▼王様物語の概観と試遊の感想

 王様物語体験会では、実際にゲームをプレイできる「試遊の間」と開発者に質問ができる「懇親の間」がありまして、前回の記事では「懇親の間」での歓談の様子に触れました。今回は「試遊の間」でゲームに触れたことで見えてきた「王様物語ってどんなゲーム?」という点にスポットを当てて、王様物語の紹介と雑感を述べて行きたいなと思っています。


大目標は世界統一!


 一言で、「王様になれるゲーム!」と言われてもなかなか内容を想像しづらいところもあるんですが、王様物語はプレイヤーが王様及び国民を操って世界を統一する目的のアクションRPGです。SLGよりも、どちらかと言えばACT寄りのゲームです。
 真の王様を探して35年、老年の牛騎士ハウザーの願いは王様の手による世界の統一。とは言え、アルポコ王国は人がいない、お金もない、仕事もない、ないない尽くしのダメ王国。なので、世界統一の大願の前に、まずは国内の立て直しが必要なんですね。


 基本的にはこのゲームのサイクルは、


 お金を集める → 建物を作る → 新しいジョブで行動範囲が広がる → もっとお金が集められる!


 という流れになっています。例えば、国民を大工に就職させると壊れた橋を直すことができます。そうすると今まで行けなかった川の向こう側にも足を伸ばせるようになります。どんどん行動範囲が広がっていくワケですね。
 ゲーム内には色々なジョブ&建物が用意されているんですが、何を始めるにしても、まずはお金が必要です。基本的にお金はフィールド上に配置されている穴やカブを掘ったり敵を倒すと出てくるアイテムをお城で換金することで購入することができます。
 お金が溜まったら建物を作ります。ゲーム開始時点では、アルポコ王国の人達はみんな手に職を持たない「きらくな大人」(なんてもって回った呼び方!)なんですが、農場や詰所を作ることで国民を農夫や兵士にジョブチェンジさせることができます。
 何もできない・しない・やりたくない、きらくな大人と違って、まじめな農夫は大きな穴を掘ったり、道路をふさぐ倒木をどかす力があります。邪魔な倒木をコンカンコンカンと(クワで?)切り崩せば、その先には一面のカブ畑が広がっていたりして、ジョブの力をうまく活用することで、さらなるお金のゲットチャンスが生まれるワケですね。
 とは言え、ここでお金に目を血走らせてカブに飛びつくと手痛いしっぺ返しを食らうことにもなります。カブ畑の中にはカブそっくりに擬態しているモンスターも混じっていて、非力な農夫や王様に牙を剥いて襲い掛かってくるんですね。こうした奇妙なモンスター、「ヘンナノ」は世界の至るところに出没します。
 さて、そこで頼りになるのが兵士です。兵士は農夫と違って穴は掘れませんし、むしろ穴に突撃しては落っこちたりと、そそっかしい一面もあるんですけど、戦闘では他のジョブとは比べ物にならない適性を発揮します。ヘンナノがそこかしこにウロウロしているアルポコ王国では、ボディーガードとしての兵士の役目は重要です。
 アイテム収集に便利な農夫、戦闘に力を発揮する兵士、その他様々なジョブを組み合わせて親衛隊(パーティ)を編成するのがこのゲームのポイントです。ジョブが増えるに従って、王様の親衛隊選びのセンスはますます問われることになるでしょう。


 さて、お金を稼いで、建物を作って、国民を就職させて、まぁ、賢明で用心深い王様なら今後の為に適度にヘソクリも溜め込んで、城下町を一通り整備したら、いよいよ老臣ハウザー宿願の大目標、世界統一に向けて動き出すときです。
 道中には王様の世界統一を阻むつもりなのか、手強いヘンナノのボス格がいます。正直な話、一人では何もできないアルポコ王。国民と協力してボスを倒し、世界統一を実現させましょう。
 ハウザーの語る世界統一が果たされた時には……? その時、王様であるプレイヤーは世界の新たな姿を知ることになるでしょう。


操作は簡潔、ルールは明快


 王様物語はリモコンとヌンチャクでプレイするゲームです。とは言え、操作体系はスタンダートに纏められていて、俯瞰視点の3Dゲームを遊んでいる人はすぐに操作を飲み込めるでしょう。
 ヌンチャクのアナログスティックでキャラを移動、リモコンの十字キー左右でカメラを360度回転。ドラクエ7に似ている感じです。Aボタンで決定、Bボタンでキャンセルは文法通りで、基本的にはこの辺りのキー操作を抑えておけば十分にプレイできます。


重要なアクション「撃ち出し」とは?


 王様物語のアクションで最も重要なのが「撃ち出し」です。これは王様にお供の親衛隊がいるとき、Aボタンを押すことで親衛隊のキャラを前方に「撃ち出す」アクションです。
 打ち出されたキャラはぶつかった先に何かしらのオブジェクトがあれば反応します。穴に向かって農夫を打ち出せば、農夫は穴を掘り始めますし、敵に兵士をぶつければ、あとは兵士が自動的に戦ってくれます。戦闘も採集も全部基本は撃ち出しです。


「撤退」が戦闘のキモ


 親衛隊をヘンナノに向かって撃ち出せば、あとはどちらかが倒れるまで延々と戦闘は続きます。その間、王様は後方で戦局を見守ることになるのですが、実は王様にはもう一つ重要な役目があります。それが「撤退」の指示です。
 ヘンナノは攻撃に移る前に怒りのプンプンマークを表示します。これは攻撃の予備動作なので、ヘンナノが攻撃に移る前にBボタンを押して速やかに「撤退」を始めなければなりません。
 もちろん、逃げているだけではいつまで経っても勝つことはできません。ヘンナノの動きを見て、時には押し、時には引き、蝶のように舞い蜂のように刺す、的確な判断と操作が重要になります。
 他にも親衛隊の構成や隊列などポイントはあるのですが、基本的には攻守の選択が重要なゲームだそうです。


 とまぁ、ゲームの個々のポイントを挙げるとこんな感じでしょうか。全体を通して自分が感じたのは、「驚き、サービス精神に満ち溢れたゲーム」ということですね。操作は凄くベーシックに纏められていてゲーム性もシンプルなんですけど、プレイヤーの意表を衝くためのネタがこれでもかとばかりに詰め込まれていてとにかくパワフルです。声を出して笑ってしまう。プレイしていて笑顔になれるゲームです。
 今回、触ったのは本当に序盤の序盤だけなので色々な要素を新鮮に楽しめましたが、舞台が広がって違うエリアに足を伸ばした時にプレイヤーがどれだけ驚けるか、どれだけ豊富なネタを用意しているのかで、この辺、最終的な評価が変わってくるような気がします。なんかこれは、新しい一発ギャグをどんどん出してくれ、って言ってるみたいでヒドい要求だなぁとは思うんですが。


 あとはいつも賑やかなんですよね、このゲーム。もう、ずーっとSEが途切れないんです。
 と言っても、ハデなSTGみたいに射撃音や爆発音が絶え間なく続く、みたいな感じじゃなくて、テンポよくSEがポンポーンと投げ込まれるのが心地いいんです。SEないなー、寂しいなー、と思う寸前に何かしらSEが割り込んでくる。それでSEが繋がってリズムが生まれるんですね。ハナモゲラ語(ヘンナノ語って木村さんは言ってましたけど)のおかげもあって、アクションの止まりがちな会話中もそれでリズムが途切れないんです。
 BGMは有名クラシックのアレンジなので、それもSEの多さとマッチするんでしょうね。主張の強いBGMだと食い合わせがあって両方の良さを殺しちゃうような気がします。
 あと、BGMはリラックス効果が覿面にありますよ。帰りのバスでBGMを聞いてたらカクンと眠ってしまったぐらいで。自分、バスじゃ寝付けないタチなんですけどもね。


 操作は総じてレスポンスがよくて軽快です。ロードも1,2秒で終わりますしね。カメラ回転にはちょっと慣れがいるかな、と言った感じ。モニタが普段と違うワイドテレビだったので慣れなかった部分もあるんですけど。
 操作に対する細かい不満点というか、違和感もありましたけど、その辺りは直接開発者のお二人に伝えて、いろいろとお話を伺いました。最終的な仕様の決定、どちらを採って、どちらを切るかは相当に試行錯誤したそうです。


 単純にゲーム性だけを見ると、ピクミンによく似ているんですよね。大勢のキャラを連れ回して、操って、ハードルを乗り越えて、そして行動範囲を広げていくっていう。ただ、大勢を操る難しさってのがこの手のゲームにはついて回っていて、その解決手段がゲームデザインのキモだと思うんですが、王様物語はその辺、割り切り方が実に大胆で尖っているように思いますね。
 その上に木村さんのテイストが存分に盛り込まれていて、独自の世界が構築されているのが大きな違いと言うか、名前があって、セリフがあって、それぞれの生活がある。それだけで十把一絡げなキャラへの思い入れがちょっと深まりますね。


 ただ、このゲームは見た目と違って経営SLG的な要素が極力省かれているゲームではあるので、国民が好き勝手に世界を動き回っても箱庭には影響を与えない作りだと思うんですよね。農夫を放置していると勝手に穀物が手に入る、収入が増える、というようなゲームではなさそうで。
 ゲーム性はアクションに集約されているのが王様物語の特徴で、AIはフレーバーとしての役割がメインなのかなぁ。短いプレイ時間では、キャラの生活を追いかけたり、じっくり眺めたりする余裕がなかったので、この辺りは自分でもよくわからないところです。あー、これ、聞いておけばよかったなぁ。


 農夫が穴を掘ってるときとか、みんなで輪になってザクザク穴を掘るんですけど、愛らしくチマチマと動いていて「おおー、頑張ってるなー」なんて目を細めて見守ってしまいます。エイジオブエンパイアを思い出しましたね。
 建物とユニット、建物と転職、という組み合わせもなんだかエイジオブエンパイアっぽい。まぁ、それは見た目だけでゲーム性は似て非なるものなんですけど。


 あと、このゲームって最初通れない道がすごく多いんですよね。倒木が道を塞いでる。でもその向こうにはカブ畑があったりする。向こう側に凄く行きたくなるんですよ。まぁ、「今はそっちは行けませんねー」って係の人に釘を刺されちゃうんですけど(笑)
 先をチラ見させるレベルデザインって言いますかね、オブジェクトの配置が丁寧な印象があって、色々ジョブを使いたくなる動機付けに一役買っていると思います。序盤は単純に一つの王国プランを追いかける作りで目標設定は簡潔ではありますが、今後王国プランがドンドンドンと並列的に現れると、「あれを作りたい」「でも、こっちも作りたい」と頭を悩ます楽しみが生まれそうです。
 結構インフレが激しいんですよね。最初の建物の値段が100,000ボルなんですけど、次の建物は1,200,000ボル。一気に12倍。思わず桁を数えてから、間違ってないか係の人に確認してしまいました。
 物価のバランスがどうなのかな、ってのは序盤では読み取れなかったんですけど、まぁ、レーダーを頼りにアイテムを採集できるポイントを漏れなく探せば必要な金額は手に入る感じで。序盤はチュートリアル風なので、どちらかと言えば単純なフラグ立てっぽい雰囲気もあるんですけど、中盤以降、リソース集めのチビチビとした楽しさがどう出てくるのかな、というのは興味深いですね。


 撃ち出しが中心となるアクションは反応もよくて軽快なんですけど結構骨がありそうです。王様自体は戦闘能力がほぼ皆無なので、ヒットアンドアウェイが重要になるんですけど、逃げつつ撃つのって思い切りと判断力とか必要で、なかなか最初は苦労しそうな気がします。
 変な話ですけど、攻守の切替だとか、正確な軸合わせが必要だとか、カメラの動かし方とか、モンスターハンター3に近い空気を感じました。攻撃アクションの種類を極力絞ったモンハンというか。まぁ、自分は元々モンハンはSTGっぽいなーと思っているので、開発者が人間シューティングと呼んでいる王様物語も遊びを分解すれば同根の楽しさに還元されるのは当たり前っちゃそうなのかもしれませんが。
 木村さんも言っていたんですが、恐らくアクションの駆け引きが一番楽しめるのはボス戦だと思うんですよ。とは言え、残念なことに自分は試遊時間でそこまで辿り着けなかったもので、このゲームのアクション面の真髄を語るには少々役者不足ではあります。ごめんなさい。お土産に頂いた実況プレイ動画を見たらやっぱり面白そうに見えたんですけども(笑)


 ルールはシンプルに、操作は簡潔に、それでいて反応は幅広く、二律背反を習熟で捻じ伏せる、というゲームデザインは個人的には理想的なゲームのあり方じゃないかなと思っています。自分はまぁ、割とミーハーな性格で、開発者のゲーム哲学に魅せられると、それが実際に実践されているかが知りたくて、ソフトを買ってしまうことがままあります。
 王様物語もそんなソフトの一つで、このゲームに篭められたゲーム哲学、ゲーム理論こそが自分にとっては最大の魅力ですね。こういう購入動機って、まぁ、一般的ではないなと思うんですけども、その上で遊んで楽しければ最高ですね。