世界樹の迷宮2・その0の2

 カースメーカー♂ ノワイトの記憶


 瞼を開く。首を傾ぐ。天井を仰ぐ。視界に満ちた緋色の蔦模様は縦横に果てしなく、私はただ視線だけを走らせて、世界樹を支える蔦蔓にも似た紋様の織り成す物語を追いかける。
 私はそこでようやく自分が寝室で目覚めたことに気づく。脳天から爪先までを結ぶ一本の生命の糸を意識し、肉体が未だに思考によって制御されている現状を知覚する。朝が来たのだ。


 「お目覚めですか、兄上。」


 静止する湖面にも似た清冽な声。私は傍らに佇む影に気づき、顎を向ける。


 「おはよう、ユッタ。」
 「おはようございます。お加減はいかがですか。」
 「うむ。今日は心なしか体が軽いようだ。」


 私は児戯めいた嘘をつく。幸いにも肺腑を抉る痛みはない。しかし同時に手足を縛る鉛のような重さは未だ健在だ。


 「それはようございました。薬湯を用意いたします。」


 彼女、ユーディットの口元は決して綻ぶことはない。しかし、その声には湖面を駆ける微風のような軽快さが見え隠れしている。私は安堵して目を瞑る。呪は未だ健在だ。
 彼女の介助を受けて私は上半身を引き起こす。白磁カップに注がれた暗緑色の薬湯を手渡されると、私はそれを一息に飲み込む。舌が痺れ、喉が痙攣し、胃が熱くなる。いつまで経ってもこの味には慣れそうもない。


 階下から外門を叩くノッカーの音が響いた。私とユーディットは顔を見あわせる。来客の予定などなかったハズだが。
 彼女は一礼を施してから、扉の向こうに消える。私は蛞蝓のように寝台から這い出ると、枕元に立て掛けた黒檀の杖を手に取り、ワードローブへ歩みを進める。震える指で取っ手を掴み、引き戸をこじ開けると、暗中から長衣を纏った死神が飛び出す。
 具に観察するとそれは奥に備え付けられた姿見だった。




 「兄上との面会を所望している御仁がおられます。」
 「珍しいな。一体誰だ?」


 姿見越しに目のあった彼女は一瞬回答を躊躇した。その声色は、雨露を受けて波紋を描く湖面のように揺れている。


 「……冒険者です。デレク殿の子息を名乗っております。」
 「デレクと言ったのか。……思い出すのも忌々しい名だ。」


 彼女だけでなく、私までもが声が震えるのを自覚した。しかし努めて平静に私は身繕いを続ける。呪の作法を途切れさせてはならない。


 「お帰り頂くよう伝えましょうか?」


 どちらかと言えばそれは彼女自身の切望のように思えるのだが、私自身の判断は彼女のそれとはやや異なっている。或いはこれは停滞する現状を打破する好機なのかもしれない。


 「10分ほど待つように伝えてくれ。」
 「ですが……」
 「案ずるな。男の身支度は婦人と違う。手間はかからん。」


 彼女の問い掛けを逸らし、一方的に言を封じると、私は鏡越しの視線を外す。彼女は口を噤んだまま、しばし直立していたが、やがて辞去の言葉を述べて部屋を後にする。
 階下へと向かう規則的な足音が扉を通して響く。私は襟巻きを整える手を早めた。




 「お待たせして申し訳ない。私はベッカー家当主代理のノワイトという。」
 「ベオと申します。」


 デレクの息子と目される少年は溌剌とした声音で名乗った。背丈は特に見る段もないが、肩部の盛り上がりといい、腿の太さといい、着衣の上からでも『作られた』肉体であることが確と窺える。どちらかと言えば精悍さよりもやや幼さの残る顔立ちのせいか、冒険を生業とする者独特の張り詰めた雰囲気に欠ける印象があるのだが、それも彼の経験の少なさを代弁しているように思える。
 さて、彼の父親とベッカー家の関係を顧みるに、彼は相当な心理的重圧を背負っているハズだ。しかし、その声からも表情からも、まるでこちらを臆するところは一切窺えない。無知なのか、恥知らずなのか、果たして彼はどちらの人種なのだろうか。
 一方で彼の付き添いと思われる小柄な少女(ミレッタと名乗った)は、緊張のためか、視線が定まらず四方を落ち着きなく見回している。それだけでなく、まるで石壁から決して身を離さない野良猫のように警戒心を露わにして、その小さな体をさらに小さく縮めている。この2人の来客の態度は全く正反対と言えた。


 「失礼ですが、御当主は今どちらに?」
 「父の御霊は天上にお在します。」


 少女の射抜くような視線が少年を突き刺すが、当の本人はなんら動揺した素振りを見せない。なるほど、どうやら彼は事情そのものを知らないらしい。一方で少女は事の顛末を知っているのだろう。相変わらず落ち着きなく少年とこちらとを交互に見やっている。


 「それは失礼しました。」


 少年は非礼を詫びるように頭を垂れる。彼の仕草には駆け引きめいた素振りは一切見えないが、彼の言動の一つ一つに、同席している少女と、そして私の後ろに控える妹が過剰な反応を示しているのが滑稽ではある。


 「ちょうど1年ほど経つだろうか。今になってようやく実務的な引継ぎを終えることができたが、まったく心が安んじることはない。父の死は私達家族にはそれだけ衝撃的な出来事だったのだ。」
 「心中お察しいたします。」


 少年の声が微かに緊張を帯びた。確かに彼もまた父親を失った身の上ではあるのだ。だが、彼と私とでは恐らくその意味合いはまるで異なるだろう。


 「まぁ、当主代理を名乗ってはいるが、それも喪に服しているためだ。家に関する権限の全てを私は法的に前当主から委任されている。心配する必要はない。」


 彼が父の奈辺を問うたのも、全てはこれから切り出されるであろう彼の要求が、当主代理を名乗る貧相な男に爪弾きにされるのではないかと危惧したためだろう。一介の冒険者として身の程を弁えてはいるということだ。存外に世慣れてはいる。


 「ありがとうございます。今日、当主代理にこうして接見を願い上げましたのは、ベッカー家に世界樹の迷宮を巡る私の冒険を支援して頂きたく思ったからです。」
 「なるほど。迷宮を探索するための資金を融通して欲しいということか。」
 「はい、ベッカー家は先代より数々の冒険者を厚く支えた仁徳の系譜と聞き及んでおります。若輩者ながら私も冒険者として貴家の御温情に与り、世界樹の迷宮に眠る『諸王の聖杯』を探し当てることを望んでおります。」


 『諸王の聖杯』。私は危うく吹き出しそうになるが、息を飲み込んでそれを制する。その単語に動揺したのは私だけではなく、妹も何か剣呑な雰囲気を発している。


 「我々は君のお父上から同様の呼び掛けを受けた。それはご存知かな。」
 「はい、父からは前当主が先頭に立ち、財界の各方面に協力を要請して下さったのだと聞き及んでおります。」
 「そうだ。そして、援助を受けた君のお父上は冒険の途上で亡くなり、そして我々は彼が持ち帰るハズだった財宝の悉くを逸した。彼と結んだ契約書は一切の価値さえ有さぬ紙切れに転じ、そして我々は得るべき名声と信頼と双方を同時に失ったのだ。」


 息を呑んだのは少年の方だった。眼が一杯に見開かれ、表情から血の気が失われるのがわかる。ようやくこちらの手番が来たのだと私は得心した。


 「彼が要求した費用はさしたる額ではない。しかし、私の父は、我々と同様の貴族相手に冒険の成否を題に大金を賭していた。そして父は敗北したのだ。」


 私はこめかみを人差し指で小突き、そして中指を曲げて引き金を引く仕草をした。


 「過大な逸失だった。冒険とはまさしく険しきを冒すものなのだと父は悟ったことだろう。……それが天上に至ってからというのは遅きに過ぎるが。」


 呆気に取られる少年とは違って、彼の傍らでソファに体を埋める少女はむしろ得心が行った様子で何事か思考を巡らせている様子だった。
 恐らく彼女は我が家に起きた一連の騒動の概要を知りこそすれ、その詳細については耳確かではなかったのだろう。こんな俗な話題でなければ、年相応の好奇心が発揮されてい微笑ましいとも思えるのだろうが、巷間で好まれる低俗な噂を脳内で突き合わせているのだとしたら余り気持ちのいいものではない。


 「かように我々にとって冒険とは対価の大きい博打なのだ。君達の一挙手一投足が長大な梃子の一端を揺り動かし、もう一端に腰掛ける人々の運命の糸を断ち切る。冒険にのめり込み、身代を崩した者は何も我々だけではない。樹海に立ち入らずとも樹海に殺された者は少なくないのだよ。」


 冒険に纏わる血生臭い逸話は、彼を一時自失の状態に追いやっていたが、やがて彼は我を取り戻すと鋭い眼光を伴ってこちらを見据えてきた。


 「オヤジを、恨んでいるんですか……!?」


 先程の畏まった言葉とは様相が異なり、牙を剥いた獅子の唸り声を思わせる一言だった。なるほど、これがこの少年の本性というワケか。


 「恨んでなどいない。私の父は、自らが払うべき対価の管掌に失敗した。その原因を君のお父上に求めるなど、それは逆恨みもいいところだ。」
 「だったら、なぜ……!」
 「なぜ、それを君に話したか、と言えばだ。」


 私は彼の言葉を先回りして、呪言を紡ぐ。


 「まず一つ、我々にとって冒険がいかに重大事なのかを君に理解して欲しかったこと。二つ、我々は以前のような潤沢な資財を持ち合わせておらず、君の望む支援を実現するのは困難であること。」


 獅子が網にかかった。少年の表情が引き攣り、呼気が一瞬停止する。今までの対話で方々に仕掛けた呪言の鎖を引き摺り上げ、以って少年を絡め取る私は、ここで最後の一手を投ずる。


 「そして三つ。こちらはかかる不合理を乗り越えて君達を支援する心積もりがある、ということだ。」


 少年と、少女と、そして妹の、三者三様の驚愕に満ちた視線が集う。私はそれを心地よく受け止め、そして返答を求める一言を口にする。


 「さて、責務を全うする矜持があるならば我々の援助を受けるがいい。が、この程度で心胆を縮ませているならば、帰れ。」


 さて、目前の少年は猫か、それとも獅子か。
 先程の剣幕には確かに猛獣の片鱗を窺わせる気迫が篭ってはいたが、身軽な立場で吠えるのは誰にも容易いことだ。
 私が必要としている冒険者とは、自ら背負った重荷に屈することなく足を踏み出せる者だ。果たしてこの少年にその決断が下せるかどうか。この少年に全てを賭ける価値があるかどうか。私はその答えが知りたい。


 彼は、口を噤んでじっとテーブルに視線を落としている。
 無理もない。彼はどうやら父親を厚く尊敬していたようだが、その敬意の対象を突然人殺し呼ばわりされたのだ。その衝撃は計り知れないものがあるだろう。
 事実関係としてはそれは正しい認識ではないのだが、重要なのは彼がそう思うように私が誘導した、呪術を施したということだ。術と呼ぶのもおこがましい単純なハッタリと言えば確かにそうなのだが、この程度の欺瞞を見抜けないようでは世界樹の迷宮の踏破など到底覚束ない。


 そして何よりも、冒険者には身命を賭けて迷宮に挑んで貰わなければならない。自分だけはない、仲間だけではない、関わる全ての人間の身命を背負っていることをまず意識して貰わなければならない。冒険を途中で投げ出すなど許されない。冒険に従事する立場にあることを理解して貰わなければならない。
 冒険者は自由などではない。力ある冒険者だけが自由なのだ。そして彼にはまだ力がない。ならば彼は自由を得る代わりに覚悟を背負って貰わなければならない。
 これは彼の覚悟を量るための、単純で、しかし極めて効果的なテストだ。さぁ、答えは、どちらなんだ。お前は迷宮に立ち入るのか否か。どちらの道を選ぶのだ?
 心中で何事かを呟いていた彼は徐々に頭をもたげ始め、そして遂に彼と私の視線が交錯した。


 「……オヤジって、凄いな。」


 私は彼の言葉を咀嚼しかねて瞬きを繰り返す。
 今、彼はなんと答えたのだ……?


 「何バカなこと言ってんのよ! そんなこと……! そんなこと聞いてないっ!」


 少女は立ち上がると掴みかかるような勢いで少年を詰問する。まぁ、今の彼女の叫びは確かに私の代弁でもあった。ならば敢えて止める必要もない。成り行きに任せることにしよう。


 「で、でもさ。凄いと思わないか? そんなリスクの詰まった冒険にオヤジは乗り出してたんだぜ。オレ、全然そんなこと知らなかったよ。」
 「そりゃアンタに心配かけたくないからよ! 決まってんじゃない!」
 「いや、オヤジは自信があったんだよ。だから迷わなかったんだ。……まぁ、結果は結果だしさ。それでベッカーさんにも迷惑かけちまってる。それはなんつーか、うん、言い訳できないよ。」
 「一体何が言いたいのよ!」
 「だから! 『諸王の聖杯』は絶対にあるってことだよ! オヤジのことは信じてるけどさ、『聖杯』の半分は与太話だって思ってた。オヤジは法螺吹きだしな。」


 私は生前の冒険者デレクとは面識がないのだが、どうも彼の口振りからすると彼の父親は随分俗な男らしい。今までは聖人君子然とした男を想像していたので意外と言えば意外だ。


 「でもさ、オヤジは人に迷惑をかけるような嘘をつく男じゃない。オヤジがそんだけ重いモノを背負ってたってことは、『諸王の聖杯』が現存する確かな証拠をオヤジは掴んでたんだハズなんだ。」
 「そんなの……! そんなのただの空想よ! 身内の欲目じゃない!」
 「そりゃそうかもしれないけどさ! だけど……!」


 『諸王の聖杯』。そうだ、全ての発端は世界樹に眠るその財宝に起因する。
 持ち主に世界樹の如き永遠の命を授けると噂される秘宝。父はその至宝を求めるがあまり、全ての財産を投げ打ち、そして自らの命を断つに至ったのだ。
 父が彼の父親、冒険者デレクに全てを賭けたのは、デレクが『聖杯』に纏わる確かな論拠を父に提示したためなのだろう。デレクは志半ばにして樹海で倒れたが、しかし、未だに世界樹に眠る『聖杯』の存在そのものが否定されたワケではない。
 この少年の推測が確かならば、『諸王の聖杯』はやはり樹海に存在するのか――?


 「……もう、好きにすればいいじゃない! アタシは知らないからっ!」


 少年との対話を一方的に打ち切って、少女は勢い良くソファに体を埋める。少年は苦笑を浮かべて一言彼女に謝ると、それからこちらに向き直った。


 「……ベッカーさん。オレ、やっぱり迷宮を踏破したい。『諸王の聖杯』を探し当てて、オヤジの無念を晴らしたいんだ。」


 それは迷いのない一言だった。少年の四肢を縛り上げたハズの呪言の鎖はいつの間にか掻き消えていた。


 「……そうか。」


 だが、それは少年だけの力ではない。少年の父親が与えてくれた力だ。そして頑なに父親を信じる心が生み出した力だ。
 私が彼に望む覚悟とはそれは多少色合いが異なってはいたが、それでも少年を強烈に迷宮に志向させる理由として機能していることは確かだ。ならば少年に父への敬慕の情がある限り、少年は冒険を諦めないだろう。それは私の目的に叶っている。


 「よろしい。ならば我々は、君が迷宮に挑戦し続ける限り十分な援助を約束しよう。ベッカーの家名に賭けてだ。」


 こちらとて選択肢は限られているのだ。ならば今後の経過を見守りつつ最良の判断を下していくほかない。彼の回答は正答ではないが、落胆するような誤答でもない。今回は条件付きの正解として、以後も観察を続けることとしよう。




 「なぜ手を差し伸べるような約束をしたのですか。父上を殺した男の息子などに……!」


 彼らが屋敷を辞去してからユーディットが初めて発した言葉がそれだった。
 彼女の声は暴風域の只中にある湖面のように荒れていた。彼女にとって私の判断は些か不服な結論だったらしい。
 まぁ、無理もない。彼女は私と違って父の血を受け継いだ実の娘だ。身に受けた愛情と薫陶は私とはそれこそ比べ物にならない。


 「ユッタ、私達はベッカーの名を継ぐ者だが、いつまでもその家名に縋りつくことはできない。私達は自らの足で立ち上がり、歩み出さねばならないのだ。」
 「冒険者など他にいくらでもいます!」
 「そうだ。冒険者など踏み潰してなお余りある。しかし、迷宮を踏破する気概を持つ冒険者はほんの一握りしかいない。」
 「あの子供にそれができると?」
 「血は水よりも濃いと聞く。才覚は窺えた。」
 「ですが因縁は血よりも濃いとも聞きます。同じ轍を踏む可能性もまた……」
 「私達の選択肢は限られている。落果を待って鴉に横取りされては目も当てられぬ。」


 父の死と共にベッカーの名は地に落ちた。かつては前途有望な冒険者達が門を叩いたこの邸宅も、今や訪れるのは庭先を専用通路と心得ている野良猫ぐらいのものだ。
 我々が冒険者接触を試みる機会は限られている上、『諸王の聖杯』などその存在を疑問視している冒険者の方が圧倒的に多い。我々と意志を共にし、身命を賭けて危険に過ぎる探索行に向かう冒険者など、それこそ稀有な存在なのだ。


 「……わかりました。それが兄上の意ならば従います。」
 「そうしてくれるとありがたい。」
 「ですが、彼らが用に足りないようであれば……」
 「その時は好きにするがいい。寛容とは無能を許すことと同義ではない。」


 頷いた彼女は踵を返して部屋を立ち去る。納得にまでは至らないが、自分の感情とは当面の折り合いをつけられたということだろう。


 しかし、ユーディット。お前の纏うほの暗い感情はその身を束縛する呪の鎖なのだ。それに気づかぬ限り、お前は私の五指に傅く糸繰り人形であり続ける。
 呪の鎖を消し去ることは容易い。そう、先程あの少年が実践してみせたように。それをお前が望まないのは、お前が現状をよしとしているということなのか?
 ならば構わぬ。私にはもはや猶予はないのだ。『世界樹』は『世界呪』に通ずる。残された最後の時間を使って、私は私に報いよう。






 世界樹の迷宮2には古式ゆかしいRPGさながらの『諸王の聖杯』というサブタイトルがついています。この諸王の聖杯が果たして劇中でどのような役割を果たしているのかは、現在のところまったく詳らかになっていないワケですが、いわばローグで言うところのイェンダーの魔除けや、Wizで言うところのワードナの魔除けのようなクリアアイテムの類なのではないかと個人的には思っています。
 世界の危機を救うのでもなければ、悪の魔王を倒すワケでもない冒険者一同が、なぜ危険な迷宮に足を踏み入れるかと言えば、それは迷宮に眠る莫大な財宝や名声、権威を求めてのことだ、と解釈するのが、まぁ、一般的な世界樹の迷宮の目的設定と言えます。そして今回の『諸王の聖杯』というサブタイトルは、そうした目的設定をより具体的な形で提示するための手段の一つなのだと個人的には考えています。ただ、一言に「財宝!」と言われるよりもよっぽどイメージしやすいのは確かですしね。
 それを考えると、前作は目的設定の難度がやや高い、手がかりの少ないスタートだったようにも思うのですが、具体的な目的が設定されていなかったのは、「なんのためにダンジョンに潜らなければならないの?」という疑問にまず答えなければならなかった古典の時代と違って、「ダンジョンは潜るものに決まってる」という、RPGを学習し、成熟したユーザがターゲットだったためなのかなという気もします。なんとなくで冒険の始まるRPGにもユーザは慣れてしまっているんですよね。
 まぁ、それが世界樹らしいライトな感覚を形作った一因でもあると思うので、2にしても、主人公達は『諸王の聖杯』をなんとしてでも手中に収めなければならない! みたいなノリではないと思うんですよね。せいぜいが「君達は『諸王の聖杯』を探してもいいし、探さなくてもいい」くらいで。あ、やっぱりこっちのがずっと世界樹っぽいなぁ。
 世界樹の迷宮ってのは、そういうところでストイックな昔のゲームとはやっぱり精神性が別物なのかなと。そんなことを思ったりします。




 話のキャラクター達は、普通にTRPGの「冒険者!」ってよりは、やや職業冒険者というか、「最初に資金を提供して貰って、要求された範囲で動く」的なサラリーマン的な雇用契約を結んだ冒険者です。現代風に言えばフリーターと契約社員の違いみたいなものですかね(生々しいな)。
 これはモチーフとしては大航海時代の冒険家とパトロンの関係から来ています。まぁ、ハードウェア投資が必要だった航海と、それこそ初期投資ゼロから入れる探索では全然規模が違うっちゃ違うんですけども。
 でもまぁ、前作の世界樹の迷宮よりは後の時代ってことで、冒険者ってのが段々に組織化され、管理され、冒険という仕事自体が囲い込まれてシステム化されるってのもあるんじゃないかな、と思って今回はこんな形の冒険者になりました。もちろん、世界樹2がそうなってるってんじゃなくて、これはただの妄想です(笑)


 で、ノワイトの父が負けた賭けってのは、不安定な冒険稼業に出資する人々が保険として設けた制度で、胴元だった彼が大出費を被ったってことなんですね。
 これもネタ元としては大航海時代海上保険に由来します。海上保険は世界最古の保険制度と言われていますが、差し当たって大航海時代を迎えていないであろうこの世界では、冒険保険(凄い矛盾した組み合わせだ)がまず最初に産声を上げたのではとかとか。
 えー、まぁ、つまりゲームの雰囲気がわからないとこんな変な方面に妄想力が弾けていくので、アトラスは早く世界樹の迷宮2の街情報を充実させるべきだと思いますってことで〆。


 ↑ これはプレ版の追記だったんですが、先日のポッドキャストで「街に設定などない!」との一言を頂いたので、自信を持って捏造を進めて行きたいと思います(こら)


 珍しく拍手メッセージなど頂いたので返答をば。


>にちさん
 いや、ホントリファラ面白いことになってましたね。ポッドキャストの感想を書いてる人ってあんまりいないので前半分の感想を見に来たのかなーと思ったら…… ズッコケましたよ、マジで。
 みんなきっとそんな自分の慌てふためく姿を視姦するつもりで来たに違いない! と思うのは被害妄想気味ですかそうですか。
 プレイ動画と重ならなきゃねー、もっと鮮度のいいタイミングで感想書けたんですが。それがちょっと惜しいです。


 多分、ポッドキャスト関係のアレだと思うのですが、いつもより拍手も多めに頂きました。皆様ご声援ありがとうございまーす。
 普段から拍手頂いているのにスルーしてるようで申し訳ないなーと思う昨今。日頃から大変ありがたく思っております。やる気がムクムクと沸いてきます。
 まぁ、メッセージとかあれば俎上に乗せやすいんですが、小説とかの感想っていちいち書きづらいですよね。自分もついつい長文書いてやっぱヤメとかやるので、気軽に拍手頂ければそれだけで幸せです。