかをプロジェクタで映しながら説明がありました。据え置き機に関しては「ピンクの線がWiiで、青の線がPS3です」みたいな説明があったんですが、ここで1つ説明が省かれる緑の線。XBOX360がハブられてました(笑)
 まぁ、国内ではしょうがないんですが、欧州だとPS3と接戦を演じているので、触れないのもかわいそうだよな、みたいな。しかし、日本と北米はともかく、欧州の数字は何を参考にしてるのかちと謎です。グラフによれば、欧州の売れ行きは全般的にPS3XBOX360でしたが、1年分の需要消費を考えればほぼ差はないかなといった感じでしたね。
 しかし、任天堂株主総会の場で、PS3XBOX360の競り合いに注目してる自分はなんなんだ。



Q.高齢者マーケットをどのように考えているか。高齢者への情報の発信方法について。
A.ゲーム人口の拡大=高齢者層の掘り起こしではない。誰でも遊べる製品を作る。発信の方法は課題。


 まぁ、任天堂は誰でも遊べるゲームを作りますよ、ということで。結果的にそれが高齢者に受け入れられることもあるかもしれないけれど、意識的にそっちだけに絞って開発することはないと。
 ただ、高齢者に受け入れられやすいゲームが出来上がってしまったとき、それを無駄にほったらかしにせずに「こんなものがあるんですよー」と伝えていく手段を考えることは大事、みたいな。特に未だにゲーム=怠惰なもの=けしからん、みたいに頭ごなしに否定する人は多くて、その人たちにゲームを理解して貰うにはどうしたらいいかを考えるのは重要と。
 こうした人々に対して任天堂は、家族の影響力を利用して搦め手で攻略しようとしているのかなぁと思う。そのために任天堂は幅広い年代で誰にも遊べるゲームを作ろうとしているのかなと。



Q.今後の任天堂のゲームの方向性について
A.直感的、経験不問、新しい、珍しいゲームを作る。


 キーワードが簡潔ながらガンガン出てきました。まぁ、同じことの繰り返しではあるんですが、任天堂の現状の路線は変わらないよということで。
 DSやWiiの方向性についてもユーザはそのうち飽きるとは思いますが、ここまで巨大化したマーケットをどのように次代に繋げつつ裏切っていくか。この辺は舵取りが問われるところですね。



 とまぁ、そんな感じで。もっと色々書きたいことはあるんですが、余りにも長くなってしまうのでこの辺で。
 今回参加してみて思ったのは、任天堂の姿勢を改めて理解する場にはなったけれど、サプライズは感じられなかった、というところですね。まぁ、株主総会ってのは、株主と企業の考えの齟齬を是正するための場なので、認識を正しく抱き直せたのなら、それで十分重畳なんですけども。隣のおばあちゃんなんか、岩田社長の言葉に何度も頷いてたので、やっぱりそれでよかったんだと思います。
 ただ、なんというか、財務的な質問は自分は不勉強なので別として、大体の質問に対しては、回答が先読みできるんですよね。大体が既にアナウンスされた情報なので。その辺がどうもなーという。
 かと言って、例えば未発表のソフトやらハードやらの情報に関しては、これは然るべき場所で発表すべき題目なので、いちいち質問しても株主の共通の利益を損じるってことで回答は得られないでしょうし、こう考えてみると、実のある回答を得るための質問というのは結構難しいような気もします。帰りの車中では、自分が質疑を行うとしたら、どんな内容がいいだろうかと延々考えてました。
 でも、そうやって考えた質問も、脳内の岩田社長があっさり回答してくれちゃうんですよね。これは凄く難しい。
 結局のところ、質疑応答で投げかけるべき質問は、企業の方針、態度に関して不鮮明な部分を洗い出す質問であって、任天堂としてもそれ以外の部分については、答えられません、資料を見てください、で終わるんじゃないかなと。まぁ、それが株主総会ってものなのかもしれないけど、それがわかった、ってことが収穫なのかな。
 ともあれ凄くいい勉強になりましたし、出席してホントに良かったと思います。岩田社長の生演説に感動したりもしました。キモくてすみません。




 オマケの写真。


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 会議室に飾られていた「任天」の書。山内会長の作品かと思ったんだけど、どうも聞こえてきた話では和歌山の書道家の手によるものとのこと。
 ものっそい照明が映り込んでてダメダメですね。ビビっててあんま近くに寄れなかったんです。


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 本店前。閉会後に写真を撮ろうとしたら日差しが強くて難儀しました。写真は始まる前に撮ったほうがいいね。
 見た目は、ゲームセンターCXで見たとおりだったので「おお、ここが!」とビックリ。なんか変な驚き方。
 ちなみに京都タワー展望台からものっそいよく見えます。周りにあんま高い建物とかないんですよね。


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 お土産のアソートせんべい。ポケセン専売かな? 箱はゴツいけど中身は64gで超軽い。
 しかしこの箱、小物入れとかによさそうです。シェイミかわいいなぁ、チクショウ!