▼癸生川凌介事件譚 仮面幻影殺人事件をクリアしました

 このゲームはDS初期に発売されたADVで、知名度は低いんですがなかなか評価の高いソフトで「知る人ぞ知る」ゲームだったんです。なので前々から気にはなっていたんですが、今回ようやく念願を果たせました。遊んでみるとなるほど人に推したくなるゲームだなというのがわかりましたね。


 タイトルから想像できるように、このゲームは自分が探偵(の助手の助手)になって事件の謎を解く推理ADVです。FCの「ポートピア連続殺人事件」のような総当たり式で進んで行く比較的古風なシステムなんですが、題材としてネットゲームを取り上げているのが今風で、ネット上で起きた殺人事件と現実の殺人事件が互いに絡まって進行していく様はなかなか新鮮味がありました。
 単純に足を使って情報を集めるだけでなく、ゲーム内オンラインゲーム、ミスティオンラインにログインしてゲームプレイヤーからも情報を集めるのが他にはない風景ですね。DSの2画面を活用して上画面にはミスティオンラインの風景、下画面に実際にゲームを触っている自分たちの姿が映し出されているのは、いかにもそれっぽい感じです。
 最近刊行されたミステリって全然読んでいないものでそっちの界隈については無知も同然なんですが、このゲームはネットゲームの特性の妙味を上手く使ったミステリに仕上がっていて、ネットゲームを触ったことのある人にはスンナリと入り込める内容になっているんじゃないでしょうか。逆にネットゲームにあまり縁のない人、「アカウント」とか「アバター」とか「ログイン」とかの単語がピンとこない人にとっては、プレイヤーとキャラクターの関係性が掴みづらく、理解の難しい内容になっているかもしれません。
 ただ、逆にオンラインゲームをよく知っている人にとっては「そんなバカな!」的な設定もあったりします。推理MMOってのがそもそも苦しいなとか。


 メッセージの表示速度は自由に変えられて、テキストを読むのにイライラすることはなかったですね。快適な環境です。
 テキストは多少クセのある内容で、ベタな繰り返しギャグを多用するのが好みの分かれる部分かなと。とかく精神的にハイな人物が多い印象です。
 ミステリ的な分類をすれば、探偵は御手洗潔系の変人タイプで、事件の最初と最後だけ登場して美味しいところを掻っ攫う話です。そういうノリがわかっている人はそれなりに馴染みやすいとは思うんですが、そうでない人は先に拒否感を覚えるかもしれません。
 テキストは平易で簡明ですが、名前がクドすぎるのはちょっとどうなのかなと。なにせ主人公の名前「生王 正生」からしてゲームをクリアした今でもパッとは読めなかったりするので。
 ちなみにこのゲーム、シナリオライター生王正生さんで、主人公の名前も生王正生。主人公はゲームメーカー「元気」(このゲームの発売元)でアドベンチャーゲームを作っていて、そのネタ探しに探偵事務所を訪れる、という導入になっています。エラリー・クイーン的ですよね。


 あと、何気に音楽もいいです。具体的にどれかはわからないんですが、光田さんが何曲か担当しているそうで、しっとりとした曲が多くて雰囲気がよかったです。
 ADVって動きが少ない分、テキストと音楽の役割が非常に大きなジャンルなんですが、このゲームに関してはどちらも標準以上だと思います。雰囲気は凄くいいですね。


 ただ、トゥーンをかけたキャラ絵には結構クセがあって、人体のバランスが崩れているのが惜しいところ。初見では違和感バリバリだと思います。オープニングのアニメ絵はそれなりなので、モデリングがこなれていないのかなと。
 まぁ、適度に気の抜けたテキストとこの絵柄は案外マッチしていて、陰惨になりすぎないのはいいなと思います。結構グロいシーンもあったりするので、リアリティが過ぎると嫌すぎることになりそう。


 ボリューム的には8時間程度でクリアできるくらいですかね。基本的に総当たり式なので誰でもクリアできる作りではあるんですが、推理の選択を間違えると最終的に評価が下がってしまうので要所要所の緊張感はありました。
 あと、中盤〜終盤のあるシーンが凄く緊張感のある作りでよかったです。重要人物を足止めするためにオンラインゲームで相手の食いつく話題を選択するんですけど、何度もミスると多分ゲームオーバーになってしまうという…… 一発でゲームオーバーになってしまうと、「勘で選んでしまえ!」ってなりがちなんですけど、積み重ねがあると真剣になりますね。これは逆転裁判でもそうですけど。


 真犯人や事件の真相は割と読みやすいかと思います。自分が想像している方向にスムーズに流れすぎたので、じゃあもう一捻りしてくるんだろうな、的な。
 トリックはちょっと牽強付会というか、それは強引すぎるだろうというのが一点。仕掛けに面白さがある感じではないです。どちらかと言えば、複雑な人間関係と人間心理に焦点が当たっている話で、ネットゲームの特性からしてもそれがテーマなのは納得できるかなと。
 ただ、最終盤の種明かしのシーンが「犯人の語ることは以下のような内容だった……」から淡々と地の文が続いて終わってしまうのはちょっと好みじゃないなぁ。延々と自白が続くだけにしても、そこは犯人の口で直接語ってくれないと細かい情感が伝わってこないんじゃないかと思うんですよ。



 先週の東京の行き帰りにバスの中で遊んでいたんですが、帰りのバスでは、一日の疲れも忘れて一気にエンディングまで進めてしまいました。スタッフロールが終わってエピローグが流れるタイミングでちょうどトイレ休憩が入ってしまって、余韻を存分に味わえなかったのが残念だったんですが、裏を返せばそれだけ熱中できる内容だったということでもあります。
 誰にでも薦められる完成度の高さを備えた商品ではないんですが、ADV好きには一度手にとって貰いたいソフトではありますね。


 以下、拍手コメントへの返信です。




>ぺそたさん
 店頭体験会、結構な混雑振りと聞いていたんですが、触れましたか! 世界樹3ってやっぱり「新しくも懐かしい世界樹」ですよね。自分はまたFOEに遭遇していないので、どれだけボコられるかは凄く楽しみです。