▼豆と箸と片目と両目と3D

 皿に置かれた豆を箸で摘まんでもう一つの皿に移すという動作。箸運びの練習の一つですが、この動作、両目を開いて摘むのと、片目を瞑って摘むのでは全くもって難しさが変わります。当然ながら片目では豆との距離感がひどく曖昧になってしまうからです。


 宮本さんがE3の「社長が訊く特別編」で語った「3D空間では切り株の上に飛び乗るのが難しい」というのはまさにそれと同じだと思うんですね。実は自分たちが今まで見てきた3Dの表現は距離感を持たない「片目で見る3D空間」なんです。
 両目で見ても、片目で見ても、豆は豆。同じ一つのオブジェクトです。片目と両目で豆自体の本質は変わりませんが、与えられる情報は大きく変わります。ゲームもそれは同じで、ニンテンドー3DSの3D化とは、プレイヤーとオブジェクトの距離感を規定するための技術だと考えるのが一番自分にはしっくり来ます。
 「片目で見る3D空間」は、正直なところ不便です。豆を摘むだけでも四苦八苦が伴います。
 ですが、ゲームは気持ちよく目標を達成させなければなりません。豆を箸で摘むミニゲームを作ろうと思ったら、デフォの難易度で10個中9個は成功、あとは時間制限や突発要素で縛りを入れて難易度を徐々に高めていくような感じで、基礎的な操作に関しては意識の必要なしに成功する調整を求められます。
 その「簡単な操作」を実現するために、古今東西の3Dゲームでは多くの知恵と労苦が注がれてきました。ある意味では、それこそが3Dゲームの歴史と言っても過言ではないでしょう。
 豆を箸で摘むための様々な工夫。例えば、ボタンを押すと豆に照準がセットされるとか、箸が豆に近づくと箸が自動的に豆にくっつくとか、豆と箸の距離を数値で常時表示するとか、カメラをグルンと皿の真横に持ってきて奥行きではなく高さで豆との距離感を示すとか、まぁ、枚挙に暇がありませんが、そんな塩梅です。
 でも、それって3Dの奥行きを捉える命題に対する強引な解法ではあるんですよね。真夏に南極でコタツに入りながらアイスの冷たさに頬を緩ませるような回りくどさがあります。
 先日発売されたスーパーマリオギャラクシー2の「社長が訊く」では、特に「平面的な遊び」を強調していましたが、それは「片目で見る3D空間」の工夫の極みでもあり、同時に限界でもあったと思うんです。つまり、「凄いけどそれって3Dじゃないとできない遊びなの?」という。
 「片目で見る3D空間」には多くの不自由があります。今まではそれを対処療法で解決してきました。恐らくその極地の一つは、「片目で見る3D空間」の弱点である奥行きの問題を銃の射程で解決したFPSというジャンルでしょう。FPSは3D空間の魅力を存分に生かした優れたゲームジャンルです。
 しかし、ここにきて技術の成熟はFPSでも解決できなかった「片目で見る3D空間」の病理、潰しきれない不自由さを任天堂は根本的に加療しようと動き出しています。それこそがニンテンドー3DSの「両目で見る3D空間」の実現なんじゃないかと自分は思うワケです。


 凄くロマンチックな言い方をすれば、SFC以降、任天堂ニンテンドー64で3Dの入力方法を、バーチャルボーイで3Dの出力方法を根付かせようとして、入力方法だけが受け入れられる結果を導きました。新たな入力手段を得た3D空間は新鮮な風を世に満たしましたが、一方で初心者にとっては敷居の高い、ひどくいびつな世界を築いたようにも思います。
 それがここに来て、再び入力と出力と、双方が備わったバランスの取れた世界が生まれようとしています。おそらく3D表現を選択し、奥行きをゲーム性に持つゲームにとって、この選択はとてつもなく大きいものだと感じます。


 「両目で見る3D空間」が実現した場合、カメラの果たす役割は「片目で見る3D空間」よりも相対的に減少します。その結果がどう具体的に出てくるかと言えば、FPSの長所が薄れて接近戦主体の剣戟アクションゲームが伸びてくるんじゃないかなと自分は思っています。
 斬撃アクションをジャンル名に冠するレギンレイヴであっても、射程については神様の力を題目に目を瞑っていたんですよね。それはそれで正しい選択だとは思いますけども、もっと緻密な距離感の駆け引きができるアクションゲームが生まれるんじゃないかなーと思っています。
 そんなワケで接近戦もあるパルテナの鏡には個人的に期待しています。ただ、パルテナはタッチペンとアナログパットを同時に使う操作体系がちょっと敷居が高くないかな、という気もして。勿論、桜井さんも課題は認識しているとは思うので、どんな触感になるのか楽しみですね。