▼社長が訊く 動くメモ帳編

 http://touch-ds.jp/dsi/interview/5_1.html
 http://d.hatena.ne.jp/ugomemohatena/20081218/1229578200

 動くメモ帳は、DSiの下画面をメモ帳に見立てて、メモを書いたり見たりするDSiウェアです。メモをいくつも書いてパラパラマンガにできるのがちょっと変わっている商品です。
 24日のDSiウェアの発売が迫って、任天堂からウェア自身になんらかの言及があるのかな、とは思っていたんですが、一見して簡潔極まりない「動くメモ帳」がDSiウェアの切り込み隊長の役を与えられたのは、これはDSiウェアの方向性を探る意味で非常に興味深い展開だなーと自分は思っています。
 今回の動くメモ帳は、任天堂はてなの協同で提供されるサービスだそうで、自分としてはこの組み合わせにまずビックリしました。はてなってここじゃん、みたいな。行きつけの定食屋が全国放送でいきなり紹介されたような驚きとでもいいますかね。
 でまぁ、任天堂の名前とはてなの名前が並んだことで、妙に意識してしまう部分もあるんですよ。はてなを使ってるのは本当に偶然に過ぎないんですが、なんだか普段は全く意識にないはてなユーザーとしての所属を猛烈に意識してしまって、「いや、でも、あそこの定食屋、江頭2:50のサイン飾ってるんだぜ?」みたいな、なんか通ぶってみなきゃ、みたいな気の昂ぶりがあったりもします。とは言え、そんな茶化すようなことをわざわざ口にするのもなんなので、その辺はちょっと冷静になって、順序を追って「社長が訊く」の雑感を書き連ねていきたいなと思います。

いろいろやりました、東京制作部の小泉です。

 ちょ、小泉さんってマリギャラのディレクターの小泉さんなのか! Wiiを代表するアクションゲームを担当していた人の次の仕事が、無料のソフトなんてのは、これ、人材の使い方が間違ってるんじゃないの、と思ってしまうほどの贅沢さですよ。相方の清水さんもマリギャラプログラマーで、どれだけ力入れてるのよこの無料ソフト、って感じで、まずはそれだけで呆気に取られました。
 この手のソフトを短小軽薄なシロモノと侮っていると、注ぎ込まれた本気度の大きさにビックリするのが任天堂の面白いところでもあり、恐ろしいところでもあります。その代表とも言えるのがワリオシリーズだったり、リズム天国だったりするんですが、このソフトも概要を聞くに従って、内に秘められたポテンシャルの大きさにビックリします。

通常の仕事が終わったあとに
2人だけで何かおもしろいものをつくろうよ、
という話をしていて。

 ああ、贅沢すぎるこのチームの理由もこれで納得。元々、正規の企画として動き出したワケじゃなかったんですね。スマブラを開発してた時の岩田社長みたいなもんですか。

タイトルは『パラパラマンガ』ではなく『うごくメモ帳』、
略して『うごメモ』にしよう、と言ったんです。

 この辺が小泉さんはさすがだなーと思えるところ。用途をいたずらに限定せずに、誰でも扱える気軽さを感じさせるのは、ユーザに触ってもらうための第一条件ですよね。
 うごメモって略称はちょっと音としてはゴツいかな、という気もしますが、既存の単語を使うとそのイメージに引きずられてしまうと思うので、シンボルとなる名前はやはり必要不可欠だったんでしょうね。

わたしは、はてなさんの社外取締役でもある梅田望夫(※4)さんに
3度くらいお目にかかったことがあって。

 あー、そういうことだったのかー、と納得。梅田さんとは以前糸井さんを交えての鼎談がほぼ日刊イトイ新聞で連載されていたんですよね。この時は具体的なサービスの話じゃなくて、ウェブについて思うことをそれぞれ述べ合うような形の対談だったんですが、こういう人と人の流れ、結びつきが具体的な形を伴って表面化してくると、推理小説の種明かしのような「あれはそうだったのか!」という驚きがありますね。


 http://www.1101.com/umeda_iwata/


 表題でもある「適切な大きさの問題さえ生まれれば」という話柄は、この後に述べられる動くメモ帳の運営の方針、言ってみれば性善説への期待みたいなものについて関わってくる部分もあるので、これも併せて読んでみると、動くメモ帳の革新性のようなものが見えてくるんじゃないかなと思います。

はてなをこれまで運営してきた経験から言いますと、
星を付けてプラスの評価をしてくれる人が
たとえば100万人いたとしたら、
これはちょっとマズイんじゃないかと通報してくださる人が
1000人から1万人くらいはいらっしゃるんです。

 ユーザに判断を委ねる運営方法で、まず自分が疑問に思うのは、「それで本当に漏れなくチェックができるの?」という点なんですが、ここで明確な数字を伴った回答が返ってくる、しかも説得力がある、というのが、実績だなぁと思います。

今回は、はてなさんのような
経験豊富な人たちと組めることによって
わたしたちだけではわからないことを
いろいろ足してもらえるというか、
すごく助けられている感じですね。

 やっぱりこういう感覚は実際にサービスを運営してみないと掴めないもので、ノウハウの蓄積が必要だとは思うんです。任天堂もネットワークを使ったソフトを次々に提案してはいますが、バンブラDXの可視性とか、ガールズモードの情報量とか、Wii Musicの共有性とか、仕様に関してはゲーム本編ほどこなれてない印象があるんですよね。
 なので、これはいい組み合わせだと思います。まぁ、自分は任天堂寄りでものを考えるので、こう言いますけど、はてなとの協同でノウハウを吸収していくことで、将来発売されるゲームにもそれがフィードバックされるんじゃないかなと。餅は餅屋に任せてしまえ、と割り切れるのが任天堂の柔軟さなのかなと思えます。

でも、『うごメモ』では、誰かがつくった動画に
後から手を加えることができますので
誰もが作品の続きをつくれるんです。

 従来のパラパラマンガと明らかに違うのはここですね。みんなで作る感覚。Wii Musicのセッションと同じような感覚ではありますが、タッチできる分野が多岐に渡る分、自分の好きな範囲で参加できるってのは、非常に大きな可能性を感じますね。

最終的には家系図のように
最初の動画からどんどん枝分かれしていって
ドドーンと大きなツリーができあがればいいなあ、と
期待してるんです。

 この企画は、こうやって完成図を聞くだけでワクワクする点が優れているなぁと思います。夢、っていうと、まぁ、クサいんで、ロマンがあるんですよね。出来上がったものが見てみたい、って凄くグッと来ます。
 もう、ここまで話が広がってしまうと一言に「メモ帳」なんてもんじゃなくなっちゃうんですけど、そこを敢えて外見はメモ帳ですよ、と言い留めるセンスが自分は凄い好みですね。奥ゆかしさと計算高さがひっそりと同居している感じ。なんだか心を擽られますよね。

やりたいことが山ほどありすぎるので
それを全部まとめて出すには
けっこう先になってしまうだろうと思っています。

 まぁ、年内のリリースでは色々な機能は未実装という話。ユーザの習熟も考えればその辺がベターなのかなと。この辺、反応を確かめながら修正を加えていくのもWEBベースの考え方だなーという気がします。



 さてまぁ、そんな感じで予想とはまったく違う姿を見せてくれそうな動くメモ帳。語られる世界はロマンに満ちてて圧倒的ですらあります。
 これはちょっとDSi欲しくなるなっていう。それで友達とマンガを交換して、何かひとつの作品を作っていけたら面白いよね、なんて思いますよ。
 今、自分がパッと思いついたのは、DSiで今年買ったゲームを写真に撮って、それをベースに音声と絵でレビューを足してくっていう感じのをね、これはやってみたいなってふと思ったんですよね。使い方次第で色々なことができそうなんですよ。うごメモはてなダイアリーに引っ張ってきて絵日記にしてもいいですし。あー、なーんかDSi欲しくなってきたぁぁぁ。


 ただ、自分が一番懸念しているのは、実は「自由すぎるサービスだといずれ閉塞化するんじゃないかな」ってことです。文字が書ける、絵が描ける、音を加えられる、と物凄く触れる範囲の広い動くメモ帳なんですが、完成度の高い作品だけが評価を浴びるような形になってしまうと、新しく足を運んだ人が敷居を感じて入って来れなくなる、マニアックな世界になってしまうんじゃないかなと思うんです。この問題に対して成功したのがガールズモードで、失敗したのがWii Musicだと自分は思っています。
 Wii Musicは自由すぎるんですよね。自分はそれがいいと思う人間ではあるんですが、まぁ、それは少数派かな、という自覚もあります。


 基本的に動くメモ帳で使える素材は、自前の絵と写真、録音した音だけで、既存の画像や動画、音楽ファイルなどは取り込めないそうです。これはこの手のサービスが抱える著作権の問題に対する線引きでもありますし、同時に手作り素材で勝負してくれという制限でもあります。
 ユーザを誘導するための適切な制限ってのは必要なことで、とくにこのコンテンツはプロも息を呑む大長編映画を完成させよう、なんて、そんな稀有壮大な試みではないと思いますしね。気軽に、手軽に、多くの人に触ってもらえるかが大切だと思うんです。
 手軽さを失わないコンテンツであって欲しいなと自分は思うんです。本格的に動画を作りたい、という人にはもっと他の適切なステージがあると思うので、クリエイティビティの入り口となるような機能を果たしてくれると住み分け的にも一番いいのかなと思います。
 まぁ、そうは言いながら、動くメモ帳の機能を限界まで生かしたような作品もやっぱり見てみたいなとは思いますけどね。


 とまぁ、そんなワケで、自分の思う動くメモ帳の方向性はこんな感じなのかな、と思う作品をピックアップしてみます。




 まず、面白くて、そして自分にもできるかも、と思える作品を。これも見た目以上に手が込んでるとは思うんですけれどね。



 ちなみにこの企画に関して、両社に金銭のやり取りはないそうです。つまり任天堂からすると、事業を継続するための費用は極小で済むワケで…… いやはや、運営の問題を解決するだけに留まらず、採算の不安まで解決済みとは、これぞアイディアだなと言わざるをえませんね。