ノーモア・ヒーローズをプレイする

 Nintendo insideのスタッフさんが創刊したゲーム雑誌「Ni」のポッドキャストが公開されてたんですが、出だしが新納さんと宇多さんの元世界樹ポッドキャストコンビで猛烈に笑いました。新納さんの肉声は久しぶりに聞いたんですがお元気そうで何よりですわ。内容も面白かったですよん。
 で、折り良くノーモアヒーローズの話をしてたんですが、これがすんげー褒めてましたね。減点法だと色々と斬られるゲームだけど、空気感が素晴らしいとのこと。これは自分もプレイしてて頷けます。スタッフの方は16時間連続でプレイしてクリアしたそうですね。物凄いドハマりっぷりだ。
 自分はさすがにそこまでは行かずにランカー一人倒すだけがシンドいというか、それを区切りにしてチョビチョビと現在5時間ほどプレイしてるワケですが、どうもそれで思ったのはこのゲームはドバッと一気にプレイしきってしまうのが正しい遊び方のゲームなんじゃないかと不意に思った次第です。


 というのは、このゲームで一番楽しいのはランカーとの会話だったりタイマンだったりで、そこに行き着くまでのお金稼ぎとかザコ退治とかコレクションは割と枝葉末節の要素なんですね。それが楽しいんだ、って人もいるかもしれませんが、自分にとって一番楽しいのはギラついた演出がタップリのスキットと、ランカーとの殺るか殺られるかのタイマン勝負だったりします。そこがこのゲームの一番の肝だと思います。
 ただ、このゲームは殺し屋ランカー11位からスタートして1位になるのが目標、と最初にポーンと終着点が提示されてしまっているんです。それも「魔王バラモスを倒せ」みたいな曖昧な指示じゃなくて、数値的に今進行度がどの辺りかわかってしまう作りになっています。
 こうなると自分としてはこのゲームのコストを考えてついゲームをダラダラと遊ぶ方向に持って行きがちな、具体的に言えばアルバイトを延々と続けて衣装をコンプするまで先に進まない、みたいな、そういうプレイをしてしまうワケなんですが、そうなるとこのゲームは内容が薄く長く引き伸ばされてしまうんです。ロードは割と頻繁に入るし、依頼は割と足を使うし、緊張感は途切れてしまうし、作業感はあるし。
 なので、このゲームを味わうための一番のポイントは、「太く短くプレイすること」なのだと思うのです。それはこのゲームの雰囲気そのもの、刹那的な輝きを追い求める人々の生き方に共感できるか否か、という意味にもなるのだと思います。


 そういう意味で、このゲームは人を選ぶゲームだなぁとまずは自分は思いました。要するにコストパフォーマンスをある種の価値と考えているユーザにとって、短時間で破壊的に物語を消費していくこのゲームのテンポは嫌悪の対象にすらなりかねないシロモノなのです。ボリューム不足というのとはちょっと違うんですけどね。
 逆に面白いゲームを目の前にして惜しみなくアクセルを踏み込めるユーザにとって、このゲームは素晴らしい体験を提供してくれるソフトだと思います。脇目も振らず真っ直ぐにゴールに飛び込む自殺的なプレイングがこのゲームを最も魅力的に映し出してくれるスクリーン足りえるのです。


 余談ですが、去年プレイした「すばらしきこのせかい」も、最初に舞台は7日間限定のゲームと終着点が明らかな作りになってたんですが、こちらは進行度を無視した枝葉末節にこそ没頭できたゲームでした。どっちがいいかという話ではないんですが、力点が置かれている場所はまったく正反対と言っていいでしょう。




 さて、ランカーとの対決が魅力、という書き方をすると、「たったそれだけ?」と思われるかもしれませんが、その「それだけ」に篭ったパフォーマンスが実に素晴らしいんですね。
 カメラワークと表情とライティングとテンポで生み出された空気感はグッと画面に見入ってしまう強烈な味わいがあります。自分はいわゆる映画的なゲームってのはあまり好きじゃないんですが、ムービーをダラダラと垂れ流しにするようなその手のゲームとは全然違って、とにかくキャラの挙作一つ一つに緊張感があって、飽きさせない作りになっているんですね。これは一見の価値ありです。
 で、この盛り上げ方が実にプロレスチックなんですよね。場内がシーンと静まり返るような関節の取り合いの代わりに、交互に台詞をズバッズバッと繰り出して緊張感を高めていきます。キャラによってはマイクパフォーマンスが入るのもまたプロレス的。とは言え通底しているのは相手へのリスペクトです。プロレスは信頼をやり取りするエンターティメント。キャプチュードのセンテンス、「受身の人間不信」というのは、プロレスの備える二律背反した性格を端的に表現した名文だと思います。


 そして口上を述べ終えて互いの力量を認め合ったところで戦闘が始まります。殺し屋の名に恥じない強烈な技の数々を繰り出してくるランカーの猛攻を掻い潜って斬撃を叩き込むこの興奮。普段の戦闘だとザコから横から小突かれてイライラすることも多々ありますが、1対1ならそんな心配は必要ありません。視界の中にライバルを捉えて僅かな攻撃の機会をモノにするだけです。
 しかも無駄な攻撃は許されません。武器のビーム・カタナはバッテリー式でタフなランカー相手にブンブン振り回していればすぐさまエネルギー切れを起こしてしまうのです。そうなるとこっちは充電モードに移行してリモコンを振って電力を回復させなければなりません。その間、こっちは完全な無防備状態です。ランカーの必殺技を避けることなんてできません。一刻も早く充電を終えなければならないのです。焦ります。緊張感で一杯です。


 そう言えばプレイ前には、ビーム・カタナの充電は凄い、みたいな話を聞いてたので、或いはチャージ完了で恍惚の吐息を漏らすようなけったいなシーンを想像していたんですが、実際は思ったよりも普通でした。いや、さすがにそれはアレか。


 戦闘の雰囲気を簡単に言えば、3Dのファイナルファイトって感じでしょうかね。斬って殴ってスープレックスを入れて止めを刺す感覚が、ファイナルファイトの殴って掴んで膝を入れて投げるコンビネーションに近いんですよね。あるいはダブルドラゴンというか。
 これを最後まで流れが途切れることなく入力できるとすんごい楽しいんですよ。ノーモアの独自な点は投げの部分がリモコン入力なんですね。相手の背後を取ってリモコンとヌンチャクを振り上げるとドラゴンスープレックスとか。相手の正面から掴んでリモコンとヌンチャクを振り下ろすとDDTとか。
 割と単純って言えば単純なんですけど、これが凄いプロレス感があってハマるんですよ。「プロレス感」って意味は伝わりにくいと思うんですけど、エアギターならぬエアプロレスをする時の腕の動きがそっくりそのまま入力コマンドになっているというか。凄い操作が納得できるんですね。
 ただ、ザコ戦だと割と囲まれることが多いので途中で止められちゃったりすることも多かったりしますし、そもそも攻撃をフルコースで決めなくても倒せたりするので、やっぱりコンボが楽しいのはランカー戦ですかねぇ。ランカー戦だと今度は途中でガードされちゃうことも多くて、なかなか上手く決まらないんですが、それがまた相手の強敵感を煽ってくれて楽しいです。




 さてまぁ、ここまでやたらとプロレスプロレス言ってきてアレなんですが、ノーモアヒーローズになんでこれだけプロレスのエッセンスが散りばめられているかと言えば、ディレクターの須田剛一さんが元々ファイプロの開発に関わっていた人なんですね。具体的に言えばSFCファイプロスペシャルのストーリーモードのシナリオを書いた人です。……って書いて「あー!」と思った人はこっち側にこれる資質アリアリです。あれはまた暗いシナリオだった……
 ともあれノーモアヒーローズにはそんなプロレス的エッセンスが散りばめられています。舞台のサンタデストロイの名所のあちこちにはプロレス技の名前が入ってますし、主人公のトラヴィスタッチダウンからして、日本のアニメとプロレスが大好きというオタク青年です。なんかジョシュ・バーネット的。全然雰囲気は違うけど。サンダー龍とかマスクド・パンサーとか、二重の意味でビックリするような名前も出てきます。
 じゃあプロレスを知らなければゲームを楽しめないか、って言ったらそれはそうではなくて、プロレスっぽさの解読ってのはある意味ではノストラダムスの詩の解読みたいなもので、読もうとすれば読めるけど元々そんな意味は篭められてないってことが往々にしてあったりするんですね。無駄すぎる深読みというか。
 なので表面上に見えるやり取りをそのまま受け止めるだけでもこのゲームの空気感は十分に味わうことができますし、それをもっと理解しようと試みた時にプロレス的な素養というのは役に立つかなとも思いますが、解釈の仕方は人それぞれだと思うので、あんまり意味がないと言えばないのかも。まぁ、プロレスを知ってればニヤリとできる部分は多いですね。




 てな感じで、このゲームは割と雰囲気に負うところが大きいゲームというか、そこに凄く力点が置かれているゲームなんですよね。具体的に言えばトイレのモーションとか。これホント。
 それだけに人を選ぶゲームではあるとは思うんですが、ハマる人はトコトンハマるかなと思います。具体的に言えば雰囲気に酔える人。で、あとは金勘定はしないで突っ切れる人と。この辺が重要じゃないかなと思います。


 アクション的な部分としてはやっぱりランカーとの戦闘が楽しいです。ザコ戦がモタつくのは、まぁ、多分捌き切れない自分の腕によるところが大きいとは思うので、これももっと操作に習熟したら華麗に敵を翻弄できるのかなぁとは思います。
 レスポンス自体は良好ですし、アクションも多様で使い分けが肝心となかなか熱いシステムですしね。アクションに没頭するにはロードが多かったりするのが難ではあるんですが、そのせいもあって長期戦になるランカー戦が楽しいのかなという気もします。
 とりあえずはそんなところで。