▼ドラクエ9の経験値の話

 最近、メタルキングだけが出没するフロアがある宝の地図が、すれ違い通信に乗って全国各地に大規模に広まっているそうですね。すれ違い通信を利用したアイテムのやり取りはどうぶつの森でもあったんですが、今回はレアリティのあるアイテムが爆発的に拡散するのが現象として面白いなぁと思っています。
 いやぁ、地元にも来ないかなぁとワクワクしてしまいますよ。というか、自分の場合、すれ違い通信のできる場所を探すのが先なんですけども。



 さて、今日はそんな話題に絡めて、ドラクエ9のちょっと惜しいなぁと思う箇所について触れてみようと思います。簡単に言ってしまえばそれは、戦闘の報酬のバランスがよろしくない、という点です。
 もっとも自分が残念に感じているのは主に終盤からクリア後のバランスであって、ゲーム本編の経験値カーブは非常に丁寧に調整されていると感じます。敵の強化と取得経験値に明確な相関性を与えて、プレイヤーに進行への強い動機を与えていますしね。


 ドラクエの経験値設定について語ろうとすると、メタルスタイムに始まるボーナスキャラの存在が欠かせませんが、今回のドラクエでは取得経験値が100を超える頃にその10倍の経験値を持つメタルスライムが登場、さらにゲームを進めると取得経験値が300を超える頃にその10倍の経験値を持つメタルブラザースが登場、さらにさらに取得経験値が1000を超える頃に(略)はぐれメタルが出てきます。取得経験値だけを比較すると、同地域のモンスターに比べて破格の経験値を持ったボーナスキャラではありますが、ご存知の通り、低いポップ率や高い守備力、そして逃げ足の早さ(!)で、バランスは保たれています。
 メタル系に有効な特技が多く用意されていることもあり、今回のメタル系モンスターは相当に効率よく倒すことができます。おかげで自分はかなりの時間をメタル狩りに費やすことになったんですが、一方でメタル系モンスターに拘らずに先に進んだほうが最終的には時間辺りの取得経験値は多かったりするんですよね。メタル系は効率的に倒すことはできても、ポップ率だけはなかなか弄ることができない(≒弄る方法もあります)ので、どちらかと言えば、より先のエリアで大量に沸く敵をテンポよくサクサクと倒した方が経験値も溜まりますし、ついでにお金も溜まります。
 この留まっても進んでもどちらでも効率的な経験値稼ぎが楽しめる絶妙な経験値カーブこそ、ドラクエ9が「ドラクエっぽくて楽しい」「普通に楽しい」と言われる由縁ではないかなと自分は思っています。どちらに進んでも正解なんですね。「損した気分にならない」んです。


 ところが、はぐれメタル出現以降、この経験値カーブは微妙に崩れてきます。強敵を倒してもさほど経験値は得られないし、一方でタフネスのインフレが起きて戦闘も長引き、時間当たりの効率も落ちてしまうと。
 あんまり効率効率と口に出すのも功利的過ぎてアレですけども、RPGに関してはかけた労力に対して適切な報酬が与えられることが「気持ちよさ」に繋がる側面があるので、普段は余り意識することのない効率性と成長のテンポについて突っ込んでいきます。


 個人的な感覚からすると、ドラクエ式のRPGでは、多くても戦闘10回につきLVUPの機会を与えないとマズい、と個人的には思っています。戦闘10回、と気軽には言いますが、戦闘を10回こなすのって実は結構面倒です。連続で5,6回も戦闘を繰り返すと大体飽きがくるもので、10回ともなるとちょっとしたクエストにさえなりますしね。
 裏を返せば、付近の敵グループの10倍の経験値を持つメタル系モンスターは倒せば確実に1回LVUPができる経験値が貰える、ということでもあります。これは偶然そうなっているのではなく、意識的にそうしているものでしょうね。
 メタル系モンスターを倒しても誰もLVUPしなかったら凄くガッカリするでしょう? それってつまり、メタル系モンスターを倒す=LVが上がる、という繋がりがパブロフの犬的にプレイヤーの脳に関連付けらているからなんです。だから、メタル系を倒してもLVが上がらない時は「そろそろこの狩場も潮時かな」とプレイヤーは自然と悟ります。メタル系モンスターの配置ってそういう意味では凄くよく考えられているんですね。



 さて、話を戻します。はぐれメタル出現以降、つまりゲームの終盤からは、そうした取得経験値バランスが歪んできます。取得経験値のカーブは頭打ちになり、敵は強くなれども経験値は増えない。LVUPは進まないと。
 こうなると結局はメタル系モンスターをずっと狩っていたほうが経験値を効率的に稼げるよになってしまうんですね。実はこれが凄くよくない。システムの特性も相俟って悪い方向にゲームを引っ張ってしまっているんです。


 ただ、これは次のLVまでに必要な経験値量がある時期から固定化されてしまうことも一つ理由としてはあります。従来のドラクエでは、LVUPと共に次のLVUPに必要な経験値量も増大していたんですが、今回はある時点(LV40くらい?)から固定化されてしまうので、下手に取得経験値を増やせない事情があるんですね。
 とは言え、プレイヤーの目から見て情報を得やすいのは戦闘終了時の経験値の方なので、どちらかと言えば、旧来の仕様、次のLVUPに必要な経験値量を二次関数的に増大させると共に、戦闘終了時に得られる経験値も増やす、という按配の方が気持ちよくプレイができたのではないかなとは思います。


 ドラクエでは敵から得られる報酬は経験値とお金の2種類だけです。他にドロップアイテムもありますが、MMOと比べると重要性は軽いです。
 ドロップアイテムが重要なモンスターはボスクラスのモンスターに限られていて、エンカウントモンスターの持つ多くのドロップアイテムはさほど入手に熱を上げる類のものではありません。というか、エンカウントモンスターのドロップに関しても、メタル系モンスターのドロップの方が魅力的だったりします。
 この経験値バランスにシンボルエンカウントが組み合わさると、メタル系モンスターを見つけたら戦って、それ以外のモンスターは全て回避する、というプレイングスタイルが最も効率的な形になってしまいます。効率を目指さないでも普通に戦えばいいじゃないか、と思っても、実はダンジョン深層の敵は下手なボス並に強力で、ボス戦のために消耗を避けようとするとやっぱり全回避が最も安定したスタイルになってしまうんですね。
 これって凄く刹那的というか、寂しいなと自分は思うんです。敵を避けて避けて避けてボスを倒して数パーセントのドロップに期待して、新しい地図を手に入れたらまた敵を避けて避けて避けてボスを倒して…… それってなんだか凄くルーチンワークに思えてしまうんです。


 それも詰まるところは、エンカウントモンスターの強さに応じた報酬が貰えないことが一番の原因で、それを指して自分は、ドラクエ終盤の経験値バランスはよろしくない、と言いたいんですね。ドラクエがずっと避けてきたはずの「損した気分にならない」をここで踏み外してしまっているんです。


 もっと言えば、敵と戦う楽しさの幅が狭い、とも言えるでしょうか。ボス戦は死力を振り絞ってぶつかり合う楽しさがあるんですが、そこに至るまでのリソース管理の楽しさが一切失われてしまっているんですよね。道中、エンカウントモンスターと戦うメリットが薄すぎてひたすら移動を繰り返すだけになってしまうため、プレイの密度もまた薄くなっているのではないかなと感じています。
 まぁ、スニーキングゲームと思えれば楽しいのかも…… 初代ロマサガを避けゲー気分で楽しんでいた自分もいるので感じ方は人それぞれだとは思うんですが。
 某ボスのように洞窟に入ったらもうボスの目の前、というのは機能的ではあるんでしょうけどちょっと味気なさ過ぎるかな、とも思います。やっぱり、結論としてはエンカウントモンスターと戦って「楽しい!」と思える何かが欲しいですね。


 今回のドラクエはかなりMMOを意識したシステムではありますが、一方で敵を倒すと経験値とお金が貰えるシステムは旧来のままです。例えば、お金の入手を(ある意味では流行の)素材入手に置き換えれば、各モンスターと戦う意味も生まれてきたのではないかなと思います。
 個人的に素材を換金するシステムは、お金を直接入手するシステムよりも回りくどいやり方だとは思っていたんですが、モンスターそれぞれのキャラを立てる、という意味では適したシステムなのかもしれないなぁ、と今回は思いました。
 まぁ、敵を倒して経験値とお金をゲットする、というわかりやすさがドラクエの魅力の一つでもあるので、そこを崩してまで……とは思わないんですけどね。




 余談ですが、FFが3以降、経験値とお金以外のリソース(3のジョブポイントとか5のABPとか)を設定したのに比べて、ドラクエは頑なにリソースの種類を増やさなかったのが堀井さん流の拘りに見えて面白いなと思っています。転職の幅を広げたドラクエ6ではどうするのかと思ったら戦闘回数自体をリソース的に扱うようにしてしまいましたしね。そして、今回に至っては各職業にそれぞれLVを設定してしまいました。
 まぁ、ドラクエ9だけを抜き出すと、単純にFF11に倣ったのかな、と見ることもできますけど、多分これからもドラクエは戦闘後のリソースは増えないんじゃないでしょうかね。